伝統的な素材や技法に着目しながら、シンプルな機械的構造を使用し、光学や視覚などの科学的現象を表現するインスタレーションの制作をするアーティスト、エンジニアである坂本洋一さんと、デザイナーの坂本友湖さん。今回のプロジェクトで着目するのは日本の伝統的な工芸素材である和紙です。その多様な製造方法をリサーチし、テクノロジーが介在できる余地を探りながら新たな表現を試みます。中間面談では徳島でのリサーチ結果とインスタレーションのアイデアを提示。最終面談では、プロトタイプで制作したサンプルなども持参し、より具体的なビジョンを共有しました。

アドバイザー:戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/モンノカヅエ(映像作家)

最終面談:2024年1月11日(木)

サンプル制作から見えた可能性

テーブルにはさまざまなサンプルが並び、また制作過程の記録映像がモニターで共有されました。映像には、和紙の繊維などが入った液体を少しずつ出力する、自作のNCプロッターが登場。液体を淡々と支持体に落としていく姿が映し出されます。「ずっと見ていられる」とアドバイザーのモンノカヅエさん。プロッターが出力する液体には、本来の和紙づくりと同じ素材が同じ割合で入っているといいます。素材はコウゾなどの繊維と、繊維を程よく攪拌しつなぎ合わせる「ねり」の役割をするトロロアオイ。水に攪拌した状態で出力し乾燥させることで、和紙と呼ばれる状態になります。

いろいろな形のサンプル

出力・乾燥を経たA4サイズのサンプルは、光に透かすとプロッターの軌跡が見えます。坂本洋一さんは「試作したサンプルをベースに大型インスタレーションをつくるのも面白そうですが、和紙の繊維が水中で分離した状態から、攪拌する過程も面白い。あるいは繊維に回路を埋め込んで光らせたりもできそうです」と、さまざまな可能性を抱きます。

成果発表に向けて

回路を埋め込むとなると、発火などの危険性に十分な配慮が必要です。また支援期間は2024年3月末までと限られているため、いったん方向性を一本に絞った方がよさそうです。

当座の目標となる成果発表イベントでは、今回の面談で見せたようなサンプルとドキュメント映像の展示を予定しているとのこと。実機を展示し、デモンストレーションで動かすのも一つの手かもしれません。アドバイザーの戸村朝子さんからは「このマシンだからこそできるサンプルを展示したいですね。デモンストレーションの機会に、工芸×テクノロジーの分野で活躍している方など、今後の活動においてキーパーソンになってくれそうな人をゲストに呼んでもいいかもしれません」と提案がありました。

大型作品制作・発表に向けた支援期間中の目標

その後の展開について議論をしていく中で、「僕としては、やはり大型インスタレーションをしたい」と坂本さん。2×2m程度の大きなプロッターを用意したいとのことですが、予算などを考慮すると、支援期間中(3月末まで)とそれ以降で分けて考える必要があります。支援期間中の目標は「プロトタイプを仕上げる」「プレゼン映像を仕上げる」「大型化に向けてのインフラづくり」の三つとしました。また、さまざまな賞や展示にも応募し発表の機会につなげていきたいといいます。アドバイザーからは、想定される大型インスタレーションにマッチする賞や展示について、また大型作品の制作や運搬、設営などにおける留意点が挙げられました。

左から、モンノさん、戸村さん

プロセスの映像記録を

プレゼン映像について、「活動の軸をどこに持ってくるかで見せ方も変わりますが、私はやはりこのプロジェクトの面白みはプロセスにあると思っています。プロセスの撮影をプロのビデオグラファーに依頼してはいかがでしょう」とモンノさん。プロセスをしっかり記録してまとめておけば、展示はもちろん、賞や展示への応募資料など、今後活用の機会はたくさんありそうです。

これに対して、「徳島での撮影を依頼できる方を探している」との応答。記録については坂本さんたちも考えていた様子です。アドバイザー双方から具体的な候補も上がりました。

機械の手ならではの表現を追求

「リサーチと実験を経て、機械化の取り込みによる、これまで達しえなかった領域を探る面白みが見えてきました。今後の方向性を決める分岐点に辿り着いたと感じます」と戸村さん。人の手でつくることが当たり前と思われがちな伝統工芸の世界で、あえて機械を用い、人の手ではできない造作を実現しているのが本プロジェクトの特徴です。目先の美しさにとらわれず、「機械の手ならでは」の表現を追求する姿勢をブレさせずに継続してほしいと言い、また特許性についても、その可能性に言及しリサーチを促しました。

面談の様子

TO BE COUNTINUED…
成果発表やその後に向けて、段階を追ってプロジェクトを深めていく