フリーランスアニメーターとして短編アニメーションやミュージックビデオの制作を続けているニヘイサリナさん。今回、採択された作品は短編アニメーション『Five Orphans』。5人の孤児が排水溝の泥道を歩き、政府に虐殺された村の人々の情報を探しながら混沌とした社会で生きるために闘う物語です。これまではほぼ個人で制作を行ってきたニヘイさんが、背景や着彩、撮影などにおいてスタッフワークに挑戦し、作品の密度とリアリティを高めることを目指します。初回面談では、絵コンテを見ながら、制作スタッフと共有すべき世界観の設定についてアドバイザーと語りました。
アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/モンノカヅエ(映像作家)
初回面談:2023年9月13日(水)
アニメーションの一部を外注するときのポイントは
背景のコンセプトを明確にする
これまで個人で手描きのアニメーションを制作してきたため、背景の描き込みなどに十分な時間をとれなかったことを課題と感じてきたニヘイサリナさん。今回、採択された『Five Orphans』は現実社会の出来事に着想を得た作品であることから、背景・撮影・音響を外部スタッフに依頼し、よりリアリティのある作品づくりに取り組みます。現在、海外の外部スタッフと共有するためのストーリーボードの制作を進めています。ニヘイさんは、「どのようにすれば自身の作風を保ったまま外部スタッフに制作を委ねられるのか、手探りの状態」と言います。また、ストーリーや絵コンテの内容についても客観的な感想や意見が聞きたいと話しました。
アドバイザーのモンノカヅエさんは、5人の孤児たちが有色人種でプロテスターと政府軍が白人であることや、街の風景が東洋らしさと西洋らしさの両方を感じられることから、この作品が、どこの国が舞台なのかと問います。ニヘイさんは、架空の国という設定ではあるが、東南アジア系の国で、政府軍は白人であると説明。街の背景はトルコ・イスタンブールの建物やミャンマーの森などの風景を参考に、アジアとヨーロッパをミックスしたような雰囲気にしたいと構想が語られます。モンノさんは、背景の設定をもう少し細かく決めた方が、外部スタッフの仕事が円滑に進むだろうと助言しました。
架空の国が舞台になっていることを作品の中で示す
登場人物の人種についてはアドバイザーのさやわかさんからも指摘が。「肌の色の違いがはっきりしていることから、架空の国を舞台にしていることが伝わりにくいのではないか」と言います。街や、登場人物の見た目の設定を調整することで、架空の国であることが明確に感じられるようになると良いのではないかと提案しました。設定がしっかりすることで作品のコンセプトも明確になり、制作の際もディレクションしやすくなるというメリットがあるとアドバイスします。
ニヘイさんが今回の物語を構想したのは、2021年に起きたミャンマー軍によるクーデターのニュースがきっかけです。そこから、宗教間や民族間の相違によって人々の抗争が生まれ、子どもたちが不本意に不条理な状況に巻き込まれていくことをテーマに作品制作を進めてきました。似たような問題は世界中で起こっていることから作品ではミャンマーなどの特定の地域をモデルにせず、あくまで架空の国や社会を舞台にしたいと語りました。それならば、なおさら架空だということがわかるように表現するべきであると、さやわかさんは強調します。具体的には、ミャンマー以外の事例も調べながら、ほかの地域の要素などを作中に織り交ぜていくと良いのではないかとアドバイスしました。
作者が原画を担い、人物と背景の統一感を出す
背景を外部スタッフに外注する際のポイントについて意見交換がなされました。今回のような個人制作アニメーションの場合、外部スタッフの創造性を発揮させる部分はなるべく減らし、外部スタッフが機械的に行えるようにするべきだという提案がさやわかさんからありました。当初、ニヘイさんが考えていたのは、背景を原画からすべて外部スタッフに任せつつ、作品の世界観に合わせていってもらうというやり方です。そのやり方では、人物と背景の統一感を出すのが難しいのではないかと両アドバイザーより指摘されます。
続けてモンノさんは、見どころとなる背景の原画をニヘイさんが描き、中割りやゆらぎの効果といった細かい動きを外部スタッフに任せた方が、作品の世界観に近いものが生まれるのではないかと助言。「ニヘイさんが背景に参加する代わりに、もともとはニヘイさんが担当する予定だった登場人物の細かい動きなどは外注した方が良いのではないか。その方が効率よく制作でき、全体を見通しやすくなるのではないか」と話しました。
→NEXT STEP
札幌のスタジオで作画・彩色・スキャンを行い、中間面談でビデオコンテを提出することを目標に制作を進める