『Inner Light — Dialogue through Two Hands —』は、彫刻の手法を用いてサイトスペシフィックな作品をつくるアーティスト、木戸龍介さんによる、アーティストとロボットアームが同じ素材上で彫刻を交互に施すことを試みるプロジェクトです。ロボットアームとの共同制作を通して、AI やロボットと共存する社会における人間の役割、創造の意味を模索し問い直すことを目指します。最終面談では、ロボットアームの技術面が定まってきたことが報告され、アドバイザーと、作品として目指す方向性や、今後の実験したいことについて意見を交わしました。

アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)、原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

最終面談:2026年1月22日(木)

動きのコピー&ペースト

木戸さんは中間面談後の進捗を報告しました。技術面をサポートしてくれていた人の都合が悪くなりプロジェクトを進めにくくなっていたなかで、以前にもコラボレーションしたことのあるタイのアーティスト、ウィット・ピムカンチャナポン(Wit Pimkanchanapong)氏が1ヶ月ほど日本に来てサポートしてくれたと話します。彼はエンジニアのバンク(Teeratath Ariyachartphadungkit)氏と共に滞在しました。

ロボットの使い方の方針を転換し、木戸さんがロボットアームを持って木を彫り、その動きを覚えさせて出力することに。「以前は僕の手による出力とロボットの手による出力でコミュニケーションをとるという構造でしたが、今はどちらかというとロボットが僕と機械の間にあり、動きを受け渡す存在になった」と話します。

ロボットに動きを覚えさせることを思いついたのは「フリードライブ(ロボットを手で持って動かす機能)を使って手でロボットをグルグル動かしている際に、ロボットにこんな感じの動きを覚えさせて彫れたら面白いねとウィットさんと笑い合ったのがきっかけ」と言います。現在、ロボットに覚えさせた動きのデータを、コピーしたり拡大したりして表現の可能性を探っているところです。

木曽ヒノキで試作した。左はコンピュータへの指示を示したもの
「ロボットアームを持ち、動きを覚えさせる過程は、子どもに動きを教える過程に似ている」と木戸さん

「家族によると、ロボットの作業音やリズムが、普段、僕が作業している時に聞こえる音と同じようにも聞こえるらしい。この制作プロセスでは、アーティストの身体性や行為がデータに残るという面もある」「ロボットは、木が焦げようが木肌がささくれようが構わず彫り進めてしまう」と新たに気付いたことを伝えました。

アーティストとロボットのインタラクションをどのように構築するか、あるいは哲学的にどう解釈するか、引き続き考えを深めていく予定です。

試作を手に取るアドバイザー

最終的な着地点を考える

アドバイザーの原さんは、作品制作の頼もしい味方としてロボットアームがいるとした上で「作家が一人で制作するのとは異なる、今回の作品で目指すところを見据えることが大切だ」と話しました。木戸さんはそこがまだ手探りだと述べ、今後さまざまなパターンを試しながらアイデアを出していきたいと話しました。

原さん

高嶺さんは「データを入力したらできるようなパターンだと、例えば切削専用のロボットの方が性能も高いのでは」と質問します。木戸さんは「確かに彫る時の精度や効率を比べると専用のロボットに劣るが、木の内側で立体的にかわさないといけない箇所などはプログラミングがとても複雑になる。形ベースではなく動きベースでやることでプログラミングの難しさから逃れられるのは、今回の方法の大きなメリットだ」と話しました。

今後、挑戦してみたいことを尋ねる原さんに、木戸さんは「タイの職人の動きの記録を試みたい。また、技術的には先になりそうだが、僕とロボットで呼応しながら彫っていけるようにしたい」と答えました。

違和感のある差異が出るか

高嶺さんは「以前の面談で見せてもらった書道は興味深かった。アーティストとロボットがコラボレーションする時に、ロボットの方がへたになることが、状況として面白いと思った。そういう面白さが今、薄れてきているのではないか」と話しました。さらに「今のパターンは有機的な形なので、人間とロボットが彫った部分の差異が分かりにくい。例えば字や、カチッとしたものなど差異が見えやすい形をベースにする方法もあるのでは」と伝えます。

それについて木戸さんは「同じように見えても細部は違っていて、ロボットが彫った部分に違和感が出るのではないか、という仮説から有機的な形で試みている」と言いますが、高嶺さんは検討の余地があることを伝えます。「ヒノキではなくもっと節があったり木目が荒かったりする木でも試してみては」と提案しました。

木戸さんは、「今はまだ単純な僕の動きのコピー&ペーストなので、もっとロボットには勝手に動いてほしいところはある。コピー&ペーストをどう超えられるのかが大事だと思うので、この行為の意味を引き続き考えたい」と話しました。成果発表イベントの展示のイメージなどを話しながら最終面談を終えました。