2012年に『Immersive Room』が第16回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出された澤村ちひろさん。今回採択された企画では、3DCGを使用した短編アニメーション作品の制作をおこないます。少女と街と鳥の物語を、国産アニメの技術と様式を用いて、アニメーションとしての美的・造形的価値を追求する作品です。

澤村さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏と、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏です。

絵コンテの修正で見えてくるもの

澤村ちひろ(以下、澤村):初回面談後は、主に絵コンテの描き直しを行い、ビデオコンテを作成しましたのでお見せします。

和田敏克(以下、和田):随分内容が変わりましたね。

澤村:はい、内容を整理をする中で、「おどろき盤」の登場をやめたのが大きかったと思います。今回の制作でやりたかったことを整理し、「女の子の物語」と「3DCGによる表現」に焦点を絞りました。

和田:とても分かりやすくなってきましたね。前回は「おどろき盤」と「女の子の趣味」と「街」のつながりが分かりにくかったのですが、今回、「花屋」があるおかげでまとまりが生まれています。
その上で、まだ少し分かりにくい部分がいくつかあるのですが、一番大きなところは「花屋」が、町の人に見えているのか、それとも女の子だけにしか見えていないのかという点です。これはどちらを想定していますか。

澤村:「花屋」は女の子だけにしか見えていないという設定です。

和田:そうだとしたら、街を歩く人たちの表情がもっとあってよいのではないでしょうか。女の子には見えている「花屋」を、街ゆく人たちは全く意に介せず歩いている、という描写が必要なのではないかと思います。
また、女の子が「花屋」に憧れる気持ちが曖昧ですね。「絵を描いている」ことがそのきっかけのような気もするのですが、女の子は「鳥」の絵を描いているわけで、そこでは「空を浮遊することへの憧れ」が表現されています。つまり、女の子が絵を描いているということが、今はあまり活きていないのではないでしょうか。絵を描いていることがおじさんの存在にもつなげられたら良いと思います。

澤村:女の子は毎日この「花屋」のおじさんを見ていて、ずっと気になっている。なんとかして籠に乗り込もうと考えている、という話にしたいのですが。

和田:そうであれば、今のようにふとおじさんを見つけるというより、わくわくしながら「今日もおじさんいるかな」と窓のところに行く方が、設定が分かりやすいと思いますよ。

澤村:確かにそうですね。自然な動きになるように考えたいです。

澤村さんによる絵コンテ

メッセージを込めて作品に「深み」を

しりあがり寿(以下、しりあがり):今の映像を見て、フォルムや絵もよく、このまま進めることで、気持ちの良いアニメーションになるだろうなと思いました。強いていえば、主人公の仕草やモノの動きなど、細かい部分もきちんと描いて欲しいなと思います。
また、ストーリーの中に何かメッセージも含められれば、より深い作品になるのではないでしょうか。この女の子にとって「花屋」が何だったのか、澤村さんの中ではっきりさせておいた方いいと思います。
僕はこのストーリー展開から『マッチ売りの少女』を思い出して、「かわいそうな女の子」なのかなと感じたのですが、きっとそうではないですよね。何のメタファーなのか、整理してみてください。作品の中でそれを説明する必要はないのですが、決めておくと女の子の表情がはっきりしてくると思います。例えば、辛そうな顔から始まって笑顔で終わるべきなのか。ところで、なぜ女の子は花が好きなのですか?

澤村:この女の子は街から出たくて、この空を飛ぶ物に乗れば出られると思っている、という設定です。

しりあがり:それなら初めの方のシーンでこれが街の外から来たものだ、という描写があるべきなのかもしれませんね。

和田:女の子は街を出たいのか、街全体からの疎外感を表現するのか。いずれにせよ、女の子の躊躇や葛藤が垣間見られるとよいのではないでしょうか。

しりあがり:嫌なアイデアかもしれませんが、灰色の街の人たちが、少女に気付かず歩いていて少女の描いた絵を踏んでいく、という……。(笑)

澤村:いいですね!街の人は彩度を下げて、他と表現を変えるつもりです。

和田:暗い街になってしまうのはよいですか?

澤村:鬱々とした作品にするつもりはないので、暗くなり過ぎないようさじ加減に気を配りたいです。

和田:「逃げ出す」というよりは「成長したい」ということですよね。本当は、女の子が街の中を駆け出すシーンが欲しいところでしょうか。路地がたくさんあるような、ヨーロッパ風の良い街並みだけど、そうした混み混みしたところからバーンと解放されるような描写があるといいのではないかと思います。
また最後のシーンで、女の子は自分の育ってきた街を離れるわけですが、その時どんな表情で街を見つめるのか、というのは重要ですね。

しりあがり:鑑賞者がこの作品を見た後に何を感じるかを考えるのもよいかと思います。見た人が、これを見てがんばっていこう、と思うなど。

音のイメージを伝えるために

澤村:今、音楽を担当していただく方ともディスカッションを重ねている段階で、その制作の進め方がやや難航しています。初めは絵コンテを渡して作曲を依頼していたのですが、絵コンテの内容もどんどん変わってくるので……。そこで現状としては、一人のキャラクターに絞って動画を渡し、そのイメージに合わせて音楽を作ってもらっています。渡した動画は、本番に近いくらいに完成度を高めたものにしました。今朝、ちょうど新しい音源が届いたところです。

―ここで、音源サンプルと映像サンプルが再生されました。

澤村:こちらからの要望としては、生命感を感じられるように「生音」を入れて欲しいと伝えています。

和田:音楽の考え方はよいと思います。コンテの内容をかためて全尺を明らかにするといいですよ。効果音が欲しい部分は、具体的にコンテに書き出すのをおすすめします。なびく動きも、「ササー」と擬音で書くと分かりやすいと思います。

しりあがり:口頭で伝えるのもいいですよね。

和田:走る場面での「タタタタタッ」なども、口頭でならイメージしている歩数も伝わりやすいですね。

澤村:ありがとうございます。アニメーションについてもお聞きしてよいでしょうか。表現にテクスチャー(質感)をつけ過ぎていないかと危惧しているのですが。

和田:全く気になりませんよ。むしろ魅力的にみえます。

しりあがり:同感です。アニメーションのクオリティはとても高いですね。

和田:今後のスケジュールはどのような感じですか?

澤村:年内に一旦完成させるのを目標にしています。音などの素材も全部揃えて。その後、再度ブラッシュアップしたいと思います。

和田:もう少し時間をかけて取り組んでもよいのではないでしょうか。年内に仮レンダリングできる程度でよいような気がします。

澤村:自分を追い込む意味でも、スピードが大切かなと思っていました。もちろんクオリティは重視したいので、スケジュールについては検討したいと思います。

―次回の最終面談では、成果プレゼンテーションに向けた進捗について報告される予定です。