これまでに言葉の使用と人間の身体性に関わる作品を制作してきたアーティストの眞鍋美祈さん。作品を通して「誰もが体で楽しみ考えることのできる体験」の創出を目指す中で、今作は「視覚」と「触覚」の関係に着目します。近くで見たり見られたりする時に“触覚”を伴って感じられることがあるのはなぜかという問いを発端として、距離があってもその感覚を再現できるかどうかを探りながら作品化します。最終面談では各作品の進捗が報告され、展示の際の作品テーマの伝え方について議論しました。
アドバイザー:米光一成(ゲーム作家)/西川美穂子(東京都美術館学芸員)
最終面談:2026年1月16日(金)
言葉やビジュアルで、連作のテーマを伝える
感覚を増幅させて表現する
実験を続けながらプロトタイプや実制作を進めている眞鍋さん。成果発表イベントでは連作として4作品を展示する予定です。
『作品2:私の視点と少し遠くの人の視点』(鑑賞者の視線を光で触覚化する作品)はデバイスを制作しているところです。デバイスはヘルメット型で、瞳孔の筋肉をデザインのモチーフにしています。前方から出る光は、装着者の目の動きに合わせて方向や範囲が変化。遠くを見ているときは広がり、近くを見ている時は狭くなります。眞鍋さんは、自宅などでこのデバイスを用いた実験を行い、絵や彫刻を鑑賞してみました。「広い空間で試すと、瞳孔の大きさが変化したり動いたりして感情を表現することが、さらに遠くまで広がったという感覚が得られた」と眞鍋さん。
アドバイザーの米光さんもデバイスを装着し、光の動きを確認しました。また、西川さんは展示の仕方や対象を見る距離について尋ねました。


成果発表イベントでは映像で展示する予定ですが、将来的に体験型の展示をしたいと考えている眞鍋さん。対象を見る距離の設定を決めかねていると話します。「距離が離れれば離れるほど光がどんどん大きくなる中で、どういうふうに光の違いを感じてもらえるようにするのがいいか」と話しました。米光さんは「実際の感覚より極端にしないと、鑑賞者にその違いが実感できないかもしれない」と伝えました。眞鍋さんは、自分の感覚よりも大げさにして、その違いを意識できるようにしたいと話しました。
空からの視点をつなぐ可能性
『作品3:私の視点と空の上の人の視点』(飛行機を眺める視線と飛行機から地上を見る視線を結び付けるスマートフォンアプリ作品)は、アプリの開発を進めています。デモ画面を見ながら面談を行い、アプリの仕組みやこのアプリで可能になることなどについて意見を交わしました。


アプリの画面には、近くを飛んでいる飛行機の便名の一覧が表示され、選んだ飛行機から撮られた写真を見ることができます。過去に撮った写真から検索できるほか、今後、リアルタイムの写真でも検索できるようにする予定です。「撮影してすぐ検索できるようになれば、視線がつながった感覚を提供できると思う」と眞鍋さん。引き続きアプリの開発を進めていく予定です。
そのほか、『作品1:私の視点と私の隣に寝そべる人の視点』(動画生成技術を用いた映像によって見る側と見られる側の逆転を体験させる作品)と『作品4:私の視点と月にいる人の視点』(月で自転車をこぐことと地球から月を眺めることを再現する装置を使い、月の満ち欠けをテーマに触覚を伴う視覚を体験させる作品)は展示の準備を進めているところだと報告されました。
鑑賞者へのテーマの伝え方を考える
成果発表イベントでは、連作の4作品をインスタレーションや映像、グラフィカルなパネルで展示する予定です。展示構成案を確認しながら、西川さんは「この展示の要素だけだと、それぞれの作品の根本につながっているアイデアを鑑賞者が感じとりにくいのではないか」と指摘しました。ビジュアルの統一感のなさも気になると言います。米光さんは、開発秘話的な説明を補足してもいいのではと提案しました。ただし、鑑賞者に考えてほしいことまで説明するのは避けたいと伝えました。
眞鍋さんは、これから冊子をつくる予定だと話し、「制作を進める中で作品同士の関係についても整理できてきたので、どのように説明したらいいか検討したい」と述べました。西川さんは「もし文章で補足するなら、今の言葉で全てを説明しきるのではなくて、鑑賞者にテーマを感じさせるためには何を説明したらいいかを考えるべきだ」と話しました。

米光さんからは、シンボルマークをつくってビジュアルの統一感を出すアイデアも。眞鍋さんは「作品づくりの過程において自分の中での妄想が先行する場合も多く、それを展示の際に鑑賞者に直接話しながら伝えることもあった。対話に頼らない共有の方法についてもっと考えてみたい」と話しました。米光さんは「作家本人の語りで伝える方法もある。語り手のキャラクターを意識してみては」と話します。西川さんも「こんな妄想をした、とイラストで示すのもいいかもしれません」と加えました。眞鍋さんは、展示の際にどうやって作品のテーマを伝えるか、いろいろな方法を検討していきます。
→TO BE CONTINUED…
成果発表イベントに向けて制作を進めながら展示構成を検討する