映像と写真という二つのメディアを同時に扱うことで生じる新たな視点を模索し、また非物質的なメディアを触覚的に体験する表現を試みているネメスリヨさん。採択された『ONCE』は、食卓という誰もが日常的に繰り返す行為をモチーフにした、マルチスクリーン・タッチスクリーンを用いたインタラクティブな映像インスタレーション作品です。最終面談では、操作可能になったテストピースをアドバイザーが体験。インスタレーションとしての見せ方や、役者を起用する上での内容の詰め方など、本制作に当たってさまざまなアドバイスがなされました。
アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)
最終面談:2024年1月12日(金)
複雑なアンサンブルをどう効果的に伝えるか
テストピースと全体像の共有
最初にテストピースが提示されました。ブラウザに縦長の映像が表示され、一人の人物が食卓を前に動作を繰り返す姿が映し出されます。スクロール操作にともなって、映像内の世界が左右にスライドし、両隣にも同じように食卓を前に動作を繰り返す人物がいる様子が見えてきます。
「食卓に並ぶ家族、その後ろで季節を司る女性たちなどがいて、左から右へ、季節の移り変わりや誕生から老い、朝から夜など、さまざまな時間軸の変化を重ねて表現したい」とネメスリヨさん。一人ひとり別々で静止画を撮影・編集し、映像上で横長につなげる予定です。各々が異なる時間軸でループすることで、動作のタイミングが重なったりずれたりを繰り返す、「そのタイミングをコントロールするにあたって、スティーヴ・ライヒ(*1)のスコアを参照したい」と新たなアイデアも提示されました。また展示では、2〜4台のモニターを隣り合わせ、半円形に並べたエリアを4セット程度つくり、それぞれで異なるスピードを設定し同じ動画を流す予定といいます。
4セットに分けるのは効果的か
展示方法についてアドバイザー双方から疑問が投げかけられました。互いの重なりやズレが重要な本作にとって、そもそも連動しないセットが存在するのは非効果的なのではないかという指摘です。「連動しないのであれば、そこにも意味づけが必要」とさやわかさん。「一つのモニターで考えてしまっていて、空間全体でどう見えるか、まだ想像しきれていないところがあります」とネメスさん。
加えてさやわかさんからは、「左から右へさまざまな変化が起こるということだったが、全部が全部変化すると、ある意味そこに差異はない。ずっと変わらないものが一つでもあると、そのほかの変化が実感できるものです」と、変化を効果的に見せるためのアドバイスが。山川冬樹さんからは「例えば皿を置く音など、物音を使うと重なりやズレが伝わりやすいかもしれない」と、視覚だけではなく聴覚的にもアンサンブルをつくる提案がありました。
キャスティングのポイントは
登場人物には役者を起用する予定とネメスさん。テンポが重要なことや、食卓を囲む群像であることから、「ダンサーのグループや家族など、もともと互いに関係性を持っている人たちを起用することも考えています。動作やタイミングはある程度指定する必要がありますが、個性や関係性なども取り入れられたら」と話します。
そろそろキャスティングを具体的にしたいところですが、動きやタイミングの指定などに時間がかかっている様子。「キャストをまず決めてしまってもいいかもしれません。個性が見えることで決められることもあります。また全部を決めようとせず、ここだけは守ってもらう、というポイントを考えるのも一つの手」とさやわかさん。山川さんからは、一度自分で全部やってみるというアイデアも。「そうすることで、コントロールするべきところとしなくていいところの線引きがしやすくなる」。
支援事業内のゴールの設定
3月末までの限られた支援期間の中でのゴールを見定めることは、予算や時間を効果的に使う上でも重要です。アドバイザーや事務局からは、展覧会の開催にこだわらず、プレゼンテーション用の記録映像を撮ることをゴールにするやり方や、また招待制のデモンストレーションの場を設け、意見をくれそうな方々に見てもらうなどの考え方が例示されました。
さやわかさんは「単純なひとつながりの横長の映像ではないことを、どう伝えるかが重要」とアドバイス。山川さんは「ライヒのスコアを参照する試みはとても面白い。しかし本作には作曲のような側面がありながらも、音楽的時間軸にとどまらない多層的な時間軸があると思います。これまでにない新しい作曲方法を生み出しながら、演出もするという大変な作業です」と、ネメスさんの挑戦が豊かな時間芸術に昇華されることを願い激励しました。
TO BE CONTINUED…
支援期間中のゴールを定め、キャスティングを具体化
*1 ミニマル・ミュージックの先駆者として知られるアメリカの音楽家。初期はリズムを徐々ににずらしていき楽曲を構成する「フェイズ・シフティング」という手法をとっていた。