絵画や映像にとどまらず、ウェブサイト、批評や詩などの執筆、さらには展覧会企画などさまざまなアプローチで表現を続けている布施琳太郎さんは、この文化庁クリエイター育成支援事業でTRPG(テーブルトークRPG)のようなアナログゲームの制作、およびそれに関連した映像と立体作品に挑戦しようとしています。初回面談では玩具とゲームの性格の違いや、アートとゲームの関係といった話題について意見交換が行われましたが、布施さんの興味を大きく引いたのは、TRPGとの共通点も多く、キャラクターになりきって文章を書きながら進める「ジャーナリングRPG」という近年にわかに注目を集める新興ジャンルでした。

アドバイザー:森田菜絵(企画・プロデューサー)/米光一成(ゲーム作家)

初回面談:2023年9月26日(火)

ゲームとアート

布施琳太郎さんの『海の美術館』(仮)は、さまざまな要素が複雑に絡み合った作品です。プロジェクトはインスタレーションとしての最終発表を目指して、TRPGを作成し、その試遊会を世界4カ国でまず行います。それからそのプレイの様子を含む映像を制作し、ゲームのコンセプトを可視化する立体なども含め提示する予定です。

作品の根本を性格づけするゲームの内容は、「終わることのない海上美術館の建設作業を終わらせる」ことを目的としたものです。プレイヤーはそれぞれの立場から建設に関わるのですが、対話を行うためのモチーフとして、ル・コルビュジエが構想した「無限成長美術館」を設定し、その検討を通じてプレイは進められていくという構想を布施さんは持っています。ゲームから派生した映像についても単にインタビューをまとめるだけではなく、より創造的なものにしたいと構想が語られました。

ゲームをアート作品とすることに関して、それは最近の潮流なのかとアドバイザーの森田菜絵さんは問いかけます。それに応じる形で布施さんは、マルセル・デュシャンにはそのようなアプローチがあることなどを話し、現代美術の系譜にかつてからゲーム的なものがあったとしながらも、「近年のゲームエンジンの利便性の向上がゲームとアートを近づけている」と述べます。同じくアドバイザーの米光一成さんは「Unityで映像作品をつくるケースもあり、それらは見た目がゲームと変わらない。何かしらのインタラクションを入れればそれはゲームと変わらなくなる」と発言し、両ジャンルの境界線があいまいになってきていることに触れます。

森田さん

玩具? それともゲーム?

布施さんの構想に対し米光さんは「勝ち負けで駆動するゲームなのか、玩具的な遊びなのか。さらにゲームマスターがいるかいないか。そういったことも意識して考えるといいかも。積み木で遊ぶのか、かっこいいお城をつくることを競うのか、ジャッジするマスターかいるのかいないのか」と述べ、プロジェクトの特徴を分析します。その上で「ルール内で競うゲームなのか、ルールをはみ出す遊びなのか。ことによってはTRPGは布施さんのやろうとしているイメージとは異なるのでは?」と付け加え、布施さんに企画の方向性の再検討を促しました。

米光さん

ジャーナリングRPGの可能性

米光さんは『海の美術館』(仮)に似た傾向を持つものとして、近年一部のゲーム愛好家の間で注目を集めている「ジャーナリングRPG」を挙げます。「これはTRPGの新しい潮流で、多くは一人でプレイし、設定に応じてキャラクターになりきって手紙や手記を書いていくんです。例えば貴族同士の争いがあったとして、その敵対する貴族に書簡を送るなど、アクションの内容を通じて自らが物語るのがジャーナリングRPGです」。またTRPGでもさまざまなタイプがあることについて紹介してくれました。「例えば『ダイアレクト』は言語を生み出し、その言語がどのように滅ぶのかについてプレイするTRPGです。こうしたなかなか体験できないことをプレイというアクションで自分ごととして体験できるようになっていて、ゲームの奥行きを感じさせます」と米光さんは持参した冊子を見せながら解説してくれます。それに対し布施さんは「以前キャラクターと対話しながら辞書をつくる『7 Days to End with You』というゲームをプレイしたが、言語をテーマにしてそのような体験をつくれるTRPGはすごい」と応じます。

米光さんが持参したジャーナリングRPGのルールブックや関連資料

森田さんは「ジャーナリングRPGで用いられる“書簡”という形式は、現代美術でも見られる。ゲームという全く違う文脈を援用して書簡の要素が入った作品を制作するのは面白そうですね」と話題を広げます。布施さんは「受け取る側の想像力を活発にするものが芸術である」という考えを持っていた寺山修司が、嘘の設定も交えながら積極的に手紙を送っていたことに触れ、ジャーナリングRPGの可能性について思いを巡らせている様子がうかがえました。

面談の様子

→NEXT STEP
ゲームに寄せるのか、玩具に寄せるのかを考える