コンピュテーショナル・アート&デザインのリサーチと実践を中心に、領域横断的に活動する堂園翔矢さん。採択されたのは、宇宙科学・工学を専門とする衛星軌道設計の研究者との協働による、「軌道芸術」をテーマとしたプロジェクトです。テーマを軸にした映像音響インスタレーション作品の制作・発表に加え、プラットフォームの開発を通して、アーティストと研究者のネットワーク形成や新たなコラボレーション機会の創出を目指します。初回面談で話題になったのは、データをビジュアライズする表現で陥りがちな既視感をどう乗り越えるか、そして専門性の高いプロジェクトの面白みをどう広く伝えていくか。この二つがステップアップの鍵になりそうです。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/森田菜絵(企画・プロデューサー)

初回面談:2023年9月26日(火)

既視感をどう乗り越えるか

本プロジェクトは、2021年に多摩美術大学とJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究者らとともに立ち上げた「軌道芸術研究会 ORBITAL ART LAB」の活動の一環であり、堂園翔矢さんも所属する同研究会では軌道を描画するアプリケーションを開発するなど、すでに具体的な成果も生まれているといいます。制作予定の作品プランなどの説明を受け、アドバイザーの森田菜絵さんは、「データをもとにビジュアライズされた映像音響インスタレーションはこれまでもいろいろな作家が手がけていて、その美しさは想像できます」と評した上で、すでに堂園さんの過去作からも完成形がある程度見えているものの、そこに既視感が生じることへの懸念を示しました。堂園さん自身も、想定可能な完成形のさらに先を目指したいとし、ステップアップの意識を共有しました。

森田さん

軌道の美しさを異なる視点で捉える

堂園さんが提示した資料にはJAXAの研究者が軌道データをもとにビジュアライズしたサンプルもありました。もう一人のアドバイザー石橋素さんは、衛星や惑星の軌道データのビジュアライズは単調なイメージに収まりやすいため、異なる視点で捉える必要性があると言います。パラメーターと結果をセットで開示するなど、いくつかのアイデアの例示がありました。「JAXAの研究者がよく、この軌道は美しいという話をするのですが、美しさの線引きが気になっています。今、開示をお願いしているのは、研究者が美しくないと思う軌道データです」と堂園さん。「面白い問いかけ。そうして対話を深めていくといいと思います」と森田さん。

3Dプラネタリウムという可能性

作品の展示形態について、プランでは堂園さんにとって経験値があり想定しやすいという、床から壁にわたる空間全体へのプロジェクションを予定していますが、はたしてそれが最適なのか、さまざまなアイデアが交わされました。

アドバイザーから提案があったのは、3Dでの可視化です。「軌道のビジュアライズと聞いて、単純に3Dで見てみたいと思いました。日本の3D製品や技術開発は10年前に終わっていて、今3Dは停滞期ともいえますが、体験するとやはり面白いものです」と石橋さん。森田さんからは2007年頃から国内の数施設に設置されたという3Dプラネタリウムの話題が。あまり定着せずコンテンツも少ないながらも、「VRともまったく異なるすごくいい体験ができる。この作品にフィットしそう」とのアドバイス。作品の可能性がさらに広がります。VRは使ったことがあるものの、あまりしっくりこなかったという堂園さん。定着した展示手法をアップデートするきっかけになるかもしれません。

面談の様子

面白さを広く共有するには

堂園さんは、JAXAの担当者など関係者には同世代が多いためやりとりもしやすく、そこにはアートと科学が互いに求め合う良好な関係が築かれていると言います。「研究や制作に集中できる、素晴らしい関係性と環境です。ただ、関係者が何を面白がっているのかを外の人にもわかるようにしていかないと、どうしても先細りしてしまう。一般の人に無理に迎合した表現にする必要はありませんが、壁をつくらず、広く活動の魅力を伝える工夫は必要です」と森田さん。データのビジュアライズは、専門的で難解な内容をアーティストという翻訳者を介して、広く一般に届ける手段ともいえます。

石橋さんは「プログラミングやビジュアライゼーションという手段をもって異分野とコラボレーションすることが、堂園さんにとってとても価値があって面白いことなのだと思います。僕も近い感覚があるのでわかります」と共感を示します。その上で、やはりその面白さをどう他者と共有するかを考えることも重要とし、データのオープンソース化をその手段の一つとして提案しました。「軌道芸術プラットフォーム」の具体化に際して、多様な層に開く意識を持つことで、より広がりを持ったプロジェクトになりそうです。

石橋さん

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作品のプロトタイピングを進めながら、展示プランを再構築