普段はライゾマティクスR&Dエンジニアとして、ロボティクス技術を生かしたアート・エンターテインメント制作を行っている竹森達也さん。今回の作品『Laser Ropes』では、「レーザー光線が柔らかいゴム紐かのように動いていたら面白そう」という発想から、レーザー光を空間に浮いたセグメントとして見せ、かつ光線を自在に曲げるように錯覚させるという、新たな光の演出手法に挑みます。さらにその仕組みを応用して、レーザー光による多様な表現や演出で構成された作品を制作します。初回面談では、作品の完成イメージや展示方法などについてアドバイザーと語りました。
アドバイザー:森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)/森田菜絵(企画・プロデューサー)
初回面談:2023年9月26日(火)
表現手法の新しさを伝えるための展示方法とは
既存のショーとの違いを出す
研究者としてロボットをつくってきた経歴を持つ竹森達也さん。現在は仕事でも携わっているメディアアートを真正面から個人プロジェクトとして取り組みたいと話します。レーザー光線の新たな表現手法を追求する『Laser Ropes』のアイデア自体は「渋い」と語る竹森さん。レーザー光の動きを自然に見せるための工夫など、小さい工夫を積み重ねて、単純そうに見えても真似するのは難しい高みを目指します。音楽や身体パフォーマンスとコラボレーションを検討していることから、展示環境、ギャラリーよりもライブハウスのような空間を考えています。レーザー光の軌跡を可視化するためにスモークが必要である中、スモークを使うハードルが低いこともライブハウスの利点です。音楽については、すでに共同制作の候補者に声をかけ、打ち合わせを進めています。
アドバイザーの森まさあきさんは、バーチャルなものではなく実際に目で見えるものにこだわっている点に共感した上で、作品の肝となる「自在に曲がるレーザー光線」が、実際にどのくらい不思議に見えるかが気になると指摘します。レーザー光を使ったショーなどが既に存在する中で、どのような新しさが提示できるか期待を寄せます。アドバイザーの森田菜絵さんからは、スモークを使うだけで既視感のある効果が加わるとの指摘がありました。見慣れた演出とどこまで違うものになるか、実験しながら探ってほしいと助言しました。
竹森さんは、既存のレーザー光との違いとして質感に着目しているそう。「柔らかいものに見えたり、硬いものに見えたりして、同じレーザーを見ているはずなのに全然違うものに見えるようにしたい」と言います。
表現したい要素は絞る
竹森さんは、レーザー光の量や色などに検討の余地があることを説明しました。また、現時点でシミュレーションしているのはレーザー光の平面的な変形のみですが、三次元的に奥行きのある表現を行い、より異質な空間体験を実現させることも視野に入れているとのこと。森田さんからは、奥行きなどの要素を加えていった方が演出としては盛り上がるものの、アート作品として完成度を高めるためには、コンセプトをもとに要素を引き算していくことも大事では? という提案がありました。
色の表現について竹森さんは、「例えば赤から緑のグラデーションを表現する場合、赤色の光を明滅させているところに緑の光を明滅させながら混ぜていくやり方があります。が、今回の作品では細かい明滅は利用しないルールを設定しています。レーザー光の質感の違いは、色ではなく動きで表現していく予定です」と話しました。一般的にライブの演出で使われるレーザーは、広い範囲を照らすために細かく明滅させながら回転させています。その光は、肉眼で見比べたときに明滅しない1本の光の筋とは表情が異なっているとのこと。細かな違いですが、「気にしだしたら気になるようなところをなくしていきたい」と竹森さんは言います。
光のロマンが伝わるように
今後は、このまま地道にレーザー光のシミュレーションに取り組みつつ理想の展示方法を定め、2024年2月までに実際の空間で実現させる予定です。参考にしている作品は、ライゾマティクスが2017年に行ったダンス・インスタレーション『Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY Dance Installation at Gallery AaMo “phosphere”』。光の中でダンサーのシルエットを見せるものです。
森田さんは、今回の作品の鑑賞者の反応として、技術がわからないからこその感動と、わかっている上での感動の両方があるのではないかと話しました。展示で技術についてどこまで説明するかのバランスも探りつつ、レーザー光線による表現の新しさや、その魅力が際立つような展示方法について、検討を進めてもらいたいと強調しました。
→NEXT STEP
最低限の材料でレーザーの装置を試作し、設定を変えてシミュレーションを重ねながらレーザーと鑑賞者の距離感などを検討する