3D表現を中心に、VRコンテンツやCGI、インスタレーションの制作を行うアーティスト、デザイナーの高橋祐亮さん。採択企画『trash for you「VRと現実空間の相互作用から生まれる多層的な想像」』はこれまでの面談を経て要素を削ぎ落とし、「自宅」と「境界」をテーマに、自宅で過ごす作家自身をプレイする「ゲーム実況」のフォーマットによる映像作品へと展開をみせています。最終面談では、デモ映像に映るさまざまな具象的なイメージが何を伝える記号となるのか、また作品をゲームと映像作品、どちらとして見せるのかなど、議論が重ねられました。
アドバイザー:戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/モンノカヅエ(映像作家)
最終面談:2024年2月5日(月)
制作の最終段階。ギリギリまで鑑賞者の視点で作品をブラッシュアップする
2週間後にせまる展覧会に向けて
高橋祐亮さんからは、面談前に共有された5分程度のデモ映像『自室境界にて』をベースにこれまでの進捗報告がありました。ゲームのプレイ画面を思わせるフルCGのデモ映像では、下着姿の男性がベッドに腰掛けたり、立ってうろうろしたりしながら自室にいる様子が映されます。部屋の片隅にあるテレビにはコロナ禍を思わせるニュース映像が流れ、棚の上に置かれたBluetoothスピーカーは接続がずっと不安定です。部屋を仕切る襖に男性が顔を近づけると、カメラが男性目線に切り替わり、隣のリビングを覗き見ているような視点になります。リビングからは時おり物音が聞こえ、覗き見るたびにその様相が変わっているようです。
成果プレゼンテーション展の会期と重なるかたちで、高橋さん自身の展覧会も2月21日からはじまります。展覧会と成果プレゼンテーション展双方で15分程度の映像作品を展示し、それぞれに異なるエンディングを用意する予定とのことです。
カフカの不条理
アドバイザーの戸村朝子さんは「中間面談の際のデモ『Play Play Play』は抽象的で、『自室境界にて』は非常に具象的。延長線上にはないように感じます。主人公の男性は外ではとても辛い思いをしていて、自室という安全圏に避難している人なのだと感じました」と、デモ映像の要素から読み取れる内容が、作家の本来の意図と合致しているか尋ねます。
高橋さんとしては『Play Play Play』の抽象性にはあまり納得できていなかったようです。「『自室境界にて』では精神的な内と外の表現として、自室とリビングを選んだ」とし、具象性は高いものの、具体的なストーリーではなく、ゲームのシステムやさまざまな要素への主人公(あるいは鑑賞者)の「介入のできなさ」が重要と言います。また、「主人公の社会的な弱さを描く意図はなく、パンデミックなどで現代においても誰もが持ちうる不条理な状況を、自室から出られない様子に重ねて描きたかった」とし、不条理なシステムがある作品の例として、フランツ・カフカの『城』を挙げます。「短いデモ映像ではまだ見えてこないが、本作も同じ行動を繰り返す様から読み取ってもらえるものがあるはず」と話しました。
「カフカの不条理には読者が想像できる余白があり、それが強度になっていると思いますが、高橋さんの場合は、具体的に描きすぎていると思います。主人公の背中のホクロやリビングの食卓に並ぶ食事の内容など、描かれている視覚的な要素をどのくらいの解像度で受け止めればいいのか、今のままだと鑑賞者は迷子になるかもしれない」と戸村さん。この作品で何を伝えたいのかを今一度考え、作品世界を成り立たせるのに必要な要素と不必要な要素を整理することを促します。
これはゲームかアートか
アドバイザーのモンノカヅエさんは残された制作期間を考慮しながら、できることを提案します。「住宅の部屋としては明るく不自然なのが少し気になったのですが、明るい中で部屋を描き過ぎているのかもしれません。明るさを落として暗がりをつくるだけでも、鑑賞者が想像するための余白を生むことはできます」。また鑑賞者が直接プレイするものではないにしろ、ゲームデザインは重要とし、作品内にあるゲームのつくり込みを聞きます。「仕様書や分岐、インタラクションなどはまとめているが、ノートに殴り書いているようなもので、表に出すつもりはありません」と高橋さん。モンノさんは、「ゲームとして見せたいのか、アートとして見せたいのか、どちらに振り切るかを考えるといい」と、この作品を鑑賞者にどう受け取ってもらいたいのか、その意識づけの重要性を説きます。
約2週間後に迫る展覧会に向けて、戸村さんは「できる限りのことをやりましょう。それがアーティストの道だと思います」と、ギリギリまで作品に向き合い続ける姿勢が大切とします。また展示の際にはアンケートなどで鑑賞者にヒアリングを必ず行うよう促し、客観的な視点での振り返りの重要性を示唆しました。
TO BE CONTINUED…
要素を整理しながら、展覧会に向けて作品をブラッシュアップ