品種改良種、自然物、河川、人工知能といったモチーフを通して、自然と人為の境界への関心に基づく制作を行う石橋友也さん。採択されたのは、荒川水系の川辺で採集したゴミや自然物を素材に顕微鏡を制作し、その顕微鏡で荒川水系の水を観察するというプロジェクトです。石橋さんはまず素材採集のフィールドワークと、顕微鏡の自作についてのリサーチを進めてきました。興味深いリファレンスが多数見つかる一方で、「無限リサーチに陥ってしまっている」という懸念が語られます。多様な切り取り方ができる本プロジェクト、アドバイザーからは、可能性を絞るためにも、石橋さん自身が手を動かすことの必要性が説かれました。
アドバイザー: 石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/森田菜絵(企画・プロデューサー)
初回面談:2024年10月8日(火)
リサーチから、手を動かすことへ
フィールドワークとリサーチ
これまでは素材採集のフィールドワークや顕微鏡制作についてのリサーチに重きをおいてきたという石橋さん。「ゴミは想像以上に大量にあるため、今はある程度キュレーションし、川辺のゴミらしさを持つもの(古びたコカ・コーラの缶など)や実際に顕微鏡の素材として使えそうなものを優先的に拾っている」と言います。そのまま使えそうなレンズが落ちていることは稀で、ガラケーなどからレンズを取り出せる可能性の方が高いようです。
顕微鏡を自作することについては、原始的なつくり方や科学教室などで紹介されているつくり方などをリサーチしています。水の表面張力を用いた「水レンズ式」、17世紀に発明されたシンプルな構造による「単式/レーウェンフック式」、現在の一般的な顕微鏡のイメージに近い「複式」の3種類があることを紹介。「ワッシャーなどが拾えれば、水の表面張力によるレンズはつくりやすいため水レンズ式がつくれる可能性は高い。川の水をレンズにできたらコンセプトとしても面白そうだが、倍率の低さがネック。レーウェンフック式もつくりはシンプルだが、レンズになる小さなガラス球をどうつくるかが問題」と、可能性とともに課題も見えてきている様子です。
目的とオリジナリティ
実制作については、まずは入手しやすいガラスビーズやペットボトルを用いるキットで実験をしたとのこと。自作の顕微鏡で見えたものを画面で共有しながら、「このように実制作も試みてはいるものの、現状はリサーチのウエイトが大きく、無限リサーチに陥ってしまっている」と石橋さん。
アドバイザーの森田菜絵さんからは、「制作過程で石橋さん自身が思考することが重要なのか、何かを実際に見ることのできる顕微鏡をつくることが重要なのか」と、プロジェクトの目的を再確認する質問が。石橋さんは「人為と自然が入り混じった循環を描きたいと思っていたが、実際に歩みを進めてみると、たとえばトーマス・トウェイツによるトースターを原材料からつくるチャレンジのような、体当たりDIYの様相を帯びてきた」と、当初の想定と実際との差異に戸惑いを感じている様子です。
アドバイザーの石橋素さんは、「展示の仕方で受け取られ方が変わる。たとえば、顕微鏡を通して見えたものの記録写真だけでも展示は成立するかもしれない。他の選択肢もあるなかで、顕微鏡をつくろうとしているのがこのプロジェクトのポイント」と、プロジェクトのオリジナリティを見出して展示のイメージを具体的にすることの重要性を説きます。森田さんからは「このプロジェクトの重層性を伝えるには、鑑賞者が自分の目で顕微鏡を覗く体験も重要では?」と、実体験から伝わる情報量の多さが補足されました。
期間を決めて手を動かしてみる
「今後は実際に顕微鏡をつくるフェーズに入りたいが、造形の経験値が少ないのが懸念点」と話す石橋さん。アドバイザーの両者からは、激励とともに、みずから手を動かすことの重要性が説かれました。
石橋素さんは「クイック&ダーティというスタンスも大事。1日など期間を決めて、その間とにかく手を動かしてみては」と、手を動かすことに集中するコツをアドバイスしました。森田さんは「手を動かす実践と、リサーチをもとに科学史をなぞる行為、両方を行き来する経験から見えることがあるはず」と、多角的なアプローチを作家の視点で繋ぐことへの期待が示されました。
天文学や望遠鏡のリサーチをしているという森田さんは、「光学レンズなどにも用いられているレアアースが、宇宙との循環の要素を持っていると知って感動した。石橋さんのプロジェクトはその地球版なのかもしれない」と、別の視点からこのプロジェクトを相対化しました。石橋さんもその点には気づきがあったようで、「素材を川から拾わなくても循環は語れるが、川の水を覗くという点は気に入っている」と話します。森田さんも「地元である自身にゆかりのある川の支流、というのがまたいい」と賛同しました。
→NEXT STEP
リサーチをもとに手を動かす時間をもち、中間面談に向けてプロトタイプを制作する