デザイナー、キュレーター、プログラマーなどいろいろな専門分野を持つメンバーによる「DDD Project」。今回採択された『視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新規ゲーム製作と環境開発』は、視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新たなゲームの製作と、開発環境およびインターフェイスの研究開発を目的としたプロジェクトです。

アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)

開発環境の共有、オープン化

ー初回面談には、プロデューサーの田中みゆきさん、ゲームエンジニアの野澤幸男さんに加え、インタラクションデザイナーであり、今回のプロジェクトのコラボレーターである岡田憲一さんが参加しました。

田中みゆき(以下、田中):もともと「DDD Project」としては、普段は無自覚な音をテーマにして、新しいコミュニケーション手段や空間認知の仕方を探ろうと、ワークショップなどを行っていました。そんななか、音だけで遊ぶ「オーディオゲーム」と、その開発者の野澤さんに出会い、これは私たちがやろうとしていたことを実現できるプラットフォームだと感じました。
これまではゲームショウなどのイベントを軸に活動してきましたが、イベントに追われるとおざなりになる部分もあります。より根本的に、オーディオゲームの持つポテンシャルを整理、体系化することや、ゲームを取り巻くコミュニティやネットワークの構築をしなければという意識がグループ内ではありました。
今回の支援を契機にそのあたりの拡充をはかりたいと思っています。なかでも一番重要視しているのは、いろいろな人が携わることのできる開発環境をつくることです。というのも開発は現状、ほぼ野澤さんのみで行っています。個人制作のようなかたちで、使用するソフトも固定していません。メンバーにはほかにプログラマーなどもいるのですが、なかなかゲーム開発の中核に関わることができていません。
それと並行して、オーディオゲームならではの魅力や可能性についてもより深めていきたいと思っています。オーディオゲームはおもに視覚障害のある方に需要があり、野澤さん自身も全盲です。たとえば、ビジュアルゲームを音に置き換えるという転換ではなく、見える人も見えない人も楽しめるような、音から発想する新しいゲーム体験をつくりたいのです。
これらの目的を達成するために、まずは、ネットワークづくりが重要と考えています。音響メーカーやゲーム会社の方などとつながりを持ち、一緒に考えたり開発したりできるよう、コンペティティブな場を設けようと思っています。

磯部洋子(以下、磯部):開発をオープンにするために、やるべきことは洗い出せていますか。

田中:まだ具体的にできていないのですが、見える人にとっては、やはりビジュアライズした方がわかりやすいのでは、という話はしています。ただ、逆に見えない人にとっては、例えばUnityなどのビジュアライズされ過ぎているソフトは全く使えないのです。

岡田憲一(以下、岡田):野澤さんがやりやすい方法をベースに、共有できるかたちを探りたいと思っています。

オーディオゲーム独自のおもしろみとその可能性

磯部:長期的なビジョンとしてあるのは、誰もがオーディオゲームを楽しめるようになることでしょうか?

田中:そうですね。特定の環境やマシンでしか再現できないのではなく、誰もがプレイしやすいような状況にしていきたいです。オーディオゲームがより普及して、既存のビジュアルゲームに対しても、「これって、画面いらないんじゃない?」という話が普通に交わされるようになったらいいなと思っています。

磯部:そもそも見えない人と見える人、それぞれにとって楽しいゲームは結構違うのではないかと思うのですが、今回チャレンジしたいのは、見える人も見えない人も楽しいオーディオゲームですよね。

野澤幸男(以下、野澤):確かに、そこに差はあります。ゲームを普段からする人としない人の差は、オーディオゲームの場合も同じです。オーディオゲームのコアゲーマーに人気のゲームを、見える人にもいきなり楽しんでもらうのはとてもハードルが高いと思っています。でも、見える人に寄せたゲームをつくるのではなく、インクルージョンできるラインを探っていきたいです。見えない人と見える人の共通の楽しみになって、それを話題に盛り上がれるといいなと思っています。

岡田:僕としては、オーディオゲームのプレイで目の当たりにした、見えない人の「聞く力」に注目したいと思っています。
敵の足音がする方角を聞き分けて反撃をする、というゲームがあります。普段、視覚を使う人たちには最初は全く聞き分けられない。ただ、繰り返して耳が慣れるとわかってくる。耳を鍛える訓練のようなプロセスを踏むと、ゲームのおもしろさが実感できるのです。
聴覚が鍛えられれば、現実世界にも還元されます。目の見える人にとってのオーディオゲームのおもしろみはそこにもあるのではないかと思っています。

磯部:自分の聴覚がどんどん研ぎ澄まされていくのはとても魅力的ですね。それはオーディオゲームの魅力としてクローズアップしていくといいと思います。

しりあがり寿(以下、しりあがり):『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』という暗闇を視覚障害者に案内してもらう体験があります。真っ暗闇の中で同じツアーに参加した人たちと協力し合ってゴールまで進んでいくのですが、そういうふうに、見える人、見えない人が力を出し合わないと勝てないような協働型のゲームはどうかなと思いました。
見える人と見えない人の世界がどれほど違うのか、同じことに取り組むことで初めてわかるものです。なんとなく考えたのは、遠くから外国語を話す人が近づいて来る。それがどこの国の人かを早押しで当てる、というクイズ。

磯部:回数を重ねたり、トレーニングしたりすることで、ある程度レベルが上がるというのは、継続のためにも重要なポイントです。あと、クイズなどの既存のゲームをベースにすると、ルールもわかりやすくとっつきやすいかもしれませんね。ベースが担保されているものだからこそ、音に注目してつくったときに、一般的なものとの差異が目立ちやすいでしょう。

しりあがり:番組になりそうですね。競技会を開催するのもいいかもしれません。

田中:個人的には、聴覚能力的なハードルは下げすぎないほうがいいとも思っています。野澤さんがつくった、学校を探検するようなRPGゲームがあるのですが、場面としては学校という馴染みのある景色のはずなのに、音の景色になった途端、自分がどこにいるのか全くわからなくなりました。あのオーディオゲームならではの衝撃は、大切にしたいと思っています。

ネットワークを広げるために

磯部:それは、とても魅力的なインサイトだと思います。ただ、ゲームとしての成果物の役割と、気づいた感受性、新しい世界の可能性は分けて考えた方が、多くの人に効率的に受け入れられるのかもしれません。オーディオゲームならではのおもしろさは、何か明文化するなどしてまとめていますか。

田中:まとめないと、という話はしています。というのも、開発者のネットワークを構築していくために、12月初旬にハッカソンを開催する予定です。そこで諸々の課題の再スタートを切ることができればと。なので、それまでに根本的な情報や課題を整理したいと思っています。
これまでのイベントで知り合った音響機器メーカーの方、ゲーム業界の方などに声をかけ、公募枠も含め20組程度のキャパでやろうと思っています。もうすぐ告知予定です。

磯部:なるほど。ハッカソンの冒頭にオーディオゲームについてのまとまった話ができるととてもいいと思います。
音響メーカーなども、開発に関わることで新たな知見が見つかるかもしれないとなれば、協力してくれるはずです。期間も期限も決まっているなかで、集中してコミットしてもらえる人、と考えるとちょっとハードルも高いですが、実際に、手を動かしてくれる人を集めたいですね。また、周知方法としてはほかにも色々あると思います。例えばゲーム業界の人がよく集まるお店に常設させてもらうと、色々な人に中長期的にリーチできますね。イベントだと、場所代や設置代もかかる上に、頻度が限られてしまいますが、体験型展示をやるとメディアに取り上げられやすいというメリットはあります。
ただそれだけだと「じゃあ自分もつくろう、広めよう」と能動的に動くところまでいきません。もう少し濃密なコミュニケーションの場を設定していかないと、広めるという目標に対する成果が出づらくなるのかなと思います。

田中:まずはハッカソンでオーディオゲームの可能性を伝え、多くの人と関わりが持てるよう、ベースを整えていきたいと思います。

ー次回の中間面談ではハッカソンを実施した後に見えてきたことを共有する予定です。