伝統的な素材や技法に着目しながら、シンプルな機械的構造を使用し光学や視覚などの科学的現象を表現するインスタレーションを制作するアーティスト、エンジニアである坂本洋一さんと、デザイナーの坂本友湖さん。今回のプロジェクトで着目するのは日本の伝統的な工芸素材である和紙です。その多様な製造方法をリサーチし、テクノロジーが介在できる余地を探りながら新たな表現を試みます。初回面談にはこれまでに手がけた作品のピースを持参。そこから見えてきたのは、制作過程における試行錯誤の魅力です。プロダクトという完成形にこだわるべきか、過程にフォーカスするのか。さまざまな意見が交わされました。
アドバイザー:戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/モンノカヅエ(映像作家)
初回面談:2023年9月21日(木)
マテリアルと向き合う過程を可視化する
さまざまなマテリアルとの試行錯誤
作家は漆やガラスなど、さまざまな工芸の素材や技と向き合ってきました。面談にはこれまでに制作した作品のピースなどを持参し、制作におけるエピソードなどを紹介。漆の作家とコラボレーションした作品『CRAFT SCAPE』では、職人が抱いている問題意識をもとに試行錯誤し、硬いイメージがある漆を、柔軟な曲面に塗布することに成功。表面に光を当てることで、反射によって水面のような影が壁面に投影されるインスタレーション作品としてプレゼンテーションしたと言います。
二人が和紙に関わる意味
今回取り組む予定の和紙の素材の紹介と併せて、現状について報告がなされます。和紙製作のコラボレーション相手を検討中で、新たな候補として、徳島の会社が挙がっているとのこと。
アドバイザーの二人からは、和紙産業が置かれている現状についての考えや技の伝承についての質問、はたまた「和紙は腐らないのか」といった、素朴な疑問などが投げかけられました。多様な問いの真意について、アドバイザーの戸村朝子さんは、「職人さんが変わったというお話が少し引っかかって、お二人の根本の興味がどこにあるのかを知りたくていろいろなお尋ねをしたのです。工芸素材やその技術にフォーカスしているなら、ノウハウや職人さんたちに対して強い関心があるのではと想像したのですが、今のお話からはそうでないとすると、坂本さんたちが今回のプロジェクトを行う意味はどこにあるのか、もう一度振り返ってから進んでみませんか」と、プロジェクトの根幹を問いました。
プロダクトをつくる必要性
アドバイザーのモンノカヅエさんは、職人によってつくられた和紙のマテリアルだけで十分な強度があり、展示としても映えるにもかかわらず、あえてプロダクトにする必要性について言及。「何かしら形にはしたいです。もともとは、絹を素材に球体状の照明をつくりたかったのですが、技術的にもコスト的にも難しく、和紙になったという経緯があります」と坂本友湖さん。
つくりたいものが先にあってそれを実現するための素材なのか、そもそも和紙に興味を持って向き合っているのか。モンノさんはその両者が別物であること、どちらがいいということではないが、今はそこが整理されていないことが問題だと伝えます。さらに戸村さんは、自分たちが関わることが、コラボレーションする相手やその分野に対してどのような価値を持つのか、活動を客観視して考えてみることをアドバイス。作家の意識と、その活動が持つ価値との間にズレが生じている可能性を示唆しました。
マテリアルリサーチャーというアプローチ
モンノさんは続けて、これまでの二人の活動におけるリサーチや制作の過程が持つ魅力に着目します。それを生かす方法の一例として、マテリアルリサーチャーというアプローチを提案。和紙の工房を記録して、マテリアルのよさや歴史を伝える活動を軸にするといったものです。戸村さんも後継者不足で継承が困難な工芸分野におけるアーカイブの意義を補足しました(*1)。
記録することに関しては懸念もあるようで、「職人さんそれぞれで線引きも異なるのですが、固有の技に関しては、あえて外に出さないようにしているところも多い。記録NG、というところもあります」と坂本洋一さん。モンノさんは「そもそも、和紙の基本的なつくり方すら私たちは知らない。より普遍的な部分が記録されるだけでも共有財産になると思いますよ」と励まします。
アドバイザーの両氏は、最終的にプロダクトというアウトプットを目指すにしても、リサーチや制作過程も含めてプレゼンテーションすることで、プロジェクト全体が作品となり、プロダクトの強度も増すとアドバイス。魅力的なプロセスの可視化を強くすすめました。
→NEXT STEP
プロダクト制作を進行しながら、制作過程を含めたプレゼンテーションを検討
*1 工芸分野とのコラボレーションの例として、本事業において令和元年度に採択された西陣織の老舗である「細尾」と古舘健さんの作品がある。
《Quasicrystal – ジェネラティブな手法を用いた準結晶的な織物表現の探求》(仮)