株式会社ねこにがしは、代表の川尻将由さんが監督した短編アニメ『ある日本の絵描き少年』が第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞するなど、多数の受賞歴があります。採択された本企画 『CHERRY AND VIRGIN』(仮)は、商業エロマンガ家の男とBL同人作家の女がマッチングアプリで出会うことから始まるアニメーション作品。主人公ふたりのキャラクターデザインを異なるマンガ家が担当することで、登場人物の個性を印象的に表現します。
アドバイザー:和田敏克氏(アニメーション作家/東京造形大学准教授)、磯部洋子氏(クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)
―初回面談には、代表であり監督の川尻将由さんが出席しました。
各キャラクターの絵柄を生かした動きを検討する
川尻将由(以下、川尻):これまでは、キャラクターデザインなどを進めたり、作画について検討したりしてきました。ふたりいる主人公のうち、男性は商業エロマンガ家で、女性はBLイラストを描く同人作家という設定です。
和田敏克(以下、和田):ふたりの絵柄は、それぞれのキャラクターデザインを担当している人の絵柄がそのまま反映されるかたちでしょうか。
川尻:はい。男性のキャラクターデザインは成年マンガ家の高柳カツヤさんに依頼しています。線画が主体の絵柄で、モノクロです。ヒロインは、レディースコミックで活躍中の成年マンガ家の仲春リョウさんにお願いしています。こちらはイラストタッチの絵柄で、カラーです。ふたりの絵柄を、背景に重ねてみることも試してみました。(ラフを見せながら)これはふたりが吉祥寺でデートしている場面です。背景はモノクロなので、男性だけのシーンは完全にモノクロになりますが、ヒロインが登場するシーンはカラーなので、ふたつの世界観が混ざりあっていくような感じになります。全体のうち3分の1程度はモノクロで、クライマックスでは無数に絵柄が登場してくるイメージです。現在の進捗としては、キャラクターの動きの表現をテストしているところです。
―試作の映像を見ながら話を進めました。
川尻:テストしたのは、18枚分の動画で、そのうち原画を描いたのは6枚ほどです。手描きで絵筆風のタッチを入れて、中割り(原画と原画の間を描くこと)をAI技術を用いて補完するという方法をとりました。エラーが出てしまった部分もあります。
和田:AIを使ったテストもしているのですね。一見して、不自然なところはありませんでしたが。女の子の髪の毛の塗りなどは難しそうですね。
川尻:いわゆるアニメ塗りと言われるような、はっきりとした影をなくしたいと思っています。デジタルでアニメ塗りから離れた表現ができないか、と。ただ、現時点で、6枚分の原画を手作業で仕上げるのは、手間がかかり過ぎると感じました。撮影処理でうまくできないか試行錯誤しています。そうしたこともあって、スケジュールが遅れています。そのほか、僕がラインプロデューサーを兼任していることと、原画を担当する方の人員確保も課題になっています。
スケジュールの確認とプロジェクトの課題
和田:前作『ある日本の絵描き少年』ではロトスコープ(モデルの動きをカメラで撮影し、トレースしてアニメーションにする手法)を使ったのでしょうか? 作業人員として、大学生でもよければ私が教えている大学の学生を紹介することができます。
川尻:前作では部分的にしかロトスコープ手法を使わず、参考のために撮影した程度でした。人手が足りないので、ぜひ学生さんを紹介していただきたいです。きっとアニメ制作の勉強にもなるのではないかなと思います。回想シーンの予算を削減したりして、大人のシーンの作画は外注したていきたいと考えています。ロトスコープのための撮影は3月終了予定で、現在、ロトスコープのコンテのうちだいたい3分の1程度の撮影が終わっています。今は中断していますが、12月から再開する予定で、作業できる人の募集をかけているところです。
和田:最終的に2021年末ごろに完成する予定というのは変わっていないですか?
川尻:その予定ですが、もしかしたら遅れるかもしれません。正直なところ、新型コロナウイルス感染症の影響で業界全体の見通しがあまり立てられない状況でもあります。
磯部洋子(以下、磯部):予定では11月上旬にクラウドファンディングを行うとのことでしたが、そちらの予定はどうなっていますか。
川尻:クラウドファンディングも実施予定ですが、その準備も遅れています。素材を11月いっぱいかけてつくる予定です。
和田:クラウドファンディングの準備も時間がかかると思うので、手伝ってくれる人を早めに探すと良いのではないでしょうか。
自動化を試しながら時間と予算の縮減を図る
和田:AIによる中割りの見通しは立っていますか? アニメーション業界でもそれほど普及していないと思いますが。
川尻:もし詳しい人がいたら相談したいと思っているところなのですが、 今は、無料のソフトを使って試しています。厳密に言うと中割り自体は手描きで行っていて、AIを活用するのは仕上げの色塗りを追従させる部分です。中割りの作業全てを自動で行う技術はまだ実用化されていないようです。線画の状態から自動で影をつける技術などもあるようですが、まだ研究段階のようです。
磯部:そうした技術には、私も興味があります。アジア圏や中国などで開発されているという話を聞いたことがあります。これから日本のアニメーションに適した中割りのAIが出てくるといいですね。ちなみに今回のプロジェクトでレンダリングを行う予定はありますか?
川尻:After EffectsとPremiere(いずれもAdobe社の映像制作のためのソフトウェア)でレンダリングを行う予定です。
和田:背景で3DCGを使いますか?
川尻:まだ検討中ですが、テストはしたいなと思っています。
磯部:私の知り合いで、レンダリングに使えるサーバーを格安で提供しているところがあるので、もし興味がある場合は紹介できます。風力発電で余った電力を有効活用するサービスで、プロダクトデザインやファッション業界のCGのレンダリングに使われています。そうした新しいサービスも利用して、作業にかかる時間と費用を縮減できると良いですね。
川尻:そのような知見がないので助かります。うまく使えると便利そうですね。
和田:アニメーション制作をするにあたって、計算能力の分散は重要ですね。普段も、レンダリング用のパソコンと作業用のパソコンを分けるだけでも作業効率が上がりますよ。
―中間面談に向けて、原画や撮影の作業を進めながら、絵柄を生かすアニメーション表現の追求を行っていきます。