2004年の結成以来、ヒップホップを通じて「地方」をテーマに活動し続けてきたグループ・stillichimiya。山梨県の一宮を拠点とする彼らのMVを担当するMr.麿さんとMMMさんによるクルー内映像ユニットであるスタジオ石が現在構想しているのは、台湾のヒップホップアーティストたちを主題としたドキュメンタリー映像です。2015年、映像制作集団の空族による映画『バンコクナイツ』に撮影・編集として参加したことをひとつの契機として接近していったという、アジアにおけるローカリズムというテーマ。どのようなかたちで作品化されるのでしょうか。
アドバイザー:米光一成(ゲーム作家)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
初回面談:2024年10月7日(月)
アジアのローカリズムとは何か
原住民ラップのリサーチ
プロジェクト『ZOKU』の一環として取り組まれている“stillhualian”。同作は台湾の原住民文化を引き継ぐヒップホップアーティストたちのドキュメンタリー撮影をベースに、彼らとの楽曲制作やライブの開催といった発展的な展開も構想されています。面談ではプロジェクトの企画・製作を共同で担う小幡あゆみさんから、その概要が語られました。「プロジェクト『ZOKU』は、集団/仲間という意味での『族』、高尚ではない世俗的なものとしての『俗』、抵抗し秩序を乱し、逸脱するものとしての『賊』という3つの漢字がコンセプトになっていて、こういった要素やエネルギーをみなさんに感じてもらうことを目指しています」。
その第一弾として目下制作が進められているのが“stillhualian”です。台湾には16の部族が認定されており、現地では差別的ニュアンスを含む「先住民」ではなく「原住民」という呼称を掲げ行政内に委員会を立ち上げるなど、日々台湾社会で存在感を示しています。その中にはヒップホップアーティストもいて、原住民の文化を楽曲に取り入れていると小幡さんは紹介します。若者の間ではほとんど使われることがなくなった原住民族の言語をラップに取り入れるHengjones大亨や、原住民族の相対的貧困など社会的なメッセージを発する3人組、Cornerに取材を行いたいと小幡さんから予定が語られました。また、現在は音楽活動をしていない原住民ラップの先駆、T-HO Brothers鐵虎兄弟の消息についても調査を行いたいと語られます。
アドバイザーの若見ありささんは「紹介だけに留まるともったいないので、問題意識を共有する、あるいは対立したとかも含め、本音のぶつけ合いが垣間見られるといい」と述べます。同じくアドバイザーの米光一成さんも、予定調和的なものになるよりは、想像と違うものが撮れたほうが面白いとコメントします。
ローカリズムをめぐって
Mr.麿さんはこうした原住民族のラップに関心を向ける理由として、映画『バンコクナイツ』に関わった経験を次のように話してくれました。「『バンコクナイツ』はタイの娼婦の映画だったんですが、彼女たちはイサーンという田舎からバンコクに働きに来ているんです。イサーンは文化圏的にはラオスに近く、バンコクとは言葉も音楽も違うんです。自分も山梨にいて、東京の隣にいるからそうした地方性は意識せざるを得ないところがありました」。
さらに、「僕らみたいな田舎の人間がどことつながるのかなと思ったら、いろんな縁の果てで、台湾の原住民の人たちなんじゃないかなって思うんです。同じ山の民として精神性も似ているし、“stillhualian”ができたらフィリピンやラオス、中国の周辺部にも行きたい」とアジア各国の「地方」をめぐるスケールの大きなビジョンについて語ってくれました。
ポストコロニアルな視点から
台湾はかつて日本が植民地として支配していた歴史もあります。こうしたポストコロニアルな話題も面談では話されました。Mr.麿さんはすでに行った台湾の取材時に、原住民族の伝統儀式に日本語が取り入れられていたことを知ったと教えてくれました。小幡さんも年配の台湾女性が、「日本の教育を通じてそれまで書けなかった文字を書けることは喜びだった」と話してくれた経験について触れ、支配の歴史の責任は感じつつも、多層的な文化を生み出していく台湾の人びとのたくましさをプロジェクトで表現したいと述べます。
Mr.麿さんは2000年代に制作された台湾の原住民族が日本の戦争責任について抗議する内容のドキュメンタリー映画を引き合いに出しながら、先行世代が同作において描いた 「対立」の側面だけでなく、自分たちの世代では対等なフューチャリングを通じ「繋がり」の側面を見せていければと希望を語りました。
終盤では多彩な展開可能性があるプロジェクトに対して、アドバイザーとさまざまな意見交換がなされ、1時間の面談は終了しました。
→NEXT STEP
ドキュメンタリー映像のための取材、編集を進めながら、MV制作や上映形式、イベントの開催について内容をフィックスしていく