視覚メディアにおける色彩・空間などのリサーチから、視覚表現の現在性を捉え直す実践を行ってきた、大原崇嘉、古澤龍、柳川智之の3人組のユニット「ヨフ」。『2D Painting [7 Objects, 3 Picture Planes]』では、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出されました。本企画では、色彩効果とレイヤー構造が持つリテラルな空間性の横断/併存に加え、具象的なイリュージョンを内包する写真や映像などを用いて、より複雑な空間の関係性の構築を試みます。

アドバイザー:森田菜絵(企画・プロデューサー/株式会社マアルト)/山本加奈(編集/ライター/プロデューサー)

5つのデモンストレーション

―今回の面談はアトリエにて行いました。

柳川智之(以下、柳川):ディスプレイを鑑賞した際の現代特有の二次元的/三次元的な見え方に優先順位がない感覚を会得したからこそ体感できる、新しい空間表現の可能性を探っていました。ディスプレイ内の二次元空間が現実の三次元空間に作用する例をいくつかつくりました。①〜⑤のパターンを順にご紹介します。

上段左:①/上段真ん中:②/上段右:③
下段左:④/下段真ん中:⑤/下段右:⑥
“Two Displays Practice” YOF 2023

大原崇嘉(以下、大原):どの例も二つのディスプレイを用いたものです。①は、それぞれ鏡が回っているように見えますが、実際には二つのディスプレイを45度傾けて前後に設置しています。映像のなかに映像がある構造です。手前(左)の映像には、ディスプレイの裏に鏡を張り合わせて回転させた映像を映し、奥(右)は単純にディスプレイを回転させた映像を映しています。

山本加奈(以下、山本):ディスプレイの存在も違って見えますね。

古澤龍(以下、古澤):手前の映像内ディスプレイと鏡には、展示場所の周囲の環境が映っています。展示場所の空間性と映像の中の空間性、ディスプレイの奥行きの差など、さまざまなパースペクティブが重なる点が面白いところです。

森田菜絵(以下、森田):それが正面に向いても、フレームがピッタリ合わないこともありますね。その揺らぎもいいですよね。

柳川:ピッタリ合わせるとコンセプチュアルになりすぎてしまいます。ディスプレイから鏡面に切り替わる感覚を強める方法を模索していきたいです。

柳川:鏡面反射を再現するのではなく、フィクションとして撮影された映像を混ぜ、歯車があう瞬間は鏡に見えるけれど、すぐにその感覚から離れていく。そうした状態をつくり出したいです。

山本:映像は過去に録画されたものですが、インスタレーションに組み込むことで、現在の状況と映像内の状況、つまりリアルとフィクションがリンクするのですね。

古澤:次に③のフォーカスのパターンでは、同じ焦点距離(*1)のレンズで、ピントの合う位置を50cmに設定したカメラ2台を15cm、前後に離して設置して、同じモチーフを撮影しました。2台のディスプレイは前後にずらして配置していますが、モチーフがつながるように映像を映しています。モチーフは奥行き方向に20cmほどゆっくりと移動するようにしているため、ピントの合うタイミングは左右で異なります。

大原:2台のディスプレイの間をモチーフが移動している、仮想的な空間を共有している感覚が生まれると考えました。

古澤:当初の3面スクリーン(『Paraillusion[202201]』)のものは見る位置を固定してしまうので、固定しない方法を模索しました。

柳川:④の振り子のパターンは、前後に揺れているポットを2台とも同じ距離で撮影していますが、焦点距離を変えています。ピントが合うタイミングは、ポットの位置によって左右で入れ替わります。

森田:ディスプレイの位置が前後にずれているのはなぜですか。鑑賞者からディスプレイまでの距離が同じならば違いが際立つと思いますが、距離感を混乱させるほうが面白いでしょうか。

大原:カメラの位置とディスプレイの位置を合わせるためです。もっと被写界深度(*2)を浅くして空間性を再現した上で、焦点距離とディスプレイの位置を完璧に合わせることができたら、より意図を伝えられると思います。

柳川:プロジェクターで投影した光の束の途中にスクリーンを置き、そこに焦点が合うイメージですね。ポットが揺れている空間を切り取って、ディスプレイがその断面を見せているように感じさせます。

大原:⑤のブラウザのパターンAでは、実写の旗の映像をコラージュした映像を映して、ディスプレイを近距離で重なるように配置しました。ディスプレイ内に重ねた映像には、枠線がないものと、ディスプレイのフレームと同じ幅の枠線を付けたものがあり、後者は擬似的にフレームをつくり出しています。

柳川:④に比べると奥行きの感覚が弱く、柄と影だけを手がかりに奥行を判断します。

大原:⑥のブラウザのパターンBは先ほどと同じディスプレイの配置ですが、もう少し奥行きが複雑な街の映像をコラージュしています。さらに、HTMLページとして作成した画像を組み込んでスクロールさせることで、空間性を感じさせます。

柳川:このパララックス(*3)の効果は、前回の車窓による遠景/近景の動体視差につながるパターンです。

*1 焦点距離……被写体にピントを合わせた際のレンズの中心から撮像素子(イメージセンサー)までの距離。
*2 被写界深度……被写体にピントを合わせた際、そのピントが合っているように見える前後の範囲。
*3 パララックス……オブジェクトの重なるイメージを動かすと奥行きによって移動速度が異なること。

テーマが伝わる作品展示

大原:トリックアートのような錯覚的な見え方ではなく、ディスプレイの存在によって二次元/三次元の両義的な空間性を知覚させることがテーマです。

森田:インスタレーションを含めた空間表現ということですね。プロトタイプがあると、いろいろと試せますね。

大原:ディスプレイ以外の作品も検討していて、例えばLEDパネルは解像度は低いですが、単にイメージを作り出す要素としてではなく、物質的な光源としてもLEDを認識できるということは面白いと思っています。

柳川:モネの絵を見て、キャンバス上の絵具の重なりとイメージを同時に感じるようなことを表現したいです。

山本:①と⑤はわかりやすかったのですが、ほかのパターンは少し頭を使いました。

大原:④に関しては、まだ可能性を秘めているように感じているので、試行を積み重ねてブラッシュアップしていきます。

山本:いいものができる予感がします。

古澤:最終的な展示は、3月末に京橋のギャラリー「art speace kimura ASK?」で展示予定です。

大原:2月の成果発表では、②鏡面反射のアイデア、③④焦点距離のアイデア、⑥パララックスのアイデアなど、いくつかの空間認識のパターンで構成できればと考えています。

森田:普段カメラを扱わない人は、焦点距離や被写界深度という言葉に馴染みがなく、展示だけで作品を理解するのは難しいかもしれません。空間認識のカテゴライズを明示して展示するのでしょうか。

柳川:なるべく作品自体で理解してもらえる展示にしたいです。複数の作品を鑑賞しながら考えてもらうことで、実際の空間とディスプレイ内の空間をテーマにしているとわかるバランスを目指します。

山本:トークイベントをやるのもいいですね。

森田:美術史では、1960年代以降のビデオ彫刻の流れにも結び付けられそうです。絵画やデザインが積み重ねてきた理論もありますし、さまざまな観点から批評できる作品です。錯視の研究者の方などを呼んで、皆さんが今はまだ言語化できてない感覚についても聞いてみたいですね。

―今後は作品の精度を上げて、鑑賞者にテーマが伝わる展示を目指します。

3月23日(木)〜30日(木)まで art space kimura ASK? にて、ヨフ 個展「流れる窓、追い越す目」を開催。
会期:3月23日(木)〜30日(木)※日曜休廊
時間:11:30〜19:00
会場:art space kimura ASK? 2F(東京都中央区京橋3-6-5木邑ビル)
料金:無料
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