「音とアニメーションを一体のものとして体験する経験」を作品化してきた大西景太さん。過去作品での試みをさらに進めた本企画『Traffic』では、MRデバイス等を使用し、音を視覚化した3Dアニメーションを、その音が鳴る位置に合わせて空間に配置するメディアインスタレーション作品に挑みます。

アドバイザー:和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)/
戸村朝子(ソニー株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門 テクノロジーアライアンス部 コンテンツ開発課 統括課長)

展示する時のための余地を残しておく

大西景太(以下、大西):中間面談でのアドバイスをもとに、後方の音も聞けるような配置を考えました。また、実際にウーファーを購入して鳴らしてみたところ、安定感が出たように感じています。
スピーカーを内蔵した柱状の展示台8個を四角く並置し、鑑賞者はそのなかに入って鑑賞します。これまで提示していた「静的モード」と「動的モード」というふたつのモードは、この形式でも踏襲します。「静的モード」では、音と3Dアニメーションが展示台の上から移動せず、その場で展開します。「動的モード」は、展示台の天面の高さにARで橋を表示し、その橋の上で、さまざまな方向・速度による音の移動を展開させたいと思っています。
また、ひとまず8種類の音と動きを決めました。今まであまり取り扱ってこなかった音色を中心に検討しています。例えば、音程が上下する音や有機的な音、こもった感じの音などです。次に、それらの音をどの順番で鳴らすのがよいかを検討しました。鑑賞者が、後方の音に気付いて振り向けるように、対角線上に音が移動する設定を考えました。あるいは全部のスピーカーが鳴っているなかで、音の出どころを探るような設定もいいかなと思います。

―iPadを用いたARで、音と一体となった3Dアニメーションを鑑賞しました。

戸村朝子(以下、戸村):動いているのがよくわかりますね。

大西:音と動きがずれないのでよかったです。

戸村:あとは実際の展示をしてどうなるかというところですね。机上の基礎プランがあるのはいいのですが、展示のときに変えていける余地があるといいと思います。設営にかける時間を十分にとっておくといいと思います。例えば、会場の壁の材質によっても音の反射が変わってきます。ぜひ消音のための素材も検討してください。床やコーナーに置くだけで音の反射を消すことのできるものもあります。そのあたりのことは、普段から音響の仕事をしている人にお願いできるといいのですが。

大西:専門家に頼みたいことはほかにもありまして。今、スピーカーをつないで音の移動の実験をしているのですが、ひとりでできることの限界が見えてきました。

戸村:今回は、あまり複雑なことはやらないほうがいい気がします。音の質感を視覚化した3Dアニメーションを空間に配置することに絞って、鑑賞者が迷子にならないようにしたほうがいいのではないでしょうか。音を聞き慣れてない人にとっては、その音をどう聞けばいいか慣れるまでに時間がかってしまいます。例えば、この作品のことを全然知らない人を被験者にして、試してみるといいです。そうすれば、導入部分をどうすべきかが見えてくると思います。設計図が頭にある人は、すっと聞くことができますが、大切なのは、初めての人がどう捉えるか。図面を見ないとわからないような動かし方をするよりは、シンプルな方がいいと思います。

大西:ARの稼働範囲の実験も行っていますが、その範囲も当初の想定より広くなっているので、どこまで実現可能か検討したいと思います。

ひとりでは解決できないこと

大西:まだ解決できていない点がいくつかあります。ひとつめは、展示場所が決まっていないことです。前回のアドバイスを受けて、まず1カ所に展示の企画書を送りましたが、まだ進展はありません。ほかには、知人と共同で展示しようという話もあります。
ふたつめは、技術的なことです。音を移動させるときに、鳴ってほしくないスピーカーからも小さく音が鳴ってしまいます。ソフトウェアの設定で変えられるのかもしれませんが、僕個人の力では解決できませんでした。誰か専門の人に聞いたほうが効率的かもしれません。ほかにも、今回「Cinema 4D」(3DCADソフト)でつくった3Dアニメーションを「Unity」(ゲーム開発環境)に書き出す作業があるのですが、その際に不具合が生じてしまいます。助言をもらえる人が身近にいないので、そこでつまずいています。

和田敏克(以下、和田):スピーカーの問題は、鑑賞者の体感的に音が移動している感じは弱くなってしまいますか。

大西:音が移動していることはわかると思います。ただ、例えばバラバラに8個のスピーカーが鳴っているとき、鑑賞者は一番音量が大きい方向に意識が向くのですが、その際に違う方向からも音が聞こえると、状況として分かりにくくなってしまいます。作品の意図とずれないよう、音の出どころを完全に制御したいと考えています。

和田:その問題だけなら、詳しい人が見れば簡単に解決できる可能性もありますよね。

大西:そうですね。そのほかにスピーカーの向きなども専門家に見てもらいたいと思っています。

戸村:専門家が入ると、全く変わってくると思います。先ほどの設営の件もセットで、誰かに入ってもらった方がよさそうですね。音響デザイナーか、その弟子みたいな人がいいと思います。アーティストの思いを汲んで、技術面で支えてくれるような人が理想ですね。最後の展示まで組んでもらえる方を探してみてはいかがでしょうか。もしかしたら私のほうでも紹介できるような人がいるかもしれません。

次につなげるための作品発表

和田:知人と共同で展示を行う場合、その場所や時期の想定はありますか?

大西:実現のめどはたっていませんが、僕は2020年内にやりたいと伝えています。アートディレクターとイラストレーターとの3人展になりそうです。僕もデザイン出身なので、デザイン系のギャラリーを想定しています。

戸村:いいですね。普段あまりメディアアートの周辺にいない人たちに接触できる機会になると思います。技術論になってしまうとつまらないので。デザイン系の人や子供も来られるような展示をいろいろなバージョンでやってみて、反応を見ながらアップデートしていくといいのではないでしょうか。メディアアートの界隈にいる人のなかには音の定位に詳しい人も多いと思いますが、そこでの反応はあまり必要ではないと感じます。今回はプロトタイプでもあるので、こうした新しい体験がどう楽しいかを提示するほうがいいのではないでしょうか。それこそ映像の文脈でやる手もあるかもしれません。

大西:グラフィックの文脈で考えると、「何かをビジュアライズする」というカテゴライズのなかで僕は「音」をやってみた、とも言えると思います。そう考えると、デザインの世界でもいいのかなと思います。

戸村:そうですね。その文脈のほうが、大西さんの場合、次につながる手応えを得られると思います。

大西:音や動きのイメージはできているので、早く実現ができるといいなと思います。3月の成果発表では、プロジェクト内容を紹介するパネルと、再現ムービーを見せるモニターを展示したいと考えています。

―今後は、技術面で支えてくれそうな人物を探しながら、3月の成果発表や、その後の展示に向けて、引き続き制作を進めていく予定です。