これまでアニメーション映画を制作・監督してきた岩井澤健治さん。今回の企画では、3年前から制作を続ける長編アニメーション映画『音楽』の完成を目指します。同タイトルの大橋裕之氏のマンガを原作に、松江哲明氏と九龍ジョー氏によるプロデュースで、監督を岩井澤さんが務める本作は「ロトスコープ」という手法を用いて制作されています。これは実写で撮影した映像をトレースしてアニメーションにする方法です。
岩井澤さんのアドバイザーを担当するのは、編集者/クリエイティブディレクターの伊藤ガビン氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
「長編」アニメーションにするために必要なこと
―前回の面談でのアドバイスを踏まえ、全体の流れの把握のために素材の映像や絵コンテを全編繋いでみたという岩井澤さん。今回はその映像を見ながら面談が行われました。
岩井澤健治(以下、岩井澤):前回の面談で一度全編を繋げてみるというお話があったので、実際にやってみました。その結果、尺が46分となり、当初の予定の70分という尺に全然足りないことが判明しました。ただ、まだコンテの部分があるので、完成すれば今よりも尺はさらに伸びるとは思いますが。
伊藤ガビン(以下、伊藤):無理に伸ばす必要はないと思いますが、劇場で公開するにあたっての問題はありませんか?
岩井澤:先日、配給会社の方と話す機会があって、「長編」と言うには70分以上の尺が必要というのが共通の認識としてあるそうです。やはり、本作は長編というインパクトが重要なようで、なんとか70分以上にはする必要があるので、コンテの部分をどのようにアニメーションにしていくのかを考えようと思います。
伊藤:なるほど。たしかに、個人制作で70分のアニメーションを作ったというのは売りとして大きいですよね。
田中秀幸(以下、田中):今の映像で、まだコンテのままの部分はこれから色がついて動くと、おそらく70分程度にはなると思うんですけどね。それに作品自体も70分持たせるだけの強度があると思います。
岩井澤:追加で15分ほど必要なので、100カットくらいは必要だと思います。今回全編を繋いでみて、コンポジットの作業が思った以上に大変でした。繋いでみると、アラが見えるのは当然なんですが、その他にもいろいろ見えてきました。編集の最中もできるだけ絵コンテじゃない、動いている絵にしたいと思って、必要な絵を描き足していました。
田中:ただ、当初からの課題ではありますが、なにより作るのが大変そうですよね。ラストのライブシーンは特に描き込みがすごいので、相当な時間がかかりそうですね。
岩井澤:そうですね。ライブシーンはステージ上でもカメラマンが撮影していて、そのステージ全体をドローンで撮影した場面があるんですが、そこをロトスコープでアニメーション化する際にカメラマンが演者と被っていることもあり、そこを補完して作画するのが意外と大変でした(笑)。あと、本作では少しだけアクションシーンがあり、そこも結構力を入れて描いたのですが、見てみるとそのシーンはあっという間に終わってしまいます。
未着手部分の重要性
伊藤:全編を繋いでみて、何かおもしろい発見はありましたか?
岩井澤:仮ではありますがセリフが入ることによって、頭の中だけでは考えられないことが見えてきました。あと、今まで全体像を見るのが怖いところもあったのですが、何がどのくらい出来ていないかなど、全容を把握するのにとても役立って、思っていた以上に作業が残っていることを再認識できましたね。
伊藤:ただ、絵が動いていなくても音だけで描けそうなところもありますよね。今は仮の声しか入っていなくて、効果音などもほとんど入っていないから、そこが気になります。ここから先に重要なのは、セリフと音ですね。
岩井澤:そうですね。今までは音はほぼノータッチだったんですけど、劇伴(げきはん)を引き受けてくれるミュージシャンの方に具体的に音をお願いできるといいなと思っています。あとは、どうしても背景まで手が出ないんですよね。
伊藤:背景を描くのも大変ですね。
岩井澤:作画、動画を全部描ききってから、動画を描いていた人みんなで背景を描く予定です。
伊藤:いわゆる背景と作画した部分とのハーモニー(*1)はどうするんですか?
*1 ハーモニー……描かれたキャラクターと背景の違和感を消すために、共通した質感の処理をかけること。
岩井澤:そのあたりも描き始めたらいろいろ課題が出てくると思っていますが、まだ考えることが出来ていません。背景のことまで考えるととてもじゃないけど頭がパンクするので、とりあえず、一旦背景のことは置いているという状態です。
成果プレゼンテーションに向けて
岩井澤:成果プレゼンテーションでは、もう少し完成度の高い予告編をできる限り揃えることと、自主制作で長編アニメーションをつくる人はそんなにいないのでコンポジット作業の話などをしたいですね。
伊藤:成果発表でどういうバージョンの映像を作りますか。作品の完成までは難しいと思いますけど、せっかくの大きな区切りだから、それをうまく利用してもらえるといいですね。作業が無駄にならなくて、むしろはかどるチャンスになるのであれば、そういう機会として利用してもらうのがいいかなと。
田中:やはり部分的でもいいので、背景や効果音なども入った、完成した部分の映像は見たいですよね。セリフのあるシーンも役者の声が入っていたほうがいいと思います。
伊藤:一部だけでも大分変わりますね。役者の声って全然違いますし。
田中:一部だけでも完成していると、その映像が今後、完成に向けての制作協力を得るためのツールにもなると思うんです。今のまま進めていると完成形がどうしても見えてこないので、今日見せてもらった映像のままでは協力者を集めるためのツールにすらならないと思うんですよね。
岩井澤:まだ役者との調整はこれからなのですが、成果発表までに少しでも完成形に近い映像が見せられるようにがんばります。あとはひたすらやっていくだけです。
―全編を繋いでみたことで、成果プレゼンテーションに向けて、そして映画の完成に向けて課題が見えてきた岩井澤さん。アドバイスをもとに制作を進めます。