実験的なゲームやインスタレーションを通じて、社会やテクノロジーに対する問いをユーモアとともに提起してきた木原共さん。この創作支援プログラムで取り組むのは、AIを用いて展開される『演画』というゲームです。マンガ世界の中のキャラクターになりきって、AIと一緒にいく通りもの結末がある物語を作っていくゲームのシリーズを木原さんは現在制作しています。これらの作品にあるゲーム性についてまだ狙いを定め切れていないという木原さんに対して、アドバイザーはどのように応答したのでしょうか。
アドバイザー:米光一成(ゲーム作家)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
初回面談:2024年10月7日(月)
AIで「ロールプレイ」と「マンガ」が融合
「落ちる飛行機の中で」
木原さんは今回の面談で制作中の2つの演画をアドバイザーにテストプレイしてもらい、そのフィードバックをしてほしいと話します。前半では「落ちる飛行機の中で」についての議論が行われ、後半には新たな試作についての話題が展開されました。
まず木原さんは「落ちる飛行機の中で」について説明します。同作は作画をSFプロトタイピングやデザインリサーチをバックボーンに、マンガ家、デザイナーとして活動する永良新が担当したもので、2人でプレイするゲームです。墜落しつつある飛行機の中に、プレイヤーが演じる2人の乗客と、AIが演じる機長の合計3名が乗り合わせています。しかし、脱出のためのパラシュートは2つしかありません。ゲームが始まると、機長はすでに1つのパラシュートを身につけており、残りの1つを誰に渡すかを決める権利を持っています。プレイヤーたちには様々な選択肢があります。機長を説得して最後のパラシュートを自分に渡してもらおうとしたり、あるいはプレイヤー同士で協力して機長からパラシュートを奪い取り、2人とも生き残ることを目指したりもできます。プレイヤーの言動や判断によって、物語は複数のエンディングへと分岐していきます。
面談中行われたテストプレイでは、アドバイザーの若見ありささんは「妊娠している私を助ければ2人分の命を助けることになる」と主張し機長の信頼を得ます。同じくアドバイザーの米光一成さんはそれに対し、若見さんの発言は嘘なのではないかと訴えます。機長のそれぞれのプレイヤーへの信頼度はパラメーターによってプレイヤーに可視化されており、機長は米光さんの主張に多少の揺らぎをみせましたが、最終的にパラシュートは若見さんに渡され、若見さんと機長は無事に脱出し、米光さんは墜落する機内に取り残された状態で物語は終わりました。
ゲームデザインをどう洗練させるか
木原さんは同作を多くの人にテストプレイしてもらうなかで出てきた、制作者が想定していなかった新しいエンディングについても紹介してくれました。「プレイヤーが『私はパラシュートの専門家で、予備のパラシュートを常に3つ携帯しております』と言うとみんな助かる平和なエンディングが発生します」。こうした発言によって発生する新たな物語の展開に、マンガ家の作画の負担が増えすぎない形でどのように絵を対応させていくかも開発の課題であると語ります。
より根本的な設定の変更についても木原さんは言及します。「現状ではAIが演じる機長がパラシュート2つをどう配分するところから物語が始まるのですが、機長の設定を人間からロボットに変更し、パラシュートを2つから1つに減らすことで、AI特有のトロッコ問題のジレンマの構造がより鮮明になるかもしれません」それに対し若見さんは「そうするとプレイヤーが協力しなくなり、ゲームの終わり方が限られてしまうのでは」とコメントをしました。米光さんは、ストーリー展開としては弱くなるかもしれないと前置きしつつも「目標が分かりやすいから、ゲームとしては遊びやすいのではないか」と異なる視点を提示しました。他にもアドバイザーの両名からはチュートリアルの必要性や会話パートの増加、マンガの文法を援用した演出の可能性について意見が交わされ、それを受け木原さんは、同作をさらにブラッシュアップしていくと述べました。
新作のテストプレイ
後半は目下試作中のもうひとつの演画について意見交換がなされました。同作は開発の初期段階にあり、画面やUIがまだない状態のため、木原さんがゲームマスターとなり、テキストベースでアドバイザーがプレイを行いました。
この新作は、人狼ゲームのように参加者それぞれが隠された役割や能力を持つ形式の正体隠匿型のゲームデザイン(*1)をベースにしています。大規模言語モデルの特性を活かし、AIとプレイヤーたちの掛け合いによる推理と騙し合いの駆け引きが重要になります。アドバイザーたちからはこの形式でしか味わえないユニークな体験ができたとのコメントもある一方で、勝利条件をより明確にした方が良いかもしれないとのアドバイスも出ました。
木原さんは今回の初回面談で、制作中の演画のゲームデザイン上の課題や生成的な物語の面白さをどう追求すれば良いのかがクリアになったと述べ、成果発表に向けて初回面談は終了しました。
→NEXT STEP
ゲームデザインを洗練させ、演画としての面白さを追求する
*1 プレイヤーがそれぞれに割り振られた役割を隠したまま遊ぶゲーム。各プレイヤーは正体を知られないようにしながら、時には自ら正体を明かし、役割をこなしつつ勝利条件の達成を目指す。