安野さんの企画は、第17回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品でもある『ゾンビ音楽』とロボット掃除機を合体させて『動くゾンビ音楽』を実現させる企画です。前回の初回面談では研究開発キットを購入してのプロトタイプ作りなどが課題となっていました。
安野さんのアドバイザーを担当するのは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授/日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏と、アートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
ゾンビ開発の進捗報告
―映像資料を見せる安野さん。リコーダーを奏でるロボット掃除機の様子が映し出されます。
安野太郎(以下安野):今回は映像資料を持ってきました。前回の面談のあと、ロボット掃除機のテスト機を用いて排気がリコーダーを吹くことに適しているかテストしまして、良い結果を得ることができました。
また、ロボット掃除機のシリアルインターフェイスからの電力でソレノイドが動くのかについても実験しましたが、これは上手くいきませんでした。電圧は足りていますが、電流が一定以上出るとだめみたいです。しかし、バッテリーから直接電源をとったら問題なく動いて、ロボット掃除機も問題なく動きました。
遠藤雅伸(以下遠藤):よかったね。素晴らしいです。
安野:ソレノイドを8つ同時に動かすことも上手くいきました。この時はリコーダーをロボット掃除機に載せて、ソレノイドの制御はPCで行いました。これでハードウェア的な問題はほぼ無くなりました。
そして、今後の効率的な開発をするために、掃除機を自由に動かしたままプログラムをいじれるようにBluetoothモジュールをつけました。なかなか手こずりましたが無線モジュールのデータ送受信はうまくいきました。
田中秀幸(以下田中):安野さんの作品は完成できるということが解りましたね。
安野:最終的にはプログラムされたものをゾンビ(=ロボット掃除機)に搭載して、完全にスタンドアローンで動かすことが次の課題です。最終面談では、完全に出来上がったゾンビを1体持って来て、量産体制に入る手前までいきたいです。
ゾンビの可愛らしさ
―ゾンビに見立てたロボット掃除機が動き回り、音を奏で始めてから、安野さんのゾンビに対する気持ちに少し変化があったようです。
安野:ゾンビもなかなか可愛いっていうのはあるんですが、こんなことさせられて可哀想だな、という気持ちがあります。
遠藤:それは主人の言う事を聞く犬みたいな感覚ですかね。
安野:このゾンビは地上を這ってるから怖くはないんですよね。もしこれがドローンで空中飛んでたら怖いですね。
田中:今はサイズも可愛らしいですよね。もうちょっと大きくなると怖いよね。
新しいアイデアと新しい課題
遠藤:大変なのは、充電されてから再スタートする際の信号をスタンドアローンでどう検出できるかですね。メーカーに聞いてみても良いのでは。
安野:この機種は充電量を計ることができます。
遠藤:それなら、充電量を定期的に読みにいくプログラムを組めればできそうですね。
安野:それはできそうです。バッテリー容量が減った時に充電器に戻るタイミングも重要だと考えています。あとは中の電子音も自由にいじれるみたいです。
遠藤:ということは、音楽を鳴らしながら走らすこともできるということですね。
安野:例えば、マイクを組み込んで、リコーダーの音をそのまま拾って、それと同じ音程を出すこともできるかもしれません。
遠藤:音程をいじれれば和音を奏でることもできるので、面白いんじゃないですか。
安野:ひとつ心配なのは、普段通りの自由なロボット掃除機の動きにするような命令の送り方が今は解っていません。
田中:勝手に動いて欲しいというわけですね。
遠藤:中の信号をいじる場合には、既に組込まれていたプログラムが使えないということですかね?
安野:それはまだ解らないところで、課題のひとつです。
ゾンビ同士の干渉
安野:最終的にはロボット掃除機は自由に動き回ってもらって、その動きの状態からプログラム側で指使いを変えて音が変わることが目的です。
田中:いくつかパターンがあっても良いですね。
安野:今の段階では、全員同じプログラムで動かすつもりでいます。
田中:それは最初のスタートポジションが違うから?それでも音は複雑化しそうですね。
遠藤:複数台のロボット掃除機は、自分の充電器の場所を覚えてるんですか?
安野:そこは喧嘩をするんです。それぞれが一番近い所に行こうとします。
遠藤:場所取りで喧嘩したらそれはそれで面白いですね。あとは喧嘩している間に電池が完全に切れて座礁するゾンビがいるとか。
田中:それを早くみてみたいです。完成したら面白そうですね。
遠藤:リコーダーを鳴らすところまでの開発まではいけて、次にスタンドアローンで動かせるかどうか。その後にシンクロさせて何かできるかですが、それは別として考えたほうが良いでしょう。
展示方法と音の変化
田中:この作品は展示するスペースの形や大きさが「音」と密接に関係してきますね。ゾンビの配置なども影響を与えると思いますし。ゾンビが動くスペース自体が変わったら音も変わるので、例えばロボット掃除機の機能の「バーチャルウォール」を使えばそれをすぐに変えられますよね。そういった音の変化がわかると観客は面白く感じると思います。
安野:バーチャルウォールが何メートル行くかが問題ですね。例えば、バーチャルウォールがあって、それが回転台かなにかに乗っていて、ゾンビの移動範囲が形を変えて行くとか面白いかもしれません。
遠藤:そのコントロールができたら、かなりゆっくり動かすだけでいいですね。最終的には物理的なものでの制御も見て見たい。
―作品の技術的な問題がほぼ解決した安野さんは一体目のゾンビ制作に取りかかります。次の最終面談で実物を見せる予定とのことです。