『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project』は、MR(Mixed Reality)作品や上映会・トークなどによって構成される複合的なプロジェクトです。伊藤道史さんは「科学技術の構想の亡霊性」をキーコンセプトに、過去の技術者や科学者たちが実現しえなかった夢や妄想をナラティブにし、総合的な知覚体験として作品化しようと試みます。多様な観点、手段によるアプローチゆえに、プロジェクトのまとめ方が検討されました。
アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)/庄野祐輔(編集者/キュレーター/デザイナー)
最終面談:2026年1月23日(金)
新しいナラティブのあり方を目指して
展示イメージと取材の進捗
伊藤さんの進める『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project』は作品だけではなく、技術者への聞き取りなども含むプロジェクトです。まずは伊藤さんから、ここまでの進捗について共有がなされます。
「まず成果発表イベントでは、鑑賞者がデバイスを装着してナレーションを聞き、実現しなかった技術の幽霊と出会えるような体験型の作品を制作中です。ストーリー部分はひと続きのものにするか、それとも短いものをいくつか用意して、選べるようにするかはまだ検討中です」
次に取材の進行についても報告がなされました。「技術者の方へインタビューは、今のところ全部で18人の方にお話しを聞くことができました。ヒューマノイドロボットの先駆的研究者、手計算のレンズ設計士や圧縮写真の開発者、ソニーのESPER研究所を3つの軸として引き続きコミュニケーションをとっています。中にはこの取材を面白がってくれて、知り合いをご紹介くださったり、noteで自発的に発信している方もいます」
プロジェクトのタイトルからも連想されるように、今回伊藤さんはかつて考えられていた技術開発のエピソードを、怪談のような作法で独自のナラティブとして紡ぎ出すことをテーマのひとつとしています。伊藤さんは取材を振り返って次のように述べます。
「森政弘さんという日本でロボコンを始められたロボット工学の研究者は、授業の最初5〜10分くらい椅子の上で座禅を組んでから授業をするくらい宗教に関心がある方でした。その弟子筋の方にも、生命を組み立てる際に霊感について考えられた方もいらっしゃいました。2000年代後半に、日本人女性を精巧に模したロボット「HRP-4C 未夢」を作られた方にも話を聞けました。庵を立てて自給自足し、レンズの計算には精神修養が必要だと語った仙人と呼ばれたレンズ設計士の方や、デジタルな情報圧縮技術がない時代に、物理的に写真を圧縮し曼荼羅のような図像を作っていた方のお話も伺えました」

ESPER研究室関係者への取材
1996年までソニーに存在した超能力などのリサーチ機関「ESPER研究室」の関係者にも取材を行うことができたと伊藤さんは続けます。
「ESPER研究室では日本人の子供を中国の気功の達人のところに連れていき、超能力をできるようにしたうえで帰国させ、社内で実験を行っていたそうです。実際、透視に関しては再現性ある結果が生まれ、学会に提出する論文も書かれたとのことです。その室長を務めていた佐古曜一郎さんは、そうした研究を続けているうちにご自身も超能力を身に付けたというエピソードを聞きました。佐古さんとはまだ会えていないのですが、引き続き接点を探っています」
これらの話を受けて、アドバイザーの高嶺格さんは、インタビューは展示にどう反映されるのか問います。伊藤さんは「装着したデバイスを通して見る視界のなかで流れるナレーションや字幕に、取材で得た情報を生かしたいと思います。あとインタビュー映像を展示することも検討しています」と答えました。
同じくアドバイザーの庄野祐輔さんは、取材を通して気付いたことがあるか伊藤さんに質問します。
「お話を聞いていて見えてきたのは、日本の技術者は先に世界の特殊な見方があって、発明を試みたというよりも、実験を繰り返しているうちに、発明の先の未来や夢に気づいていく人が多かったことです。技術的な実験を繰り返す中で、まだこの世にない技術のイメージを持つことのできた技術者がいた。たとえばESPER研究所の技術者は、まだデジタルに音声を保存や共有する時代にCDを生み出したり、その技術の先にホログラム技術を考えていました。そうした科学的な発明と、人間が超能力を使えるかもしれないという発想が、同じ地平に並べて考えられていたんだなと思いました」と伊藤さん。

多様なアプローチから探る「落としどころ」
面談の終盤、焦点になったのはナレーションをはじめとした物語の部分です。伊藤さんは、集めた証言をフィクションとしてきれいにまとめてしまったり、あるいは技術者をマッドサイエンティストのように扱うことに躊躇しており、その方向性についてアドバイスを求めます。
庄野さんは技術者に実際に話を聞いて、新しく見えてきた技術者の夢の持ち方の部分をどう捉えるかが課題としたうえで、「テクノロジーを使って、今までと違うナラティブを発明することが一番重要なことだと思います」と改めてプロジェクトの根本的な部分に言及します。高嶺さんも「せっかくインタビューもしているので、もったいないことにはならないように上手く生かしてほしい」と背中を押しました。
トークイベントなども開催し、プロジェクトを進行する伊藤さん。そこで集まった情報や経験をどう扱っていくかに苦慮しながらも、落としどころを探る姿が印象的な最終面談でした。

→TO BE CONTINUED…
成果発表イベントに向けたMRのナレーション、CGを完成させ、インタビュー素材の活用についても考える