2015年2月11日(水・祝)、第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の開催期間中でもある六本木の国立新美術館にて、7組のクリエイターと4名のアドバイザーが出席して「成果プレゼンテーション」が開催されました。その様子を3回にわたってお伝えしていきます。
「成果プレゼンテーション」は、7組のクリエイターが1組ずつ自身の作品を紹介。第一部(チーム「ストリッカー」、安野太郎、大脇理智、三原聡一郎)と第二部(ぬQ、吉野耕平、有坂亜由夢)、そしてアドバイザーを交えてのディスカッションを行う第三部の三部構成で進行しました。
―成果プレゼンテーション第三部は「ディスカッション」です。アドバイザーとクリエイターの全員に登壇していただき、この事業を通して作品制作を行ったことについての感想や、アドバイザー・クリエイターとしての意識などについて語っていただきました。まずは7組のプレゼンテーションをうけて、アドバイザーから感想をいただきました。
アドバイザーからの感想
タナカカツキ(以下カツキ):今回、若いクリエイターへの支援ということを改めて考えましたが、若さっていうのは「危うさ」だと思いました。今日になって機械が壊れてしまったり、直前まで映像をレンダリングしていたり。その若さと勢いを活かして今後も活躍してもらいたいですね。
田中秀幸(以下秀幸):以前メディア芸術祭の審査委員をやったことはあるんですが、「すでに出来上がった作品を評価すること」と違って、この「まだ完成していない作品プランをみて支援をするかを決めて、作品のアドバイスをして完成に向かわせる」ということは、まったく違う難しさがありました。やっと1年間かけて解ってきたところです。
遠藤雅伸(以下遠藤):最初はふわっとした実現性に不安が残る企画など、自分の思い込みだけで作ろうとしている人が多かった。この通りに作って上手くできるはずないと思いつつ、絶対に好きにさせないぞという気持ちをもってアドバイザーに臨んだつもりです。結果的にみなさん成果を出してくれて満足です。若い人にはエールを送ると形になって返ってくるんだなと感じました。
野村辰寿(以下野村):今日は僕の専門のアニメーションだけじゃなくて、メディア芸術という広い枠組みで作品を見させていただけてとても面白かったです。企画書だけだと最終的にどうなるか想像できない部分がありましたが、どうやって形にしていくのかを見ることができました。アニメーションの三組も、表現の方向がそれぞれ違うので幅がありました。
支援を受けて感じたこと
―これまでの3回の面談を通して行われたアドバイザーとのやりとりや、それぞれの作品についても話がすすみ、課題や成果について意見を述べてくれました。
三原聡一郎(以下三原):遠藤さんからアドバイスを受けているときのことですが、遠藤さんはあらゆる知識が豊富で、作品の中で現れた化学物質の反応なんかも正確に答えてくださいました。普段はつい「きれいな現象をどう見せようか」とばかり考えてしますが、化学の視点からもアドバイスしてくれたことで、たくさんの再発見がありました。
吉野耕平:僕は企画案の段階で意見を言ってもらえたのが新鮮でした。面談ではアニメーションの細かい作り方やストーリーの話をしている時が勉強になり、楽しかったです。1年間はあっというまで予告編を作るまでが精一杯でした。ですが、普段の仕事とは違い、自由に制作することができ、表現の幅が狭くならないような機会をもらえたと思います。
ゴッドスコーピオン:今回のように規模の大きな作品をつくると、一時的に制作費を立て替えるだけでも大変でした。とても短い期間だったので、もっとアドバイザーとコミュニケーションをとりたかった。「こんなものがある」「こんな展示方法がある」というやり取りが増えることで良い方向に変わっていくんだろうなぁと思いました。自分の作りたいものを作るきっかけをいただいて感謝しています。
大脇理智(以下大脇):内容的にも技術的にも初めてのチャレンジが多かったです。今回の制作では、大学のような研究機関に相談するときのコツや、若いクリエイター同士のチームワークの注意点など、身をもって学びました。今回学んだことはこれからの自分にとって大事なことだろうと思っていて、仕事をしながら続けていくために考えなきゃいけないところだと思うんです。
いま作品をつくるということ
―今回のイベントタイトルでもある「いま作品をつくるということ」と関連して、作品制作に対する意識が話題となり、クリエイターを今後も続けていく上で「継続して作品を作り続けるということ」について、クリエイターの皆さんがどのような意識を持っているかが語られました。
大脇:現代アートでもメディアアートでも、新しい表現や技術の入れ替えがどんどん早くなっている気がしていて、今は何ができるんだろう?と考えています。今日はぬQさんが自分の制作環境自体を変えると言っていました。結局のところ、違う現場や制作環境に変えてゆくようなフットワークの軽さが重要なんだと思います。それができれば仕事をしながらでも作品を作っていけるんじゃないかと思いました。
ぬQ:私は、自分の表現方法として「人の期待を裏切ってでも自分の作りたいものをつくる」っていうスタンスが大事なんだと思っています。今回はアドバイザーのみなさんに相談したり教わったりしながら制作をしてきたおかげで完成できる見通しが立ちました。これからは自分の表現方法を大事に、一人で作品を完成させます。
安野太郎:自分にとって作品を作ることは、生活の中の普通なことになってきているので、作品を作り続けるために考えていることはとくにないです。今まで通りに手を動かしていくだけですね。
有坂亜由夢(以下有坂):作品を作り続けることについてですが、私たちは死ぬまで作品を作り続けるんじゃないかと思っています。発表するかどうかはわからなくても、貧乏でもなにか作るし、死ぬ前までになにかすごい作品を残せたらいいなと思っています。今日は成果発表に間に合わせるようにギリギリまで頑張りました。このような発表の機会があるからこそ作品と向き合うことができました。
三原:いま考えていることは、それぞれの専門分野で活躍する専門家は多いけれど、その分野を横断している人は少ない。「横断したものづくり」をすることというのは、きっとアートでしかできないことなんじゃないかと考えて制作を続けています。
大脇:今日は私の担当の畠中さんがいらっしゃらなかったところが残念でしたが、1年間はとても短くて、もっとアドバイザーから意見を受ける時間が欲しかったです。自分が知らない分野の方からの意見も聞きたかったという気持ちもありました。
どんな企画をまっているか
―最後に、来年度同じ事業が実施された際、どのような企画を待っているか、支援したいかアドバイザーに聞きました。
秀幸:実現的な企画ってのもあると思いますが、みなさんは作家であって企画書をつくるプロではない。そういう意味では、今までやってきたことと照らし合わせて選んでいます。こんな作品を作る人だったらやらせてみようという気持ちに変わってくる。でもやってみなきゃわからないですね。自信をもって「この人なら間違いな」という気持ちで選んでいるわけではなくて、本当にやってみなきゃわからないんです。
遠藤:新しいものにトライすること自体に意味があったり、想定外の使い方をすることで新しい意味が出てきたりすることが大事なんです。今回の微生物燃料電池も、数百個作ってはじめて実用化するっていうレベルの話。ロボット掃除機もあんなに大量に買って、メーカーからすると全く想定外の使い方をしているところがある意味無駄遣いではあります。でも無駄遣いが大事なので、その無駄遣いの方向性を考えるのが大事なのかなと思いました。
野村:みなさんの話を聞いて、これからも作り続けるか?という話題に「貧乏でも死ぬまで作り続けると思う」って答えがでましたよね。続けられる人の答えはこれが全てだと思っています。とにかく作り続けるしかないんですよね。
カツキ:マンガ家は一人で仕事ができるんです。私は若い頃は社会に対して塞ぎ込んでいたので、ひたすら一人で作業するスタイルのマンガ家に憧れていました。もちろんプロになっていろんな人と関わるけど、基本的には一人でやりたい。なので、誰かから支援をうけてでも作品を作るってことは偉いことだと思います。たちあがる制作意欲を感じます。
遠藤:やっぱり新しいものがみたい。良い意味でクレイジーな発想をするのが日本人だと思います。新しい発想を持つ人に既存の技術や表現を超えるコンテンツを作っていってもらいたい。それはとても楽しいし、やがて日本を牽引していく力になると思うので、限界を超えていってください。
―成果プレゼンテーションは終わりましたが、それぞれの作品の完成はこれからです。完成した作品の発表についても今後随時ご紹介していきます。