人工物、AI、人間がせめぎ合う「庭」を作庭する花形槙さんの作品『A Garden of Prosthesis』。庭の中での自らの身体を使ったパフォーマンス、およびインスタレーションとして2022年以降国内外で展開している本シリーズの新作制作が採択されました。作品はトーキョーアーツアンドスペース本郷にて2月2日〜4日の3日間、1日1公演ずつ実施され、最終日にはアドバイザーも鑑賞しました。翌日に行われた最終面談では、クリエイター、アドバイザーともに興奮冷めやらぬ様子の中、さまざまな感想や今後への期待が語られました。

アドバイザー:モンノカヅエ(映像作家)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)

最終面談:2024年2月5日(月)

進化し続けた庭

撤収中の会場から面談に参加した花形槙さん。まずは、前日(2月4日)に『A Garden of Prosthesis』を鑑賞した両アドバイザーに率直な感想を求めました。アドバイザーの山川冬樹さん、モンノカヅエさんからの第一声は「面白かった」「あの場に立ち会えて光栄だった」という賛辞です。モンノさんはとあるハプニングの場面を「お気に入り」と回想しながら、「3回全部見たかった」と言います。山川さんからは「ジョン・ケージのイベントやアラン・カプローの『ハプニング』などを思わせる空気感が会場に漂っていました。いわゆるウェルメイドなパフォーミングアーツ作品として観ることもできました」と、現代美術におけるパフォーマンスの歴史を想起させたとし、またステラーク氏(*1)が観に来ていたことに触れ、メディアと身体によるパフォーマンスの系譜における花形さんの立ち位置、独自性についてもコメントしました。

OPEN SITE 8『A Garden of Prosthesis』(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2023)
写真:大野隆介 画像提供:Tokyo Arts and Spac

花形さんも「3回の公演それぞれに観客の質も異なり、毎回違う庭ができました。1回目はオペレーション上の失敗などもあり3回目と同じくらいカオスでしたが、そのフィードバックによって2回目はシンプルでキレイな庭ができました。庭師の会話に徐々に独自の語彙が生まれたりもして、日々進化していきました」と振り返ります。アドバイザーからはプロジェクションの位置やスクリーンの選択など、いくつかの技術的な改善点も挙げられました。

花形さん

作庭をモチーフにした作品構築法

制作について、「舞台作品づくりの基本的なルールや構成もわからずはじめた」と花形さん。「ただ、すべての要素を庭を構成するオブジェクトとして捉えれば、照明も音響もオブジェクトだから、照明係も音響係もいらない。作庭をモチーフにプロセスをつみあげていったら、自然と役割がつくられました」と、その独自の構築方法を振り返りました。

山川さんは「ウェルメイド」に感じたことやその意外性について、花形さんにとっての初めての舞台作品であるにもかかわらず、スコアやイントロダクションなど、舞台作品にとっての軸がしっかり設けられ、丁寧につくられていたことに起因していると補足します。その上で、美術や演劇のつくり方とは異なる「作庭」という方法論を軸に持ってきたことが、ユニークであり可能性を感じる部分だとしました。また「さまざまなものを等価に捉える」という本作のコンセプトにも触れ、「舞台と客席が分かれているのが舞台作品。花形さんの作品の後半では、そのどちらでもない場所がMRで立ち上がります。舞台空間と、バーチャルな空間が等価に一つの庭を構成する。シンプルではありながら、見たことのない空間でした」と、MRという技術とコンセプトとの合致、それによってできあがった作品の斬新さを評価しました。

山川さん

過去作とのつながりと今後の展開

花形さんは自身の過去作品『still human』『Uber Exsistense』に触れ、「過去作では作品の形式そのもののシステムから構築する作品が多かった。しかし、今回は、上演という形式に当てはめてつくったことで、その中で自分の造形的なこだわりや性癖などが思いっきり出てきた。形式の中で自分を解放していくのは、解像度をどこまで高められるかの戦いのようでもあり、ヒリヒリした。勉強になりました」と話しました。これまでと異なるアプローチによるフィードバックに、手応えを感じた様子です。

「共同制作者の個々の能力が高いと感じました。コレクティブのようにして活動を継続するのもよさそう」とモンノさん。また他領域、特にトランスミュージックやオーディオビジュアルのフェスティバルへの参加などを強く勧め、「パフォーミングアーツのパッケージを意識せず、独自の発展の方法、継続の方法を一緒に考えたい」と激励しました。「作品に関わった人たちの中に新しい職能のようなものが芽生えはじめている」と花形さん。継続することで、謎の洗練にたどり着く可能性がある、と未知への期待を漏らします。

本プロジェクトの初回面談では、ヌードへの制約が大きなトピックになりましたが、本作もセクシャルな要素が多分にあります。山川さんは、その点では国内よりも海外の方が発表しやすいとしながらも、「制約は花形さんにとっては逆風ですが、そこに対してどういう戦略をとっていくかも重要です。海外で活動するのもありですが、国内でなにか風穴を開けられないか。今後の課題の一つかもしれません」と、強度ある作品と作家の今後に期待を込めました。

TO BE CONTINUED…
他領域のフェスティバルへのアプライなど、領域横断的な活動を模索していく

*1 オーストラリア出身のパフォーマンスアーティスト。「人体は時代遅れである」というコンセプトを軸に、バイオテクノロジーや医学、生物学、ロボット工学等を活用し、身体の具現化や媒介性、アイデンティティに関わる作品を展開。花形さんの活動に着目し、以前から発表を見に来るという。山川さんとも交流があり、面談では身体とメディアを扱うパフォーマンスの系譜における3者の類似性や差異について話した。