まちだリなさんは『飛行する野菜人間(仮)―もどかしい身体のための実録』の制作を通じて家族の喪失と向き合い、作品にしようと構想しています。こうした挑戦をどのようなアプローチで実現するのか。初回面談では発表形式やアニメーションの作画、音響など各要素について話し合われ、さらに作家の新たな試みでもある3DCGの活用について、アドバイザーが作品コンセプトを踏まえた助言を行いました。

アドバイザー:庄野祐輔(編集者/キュレーター/デザイナー)/モンノカヅエ(映像作家/XRクリエイター/TOCHKA)

初回面談:2025年9月4日(木)

喪失から出発して

まちださんは自身の経験と深くかかわっている今回の企画テーマを「おそらく自分がずっと背負っていくもの」と説明します。そして、体の筋肉が徐々に動かせなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)で家族を失った経験を「アニメーションを作ることと相反するところがあった」と述べ、次のように続けます。

「動かすことによって魂を与えるのがアニメーションと言われていますが、私は動けなくなってしまった家族がそれでも生きようとしている状況に直面したんです。そうした経験をアニメーションにして、私の身体を通した痕跡や自分の振る舞いを『ドキュメンタリー』として差し出すことを考えています」
続けてまちださんは、わかりやすい物語構造をつくらず、絵コンテを描かないで即興性を重視すること、明確なセリフを使用しないこと、3DCGの活用と音響によってこれまでとは違った作品を目指すといったアプローチに加え、本も制作予定であると話します。また、作品のイメージについては「3DCGで一つの動作を繰り返すワンカット映像を作成し、それを踏まえながらアナログで作画をしようと思っています」と述べます。

面談でプレゼンテーションされた作品イメージ

動かなくなってしまうアニメーションの可能性

それに対してアドバイザーのモンノカヅエさんは、およそ1時間とされる作品時間をどのように演出するのか質問します。まちださんは「終わりに近づくにつれフレームレートが徐々に落ちていって、最後は静止させる予定です。具体的には決めていないのですが、音はなにかのフレーズを反復させようかなと考えています」と答えました。
これに応じる形で同じくアドバイザーの庄野祐輔さんは「動きが失われるということはある種の反アニメーションというか、アニメーションで価値とされたものから離れていくということだと思うので、その時にどういった表現できるのかは難しいものがあると思います」と課題を示唆します。
まちださんは、タイの映画祭「SIAM anima」でのプログラムキュレーションにおいて、古澤龍のサイレント作品を上映した際、かつて音のなかった映画というメディアの根源を見出し、むしろ「動かないこと」によってそれまでの価値観から一歩外に出ることで、アニメーションの可能性を広げられるのではないかと庄野さんのコメントに応答しました。

モンノさん

身体へのアプローチ

続けて議論にあげられたのは、アナログ作画のレファレンスとなる3DCGがどのようなものになるのかということでした。
モンノさんは、メディウムにこだわりすぎず柔軟なアプローチがあってもいいと伝え、さらにテーマである「もどかしい身体」はどのように演出するのか問います。それについてまちださんは、一人称視点の映像をあえて自分が不慣れな3DCGで作成することで、それは表現できるのではないか、と見通しを語ります。

モンノさんは一人称であることが重要なら実写でも撮影可能なことや、実際に体の不自由な当事者の方とコラボレーションをすれば嘘がないのではないかと提案しますが、まちださんは身体性の再現を目指しているわけではないと話します。
庄野さんは企画の趣旨に理解を示し、身体をどう扱うかについてしっかり判断する必要について述べながらも、「思いつく限りのアイデアを実験してみるのもいいし、トライしないと分からないこともある。パフォーマンス表現でどんなものがあるかリサーチしてみるのも良いと思います」と煮詰まってしまわないように注意を促しました。

庄野さん

その後もまちださんが現状で想定している作品イメージについて意見交換がなされ、展示だからこそ可能なアニメーションの可能性などが話されました。即興的に進められる制作のため、アドバイザーの2名もそのポテンシャルを損なわないよう意見を交わす様子が印象的な初回面談でした。