「音の可視化」をテーマにしたインタラクティブアート作品『oToMR – Tactus』。ARグラスを装着すると、現実世界に光のボールが現れ、手をのばして触れると音の大きさや音色が変化します。仲田梨緒さんと宇枝礼央さんはともに2007年生まれの高校生のユニット。仲田さんは映像制作を、宇枝さんはプログラミングをそれぞれ10歳から始めています。このプロジェクトでは「環境音」と「脳が認知する音」の関係性をテーマに表現を探ります。2024年9月に個展を開催するという目標に向けて制作を進めている中、初回面談では作品体験や表現の方向性と、その可能性が話されました。

アドバイザー:西川美穂子(東京都現代美術館学芸員)/森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)

初回面談:2023年9月26日(火)

「魔法のように」音を変える

ARで眼前に現れる光を触り、音を自在にコントロールする作品。光を集めることで、メロディをつくったり和音をつくったりと操作できます。はじめに、仲田梨緒さんと宇枝礼央さんからデモ版の映像とともに、作品についての説明と進捗共有がありました。現在は、ARグラスの性能の比較や音の検出方法の変更など、技術面の検討を行っています。

仲田さんも宇枝さんも自身に聴覚過敏がある経験を起点に、新たな体験や空間の創出に挑戦しようとしています。アドバイザーの西川美穂子さんと森まさあきさんはその制作動機に惹かれたと言います。面談では技術面ではなく、主に「作品がどのような体験や表現になるか」についてアドバイスがありました。

左から、宇枝さん、仲田さん

具体的な表現や体験のイメージ

仲田さんが最初に作品を説明したときの「魔法を使うように」という言葉から西川さんは、体験者が能動的になるだけではなく、サウンドボール自体が自律的に集まるような仕掛けも提案されました。体験の始まり方と終わり方に「演出も必要かもしれない」と森さん。始まり方の演出方法として宇枝さんは「例えば、決まった場所にあるオブジェクトから音が聞こえて光が現れ、それを手にとるようなイメージ」と、アイデアがふくらみました。

CGでつくる光の動きについて森さんから「このイメージを見ていると朝靄やお香のけむりなども連想される。自然現象などを観察してみるのもいい」とアドバイスがありました。また「やんちゃで言うことをきかないボール、素直なボールなども面白いかも」という森さんの案から、仲田さんは生き物のように動くイメージを想像します。

『oToMR – Tactus』のイメージ図

2024年9月には初めての個展を開催する予定。展覧会で作品が披露されるにあたり、体験の「共有」についても話されました。基本は一人で体験する作品ですが、仲田さんは「体験者の見ている視界や音を、周りの人も共有できたらいい」と考えています。装置を使って体験できる人数は限られるため、森さんもモニターを置くなど複数人で共有できる方法を推奨しました。

また体験する「空間」は、静かな環境で少し暗い室内をイメージして制作しています。明るすぎると映像が見えにくいことや、真っ暗だとARのトラッキングが外れて位置がずれることが懸念されるためです。「まずは室内での実現が目標」とした上で「屋上や砂浜でも面白いかも」と森さん。西川さんも、将来的に屋外に置くことを視野に入れて基本制作を進める方が作品の応用がきくことを推察します。

左から、西川さん、森さん

自分の感覚を大事に

今後の制作を進めるにあたり、宇枝さんから二つの悩みが挙げられました。一つ目は「体験する側とつくる側の考え方のギャップをどう埋めていったらよいか」。森さんは、身近な人など忌憚ない意見をもらえる人にモニター的に体験してもらうことを提案しました。

二つ目の悩みは「機能や演出を増やしすぎたとき、どのような選択で削っていくとよいか」です。何を残すかという選択について西川さんは「ここだけは外せないという部分に立ち戻ること」をすすめます。人にどう見られるかよりも、自分の感覚を大事にしてほしいと続けます。例として、最初に仲田さんが話した「魔法使い」という表現を挙げ、その感覚を制作の軸に置くことをアドバイスしました。最後に「原点を忘れずにまずは基本をつくり、足しては削る、を繰り返す。楽しみにしています」と森さんが締めくくりました。まずは基本のかたちの実現を目指し、制作を進めていきます。

面談の様子

→NEXT STEP
基本のかたちを設計し、デモンストレーション版をつくる