山形一生さん、ひらたとらじさんが2021年に制作をスタートしたビデオゲーム作品『Farewells』のプロローグ(序章)の完成を目標にしたプロジェクト。『Farewells』は主人公の生活と、主人公がプレイするビデオゲームを両方操作することで物語が展開されます。自室でビデオゲームに熱中する主人公は、戦闘ゲームや携帯型ゲームなどいくつものゲームをしながら同じ家に住む家族と関わっていきます。「ゲーム内の現実」と「ゲーム内のゲーム」が入れ子状に重なる構造の中、プレイヤーはさまざまな「Farewells(=別れ)」に出合うゲームです。プロローグ完成の目標は2024年12月。最終面談では現状の報告と今後の展開について話されました。
アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/米光一成(ゲーム作家)
最終面談:2024年1月16日(火)
ゲームのなかでゲームをする主人公の物語
丁寧に制作された20分の1
山形一生さん、ひらたとらじさんは、Miro(オンラインホワイトボードサービス)を使った制作過程を披露し、作品の試作を映像で流しました。冒頭の戦闘ゲームのあと主人公の家に場面が変わり、家族が登場したり、主人公が新しいゲームをスタートしたり、といったところまで完成しました。この時点でのプレイ時間は作品全体のおよそ20分の1である5分ほど。前回の面談から物語がさらに展開された様子に「かなり進んでいる」とアドバイザーの石橋素さん。米光一成さんも短いプレイ時間のなかで場面の展開も多く、膨大な制作時間がかかることにうなずきました。
制作過程の資料から、アドバイザーは主人公と家族構成に着目。母や祖父母が出てくる想定で、特に祖父母は主人公を助ける存在として描かれていきますが「典型的な家族構成を単に模倣したのではない、リアリティやオリジナリティが重要だと思う」と米光さん。山形さんとひらたさんも同じ考えで、キャラクター設定や主人公と家族の関係性については、できるだけ自身の経験やリサーチに基づくリアリティを重視する予定です。
家族の描き方とインタラクション
一方、母親は「ヒステリックな面もあるが明るい性格」というキャラクター設定です。石橋さんが「キャラクター設定は面白い。家の中の空気が少し荒れているように描いているのは意図的か」と冒頭で家のなかが散らかっている様子に注目。山形さんは冒頭のシーンではプレイヤーの興味をひきつけるために「あえて何か問題があるように描いている」と答えました。
またそのシーンについて従来のRPGゲームとは違うアプローチを試みています。これまではNPCキャラクターなどと会話する際、話したい人物の前で決定ボタンを押すことで会話が行われることが多かったといえます。しかし本作ではそのように会話は行われないとのこと。「椅子に座る、物を拾うなどのインタラクト(作用)を通じて会話が突然差し込まれる。会話したいキャラクターの前でボタンを押すというのは、キャラクターの自律性を損なうと考えています」と山形さんは説明しました。
全体の構想については1年半前につくったプロットをもとに進めていく一方、実際につくりながら変更している部分もあるといいます。ひらたさんは「家族の話だけに絞りたくはない。ゲームの体験に付随するかたちで家族との物語も絡めていけたら」と今後の展開について話しました。
「Farewells」とは?
本作のタイトルにもある「Farewells」とは日本語で「別れ」という意味。複数形であることから、別れが一つではないことを示唆しています。「プレイヤーは、ゲーム内のキャラクターに対して『愛』や『憐憫』を真剣に想う一方で、ゲームプレイの損得に応じてキャラクターをデータとして冷徹に扱うことも行います。その歪な狭間でキャラクターとプレイヤーの絆は育まれていきます。その育みを熟成しながら、寂しさや別れを与えたい」と山形さん。『たまごっち』などの育成ゲーム全般は、キャラクターがいなくなる寂しさを持ち合わせているため、それらのアレンジにとどまらず「特にラストシーンを企む必要がありそう」と米光さんは伝えました。
2月の成果プレゼンテーション展では作品内に出てくる主人公になぞらえ、家で床に座ってゲームをしているようなインスタレーション展示を想定。体験版をプレイできるようにするかは悩んでいますが、「ぜひプレイできるようにしてほしい。自分の子どもにも遊ばせてみたい」と期待する石橋さんに、「子どもにも遊んでもらってどんな反応になるか知りたい」と山形さんは答えました。「つくり手側にとっても予想がつかない面白いことが起きる可能性が高い。とにかくがんばってください」と米光さんもエールを送りました。
TO BE CONTINUED…
まずはプロローグを完成させ、その後も全編の完成に向けて制作を続けていく