CGクリエイターとして、巨大都市ナイトシティを舞台にしたオープンワールドゲーム『サイバーパンク2077』などのヒット作に関わった経験を持つ榊原寛さん。さまざまなゲームの背景を手がけてきた榊原さんが個人として開発を進めている『歴史の終わり』は、架空の中世封建時代を舞台としたサンドボックス型戦略RPGです。「Mount & Blade」「Crusader Kings」「Kenshi」「太閤立志伝」といったシリーズにインスピレーションを得た本企画は、プレイヤーはその世界の一人の人物となって自由に行動し、それが多数のNPCの思惑と交錯することで一度きりのストーリーをユーザに体験させることを目指します。しかし完成までにはイラストレーション発注や設定をフィックスしていく必要があり、スケジュール上の課題を中心に初回面談では話し合われました。
アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)
初回面談:2024年9月27日(金)
終わりのための工程表
「歴史の終わり」の概要
開発が目下進行中の『歴史の終わり』は4つの特徴を持っていると榊原さんは述べます。
1)つくり込まれたマップの美麗さ
2)王にも盗賊にもなれるプレイの自由度
3)多数のNPCの思惑が絡み合うことによって生成するプロシージャルな物語
4)世界征服だけが目的ではない選択におけるジレンマ
の4つです。架空の中世世界でプレイヤーは国同士で争い、殺人や仇討ちがNPC同士で行われるなかで「歴史」が紡がれていきます。
面談では開発途中のゲーム画面を榊原さんが実際にプレイしながらの説明が行われました。NPCに話しかけることもでき、家族設定や年老いていくと自然死が起こることなど細かな設定やイベントが発生することが紹介されました。
世界観のモデル、タイトルの引用元
こうした一連の概要説明を受け、アドバイザーのさやわかさんはゲームの世界観について背景のグラフィックにリアリティーがあることを指摘し、具体的な世界設定の有無について問いかけます。それに対して榊原さんは「ゲーム内には3か国あって、関係が反映されています。プレイヤーには自由に進めてほしいので、イベントの端々からこの世界がどういうものか漠然と感じられるぐらいにとどめています」と応答。さやわかさんはその中世的世界観を「行ったことないけれどもノスタルジーを感じる」ようなものであると述べ、さらに作品タイトルについてもなんらかの含意があるのかを質問します。
榊原さんはタイトルに強い含意はないと前置きしながら、フランシス・フクヤマの著書『歴史の終わり』から取っていることを明かします。理由として「人同士がひたすら争っていく先に、どういう結末があるのか。それをプレイヤーがいろんなパターンで試して、世界を征服するのか、和平を目指していくのかとかの着地点を探っていくゲーム」であることをあげます。
このように面談では世界観に関して一連の対話がなされましたが、さやわかさんは地政学的条件が国力を左右することや、季節の変化、川など自然の要素がナラティブに関わってくることなどについて質問、提案を投げかけ、その世界観にさらなるつくり込みの余地を指摘しました。榊原さんはこれらに対し「パラメータの調整で対応出来るところは試してみたい」と刺激を受けた様子でした。
生成AIをどう使うか
『歴史の終わり』は榊原さんが主導して開発が続けられていますが、完成に向けイラストレーションを外注する必要があり、話題になりました。現状では生成AIをキャラクターに使用しており、成果発表イベントまでには数十人、最終的には100人以上のキャラクターのイラストレーションを発注する予定だそうです。
今年に入りSteamもAI技術を使用したゲームの大半がリリース可能になったものの(法的に問題がなくても)コミュニティ内でAIの使用に関してはまだまだセンシティブな状況であることをさやわかさんは指摘し、同じくアドバイザーの原さんもそれに同意します。
続けて原さんはその上でどのようにイラストレーターを探せばいいかという榊原さんの相談に、最近の若手はインスタグラムを積極的に活用していると応答しつつ、海外の人も視野に入れ探すのはどうかと付け加えます。さやわかさんも新しいイラストレーションの傾向を探すのにインスタグラムは向いているとし、pixiv(*1)だけではない選択肢の可能性を提示します。これらを受け榊原さんはマンガ・アニメ的デフォルメがありつつも重厚なキャラクターという自身の求めるイメージを描けるイラストレーターに声を掛けていきたいと述べました。
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作品イメージに適したイラストレーターを探す
*1 イラストやマンガ、小説などの創作物を投稿・閲覧できるイラストコミュニケーションサービス。登録ユーザー数は2024年時点で1億900万人以上。