身体の一部や日常的なモチーフによって感触を表現するアニメーションを制作している水尻自子さん。世界中の映画祭で自作が上映された経験を持ち、2021年制作の『不安な体』はカンヌ国際映画祭監督週間コンペティションでプレミア上映後、10を超える国際賞を受賞しています。そんな水尻さんの新作短編アニメーション『普通の生活 Ordinary Life(仮)』の展示版の制作が今年度の文化庁クリエイター育成支援事業として採択されました。これまで映画祭などでの上映形式で作品を発表してきた水尻さんにとって、未体験である展示での発表。その無限に広がる可能性や、海外での発表における観客の違いなどについて、アドバイザーとの意見交換が行われました。

アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

初回面談:2023年9月13日(水)

複数のモニターを使って展示がしたい

世界中でアニメーションの上映経験を持つ水尻自子さんは現在、短編アニメーションの新作の展示版を構想しています。インスタレーション形式で作品を発表しようと計画したのは、上映以外のアウトプットを試してみたいと水尻さん自身が考えていたことに理由があります。当初は鑑賞者とのインタラクティブ性も盛り込もうとしていたようですが、今は作中のビニール袋が複数のモニターを横切っていくようなかたちで、空間を生かした表現を考えていることが話されました。

それに対してアドバイザーの原久子さんは、展示ではモニターを横切るなど時間軸にのっとった動きを必ずしもする必要はないと言います。また、インスタレーション的に複数枚のモニターで展示することは現代美術では数多く試みられており、そのような展示に実際に足を運びながら構想を練るようアドバイスをします。同じくアドバイザーのさやわかさんは、並行して進めている『普通の生活 Ordinary Life(仮)』の短編アニメーション版と展示版との関係についてコメントし、「両者が同じゴールを目指すのか、それとも異なるゴールを目指すのか明確にした方が良い」と付け加えました。

原さん

想像とは異なる設置作業の難しさ

水尻さんが挑戦しようとしているインスタレーションという形式は「実際に設置してみるとイメージと違ったりすることもよくある」と原さんは言います。すでに完成している過去作を使うなどして実際に複数のモニターを使ってテストしてみることをすすめました。また、展示会場の模型をつくってシュミレーションする手段もあると伝えます。それに、大がかりなインスタレーションになればなるほど、一人では設置を完了させることはできません。さまざまな展示を専門的な技術で支えているインストーラーとチームを組む可能性も、面談中に浮上してきました。

面談の様子

展示形式での発表の経験が少ない水尻さんは、設置形式や作業時に起こりうる懸念点に関連するこれらの助言に対して、「短編アニメーション版で表現したいものをただ切り取って展示するのではなくて、身体性のことだったり、何をどう感じさせるかを考えていきたい」と前向きに応答しました。

モチーフが与える印象はどうコントロールすればよいのか

身体の一部や日常的なものの動きでアニメーション表現をする水尻さんですが、感触そのものを伝えるために選んでいるモチーフが、意図とは異なる受け取られ方をされる場合もあることをさやわかさんは指摘。「長い髪や指輪などが登場すると、女性的な作品として見られることもある」と鑑賞者の受け取り方について述べました。また、文化の異なる海外で発表する場合も、その点は考える必要があると続けます。さやわかさんは水尻さんが要素の少ない表現をしているからこそ、自らの描く対象を客観的に捉えなおすことで、表現に奥行きが生まれるとアドバイスを送りました。

さやわかさん

制作中の新作には、ビニール袋が登場します。水尻さんはその理由として、「映画『アメリカン・ビューティー』(1999)でビニール袋が、ありふれたものの美の象徴として登場しており、そこから引用するかたちで作中に引用している」と説明しました。しかし原さんからは、ビニール袋(レジ袋)の用い方によって、サステナビリティの観点からマイナスイメージになりかねないと指摘がありました。20年以上前の作品では、現代の感覚とは異なる部分もあり、モチーフをそのまま使えないのは難しいところです。一方さやわかさんは、同作におけるビニール袋は、米国における大衆文化への賛辞も含まれると映画での意味を示唆した上で、何らかのロジックを用意すれば、今つくるアニメーションにあえてビニール袋を登場させるのもよいのではないかとフォローしました。

→NEXT STEP
表現したいことが伝わるよう作品をブラッシュアップし、展示プランも具体的にする