デンマークやフランスでアニメーション制作を学び、短編作品を国内外で発表している深谷莉沙さん。『Flowers』はハナとライラ、2人の少女の変化していく感情と関係性を、ファンタジーを織り交ぜながら描く短編アニメーション企画です。デジタルでの作画をベースに、ハンドライティングの水彩画をミックスし仕上げることで、不気味さの中に暖かさが入り交じるような表現を探ります。全編のストーリーボードを挟んで行われた面談では、各場面や場面展開に対して受け手がどう感じるか、アドバイザーが一鑑賞者の視点からコメントしながら、作家の意図と表現のすり合わせが行われました。
アドバイザー:森田菜絵(企画・プロデューサー)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
初回面談:2024年10月7日(月)
多様な受け取られ方と作家の意図
2人の少女を通して普遍的な感情の変化を描く
深谷さんが本プログラムで制作予定の短編アニメーション『Flowers』は、2人の少女、ハナとライラを主人公に展開する物語です。徐々に植物になってしまうライラと、その変容を感じ取り感情が揺さぶられるハナ。「13、14歳くらい」という2人の未成熟な感情や関係性、そしてその変化を、セリフのないモノクロームのアニメーションで表現します。長さ10〜15分程度の中を10のシークエンスで構成予定です。
全編のストーリーボード(テキストと絵コンテ)を持参しアドバイザーに配布した深谷莉沙さん。今後ビデオコンテに起こした際に、場面の差し引きをする可能性はあると言いますが、まずはアドバイザーに率直な感想を求めました。
「多様な受け取り方ができる作品。人体実験や環境問題、宗教など、さまざまなメタファーを含んでいるが、その根本には少女の成長があると感じた」とアドバイザーの若見ありささん。アドバイザーの森田菜絵さんからも「描いているのは友人との関係だが、認知症や親子関係など、現代的なテーマとしても捉えられるところが興味深い」と、さまざまな受け取り方ができる点が本作の特徴として述べられました。深谷さん自身も「セリフのない短編アニメーションだからこそできる表現で、他者とのコミュニケーションにおける普遍的な感情を描きたい」と両アドバイザーのコメントに頷きました。
受け取られ方と作家の意図のすり合わせ
若見さんからは、各場面の解釈についての質問が投げかけられました。特にピックアップされたのは、身体的な接触や変化が伴うセンシティブなシーンです。若見さんがどう受け取ったか、またどう受け取られる可能性があるかについてコメントした上で、深谷さんの意図をヒアリングします。深谷さんは絵には描かれていない解釈について補足しながら、「ニュアンスを残したいと思っているが、感情の動きを描くことがこの作品のコンセプトでもある。それが分かりづらいのであれば改善しなければいけない」と、若見さんの声を真摯に受け止めます。
深谷さんからアドバイザーに意見を求める場面もありました。本作は具体的な時代や地域を感じさせないつくりですが、物語の中にはスマートフォンが登場します。「現代的なモチーフが登場することについてどう思うか」との問いに、森田さんからは、「そこにあえてスマホが出てくるのは、メディア史的な観点からは興味深い記録になる可能性はある」と俯瞰的な視点からのコメントが。若見さんは「前後の物語にも繋がっているモチーフなので、外すのは難しいのでは」と述べ、代替案がなければ無理に外す必要はないとしました。
物語として/アニメーションとしての見どころ
また、本作は全編モノクロを想定していますが、若見さんからは「ライラが植物になるメタモルフォーゼの場面をカラーにして、グリーンで植物を印象付けるのも一つの手」と色を効果的に使うアイデアが出ました。深谷さんもタイトルなど、一部にビビッドな色を入れることは検討中としながらも、「色が入ることで、鑑賞者がモノクロから色を感じ取れなくなってしまうのでは」と慎重な姿勢を見せます。
森田さんは「メタモルフォーゼがこの作品の見どころになるのか」と問いました。深谷さんは「自分の好みとしては、変化していくものを描くのが好きだが、そればかりになって感情の描写が見えなくなってしまうのは避けたい。一方で、2人のやりとりのみに焦点を当てるなら実写でもいいのかもしれない」と、本作で重要な感情や関係性の描写と、アニメーションとしての見せどころの間で葛藤があることを吐露しました。現状の絵コンテは双方のバランスを考慮したものだと言います。若見さんは「アニメーションとしての見せ場はあった方がいい」と、今のバランスで進めることを後押ししました。
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