デザイナー、キュレーター、プログラマーなどいろいろな専門分野を持つメンバーによる「DDD Project」。今回採択された『視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新規ゲーム製作と環境開発』は、視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新たなゲームの製作と、開発環境およびインターフェイスの研究開発を目的としたプロジェクトです。
アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/
しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)
対象を限定しない、オープンな会場を選びたい
―最終面談には、プロデューサーの田中みゆきさん、ゲームエンジニアの野澤幸男さんが参加しました。さまざまなオーディオゲームを一堂に会した『オーディオゲームセンター』の進捗から報告します。
田中みゆき(以下、田中):『オーディオゲームセンター』の開催は2020年5月以降を予定していますが、一番の問題はまだ会場が決まっていないことです。ゲームショウのように、多種多様なお客さんが訪れ、意図しない出会いが生まれる場所で実施したいと考えています。エリアとしては、ゲーム文化の土壌のある秋葉原から探しましたが、候補に挙がった場所は5階にあるなど、どれもふらっと立ち寄れるオープンな雰囲気ではありませんでした。会場全体の音響をデザインする専門家にも入ってもらう予定ですが、場所が決まらないことには設計もできず、話がまだ進められていません。
磯部洋子(以下、磯部):1階にあり、広めのレンタルスペースは、秋葉原にはなかなかないですよね。
田中:秋葉原にこだわらず、中野ブロードウェイなども検討したのですが、広いスペースがありませんでした。音の干渉のことも考えると広さがないと難しいのです。引き続き探す予定ですが、良い場所があればぜひ教えてください。
見える人のつくり方、見えない人のつくり方
田中:製作中のゲームについては、野澤さんから話してもらいたいと思います。
野澤幸男(以下、野澤):僕が所属するチームでつくっているのは、交互に駒を置きながら対戦していく、将棋のようなイメージのゲームです。縦横に4マスずつ、計16マスの盤面上で、移動する自分と相手の位置を、音声で把握しながら陣地を広げ、どちらが先に相手の陣地のマス目に自分の駒を到達させるかを競います。
それをベースに、ステージによってテーマを変えます。例えば戦国時代をテーマにしたステージでは、将軍の指令により伝令が敵軍を確認しに行き、戻ってきて、「3歩先に、敵の兵がおります!」と伝える。かたや、潜水艦をテーマにしたステージでは、ソナー音(潜水艦の超音波発生装置の音)を頼りに敵の魚雷の位置を探り、迎撃していく。ルールは同じでも、音が違うだけで世界観が変わることがポイントです。戦国時代をテーマにしたステージは、声を声優さんに依頼するなどして、世界観に没入できるつくりにしたいと考えています。
田中:開発の過程で気づいたことや考えたこともお願いします。
野澤:メンバーがそれぞれ、自分がつくったプロトタイプを持ち寄って、あーでもない、こーでもないと言い合う会をやりました。僕は全盲ですので、ゲームのプロトタイプを音からつくり始めます。対して、晴眼者である僕以外のメンバーは、最初に画面をつくります。ビジュアルゲームとして視覚情報をある程度整えてから音をつけますが、僕は音がないと共有できないので、メンバーがつくっているゲームに、途中でも音をつけようとします。するとメンバーは「音の情報量が多すぎるなあ」と言い出します。「画面が見えればプレーできるんだけど……」という議論が毎回発生して、「最初から画面をつくらなければいいのに」と僕は言います。見える人と見えない人の製作過程の違いがおもしろいし、難しいという気づきがありました。
磯部:とても興味深いです。製作過程のリアルタイムドキュメンテーションなどもできるといいですね。そのアーカイブが、「DDDプロジェクト」のウェブサイトのコンテンツになり、活動の深みにもなると思います。プロジェクトの趣旨としても開発のプラットフォームづくりを挙げていますし、制作に入れ込みすぎてサスティナブルに価値を残す活動が疎かになってしまうのは、もったいないですね。
田中:そうですね。近日中に、クローズドで各チームの開発したゲームの体験会を実施しようと考えているので、その記録は撮ろうと思います。リアルタイムは叶いませんが、振り返りの場を設けてその記録を残すこともできそうです。
ゲーム業界や音楽業界からの視点をインタビュー
磯部: 今年度末の成果発表はどのような内容になる予定でしょうか?
田中:2019年12月に開催したハッカソンの様子をはじめ、活動紹介の映像展示を考えています。加えて、中間面談でもお話をした、インタビュー映像を流せればベストと考えています。「オーディオゲーム」という分野が、ゲームや音響業界にとってどのような価値を持つのか、音で勝負をしているさまざまな分野の方へのインタビューです。小島秀夫さんなど第一線で活躍するゲームデザイナーや、若手で実験的な活動を行っているアーティストに打診したいと思います。彼らに打診すること自体が挑戦でもありますが、『オーディオゲームセンター』では、いくつか公開したいです。
野澤:僕が個人的に小島秀夫さんのゲームが大好きなのですが、彼のつくるゲームは、音だけで何が起こっているのかがほぼ分かるんです。音でプレーするオーディオゲームとはまた違う在り方ですが、ハイクオリティな音響がつくられています。
磯部:成果発表の会場は人通りの多い場所ですし、そのような著名な方々のインタビュー映像も見られるなら、通りがかりでも興味を持って見てくれる方もいると思います。後々のゲームセンター開催の際も、トークショーなどを行うとしたら、ゲームの音づくりの専門家をゲストに招くことができれば、ゲーム業界の方を巻き込んでいきやすいですよね。コンシューマーゲーム機をつくっている会社には、サウンドエンジニアリングの部署があり、長年そこで音をつくり続けている方もいます。単発のインタビューやトークであれば、都合をつけて来てくれるのではないでしょうか。
あとは、ゲーム系のメディアにタイアップを打診してみるのはどうでしょう。取材してもらって、記事になればそこからまた広がります。
だれに向けて、どのように発信するか
しりあがり寿(以下、しりあがり):『オーディオゲームセンターの』打ち出し方としては、どのようなイメージでしょうか。例えば、「耳自慢集まれ!」と打ち出せば、目が見える・見えないは関係なく、聴覚に自信がある人が勝負することになります。その上で、上位に入った方たちの多くが目の見えない方たちだった、という結果が自然に出てくる流れなのか、あるいはより直球に「目が見えない人と一緒にゲームをプレーしてみませんか」という打ち出し方をするのか。やり方はいろいろありますよね。
野澤:「耳自慢コンテスト」のイメージの方がチャレンジングでおもしろいと思います。絶対音感がある人とかでもいいわけですよね。目が見えない人の聴覚能力にあらかじめフィーチャーする趣旨のイベントは、ブラインドサッカーなどでもたくさん行われていて、すでにわかりきったゴールなので、それを『オーディオゲームセンター』のゴールとして設定する必要はないと思っています。
しりあがり:区別はせず、延長線上に目の見えない人もいるイメージがいいのでしょうね。
磯部:以前、会場のサインの話をしましたが、「オーディオゲームセンター」という言葉でのイントロダクションもつくりたいですね。
田中:そうですね。ジングルなどもつくりたいと思っていますが、ゲームも含め、必要な音声を全て声優さんに依頼するとなると、予算的な問題も出てきます。演技力を要する部分とそうでない部分で、ある程度分けて考えるべきかと思っています。
磯部:そういった要素は、付加的な部分ではありますが、ゲームの世界観や質を左右する大きな要素ですし、おもしろさは細部に宿るとも言われています。ゲームアプリの『パズル&ドラゴンズ』なども、指で画面をシュッとなぞる、その体感の気持ちよさが肝ですし、音も同じです。目の見える人を作品に入り込みやすくする要素にもなるので、こだわってつくっていただきたいですね。
田中:ゲームの枠組みができた後に、そこをしっかりと詰める機会を設けないといけませんね。メンバーが全員で集まる機会を設けて取り組みたいと思います。
―成果発表に向けた準備や、『オーディオゲームセンター』の会場探しなどを進めます。