文化庁メディア芸術祭で『君の身体を変換してみよ展』(佐藤雅彦研究室+桐山孝司研究室/ユーフラテス)が第12回エンターテインメント部門優秀賞を受賞、『VISTouch』(安本匡佑/寺岡丈博)が第19回エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出された安本匡佑さん。今回採択された企画は『映像の彫刻』(仮)という作品です。それぞれの相対的位置関係を認識する数十台のディスプレイ群により、ひとつのインタラクティブな映像彫刻をつくります。

安本さんのアドバイザーを担当するのは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授/日本デジタルゲーム学会副会長の遠藤雅伸氏と、アートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。

―安本さんの最終面談はスケジュールの都合上12月10日に田中氏と、12月12日に遠藤氏と別々に個人面談を行いました。まずは田中氏との面談レポートからご紹介します。

続く、データ撮影の問題

安本匡佑(以下、安本):実は、人体のMRIの撮影データをまだ手に入れることができていません。中間面談以降に様々な医療メーカー等と交渉したのですがなかなか具体的に撮影をすることが難しく、現在は様々な病院に協力してもらえないかあたっています。それと平行してある研究機関の先生にMRIの撮影をさせてもらえないかという話をしています。手始めに、先生ご自身を撮影した画像データを提供していただきました。MRIもいろいろな種類の撮り方ができるようで、恥骨から肩の胴体部分を、5mm刻み、1mm刻み、0.5mm刻みで撮影したものと、画像上で強調する部位が異なる6種類の撮影方法で撮っていただきました。実際にデータ変換してわかったのですが、0.5mm刻みのものも1mm刻みのものも今回使用するiPad Proにとってはデータが重く難しいので、今回の作品では5mm刻みのデータでやろうと思っています。

MRIで全身を撮影する場合は身長150cm以下の人しか撮れないといけないことがわかりました。しかもMRIは全く同じ設定でやっても同じようには映らないらしく、もし自分が入るのであれば2回撮影しないといけないため、どうしても継ぎ目ができてしまいます。つながっているのが一番美しいのですが、部位ごとに抜き出してブツ切りで人の形になっているように見せることもできます。例えば胴体部分はある人のもので頭は別の人のものというような見せ方もできます。撮影で一番問題なのは四肢です。そもそもMRIにおいて四肢はあまり用途がなく撮らないそうなので撮れる設備が限られています。

なので、先に土台の部分を作りました。土台は60x60x70cmの箱になっていて、ポールの長さは一番短いもので60cmの高さで、それに加えて30cm刻みで4本のポールを用意しました。展示中にもし落下するとiPadが壊れてしまいます。まだ強度に関しては不安があるので安定する方法を模索しています。輸送を前提に考えないといけないので、組み立て式で作っています。

様々な種類の胴体部分のMRI画像データ

田中秀幸(以下、田中):制作状況はよくわかりました。あとはなによりMRIの画像ですね。理想としては全身ですが、とりあえずありもののデータで、全身のデータはがなくても形になることが大事かなと思います。

安本:もし全身のMRI画像が撮影できなかった場合には、すでに持っている頭部のMRI画像などをもとにつぎはぎにして全身データを作ろうと考えています。現状、まったく素材がないのは四肢だけです。

田中:まずそれで上手く作れば、最終的な理想の見え方がなんとなく見えてくると思います。成果プレゼンテーションではその状態までもっていってプレゼンテーションできるといいですね。

安本:今もっているデータだけでもシステムに入れてしまえば、四肢のない歯抜け状態ではありますが全体像をイメージはしていただけると思います。たしかに一度完成形を作ってしまえば、更新はデータを置き換えてしまえばいいだけなので後々の制作もスムーズになると思います。

田中:なるほど、データ以外は順調なようで安心しました。ベストは全身のデータだと思うので、これからの病院や研究機関との交渉でMRI撮影が実現できると良いですね。

安本:モチーフを人にすると決めたとき、ただ撮影してしまえばいいのですぐに手に入るかと思ったのですが、スケジュール上、予想外に足を引っ張られました。こんなにMRIでの全身撮影が大変とは思わなかったです。

作品をよりよく見せるために必要な強度

―続いて、12月12日に行われた遠藤氏との面談レポートをご紹介します。田中氏との面談と同様に、制作状況について報告していただきました。

(安本さんの説明を受けて)

遠藤雅伸(以下、遠藤):土台については、確かに繊細なつくりなので強度的な不安はあるかもしれないですね。

安本:ターンテーブルの耐荷重が20kgしかないため、ひとつひとつのパーツを軽量化しないといけません。以前は1.5mm径のアルミのポールを使っていたのですが、最長のポールにiPadを乗せるとふらつくので2mm径のステンレス製に変更しました。土台部分の素材についても木ではなく丈夫なアルミ製のものに変えようと思っています。ただ、重量計算が難しいです。

遠藤:ポールとポールの間がなにもつながっていないようなので、強度的に弱そうですね。ワイヤーでまとめるなどはできないのですか?

安本:シンプルな造形にしたいので、なるべくポールのみにしたいと考えています。

iPad取り付け部分の部品のサンプル

遠藤:最終的には暗い部屋での展示を前提にしているので、黒いものを使えば鑑賞者はわからないと思います。ぐらついているほうが格好悪い気がします。土台自体が転倒する可能性も考えられますね。

安本:土台は十分な重りで固定しようかと考えています。本当はMRIのデータが用意できてから、どこの位置にすればいいのかを決めたかったのですが、病院などからの返答には時間がかかるため、とりあえずハードをある程度制作しています。ポールが立ち上がる場所の位置関係はもう決めていて、上からみると五角形になっています。それぞれ内側にiPadの通常サイズが5枚らせん状に設置され、外側にiPad Proを5枚設置予定です。干渉せずにある程度隙間なく見えるようになっています。40秒に1回転しかしないゆっくりとした回転なので、観客が手を触れないように工夫をすれば転倒については大丈夫かと思っています。

遠藤:高速でまわせば立体映像に見えるかもしれませんね。

安本:それはいつかやりたいですね。ケースもポールも全部黒くして余計な部分は取り払い、鑑賞者にとってなるべく画面だけしか見えないようにしたいと思います。それで真っ暗な場所で動かして展示をしたいです。全体の重量の問題は、いざとなれば肉抜きをしたりして調整します。

―3月4日に開催される成果プレゼンテーションではデモンストレーション展示も行われる予定です。