個人の話や記憶を集め、普遍的な物語へと再構成し映像作品を制作する池添俊さん。『スペクトラム(仮)』では、統合失調症をはじめとした精神疾患とそのケアをテーマに、ケアに携わっている/いた方々へのインタビュー音声などを用いて映像作品を制作しています。最終面談では、成果発表イベントに向けて制作中の映像をプレビュー。「制作が進めば進むほど課題が出てくる」と、目下試行錯誤中の池添さんに、アドバイザーからはフィルムならではの技法的なアプローチを取り入れるなど、異なる視点からのアイデアが出されました。また、真正面からテーマに向き合い続ける池添さんに対して、根を詰めすぎず、さまざまなアプローチを知ることも大事とアドバイスがありました。
アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)/モンノカヅエ(映像作家/XRクリエイター/TOCHKA)
最終面談:2025年1月21日(火)
フィルムならではのアプローチで足踏みを打開
進むごとに見えてくる課題
成果発表イベントで発表予定の映像について編集中の池添さん。俳優3人が車座で精神疾患やその周辺のことについて語り合う映像と、別の1人がケアの経験について語りその後踊る映像、2つをプレビューしました。前者の冒頭と最後には女性の声であるエッセイの朗読が入ります。「個人的な経験を語るという特性上、語られる対象も語る方も匿名性を保つために音声は無くして字幕を入れる箇所を作る、公開可能なシーンだけ抜き出す、など、表現方法を模索しているが、制作が進めば進むほど難しさを感じている」と池添さん。とはいえ、そもそも本プロジェクトは世間で精神疾患やケアの悩みについて話したり、気軽に精神疾患のことを話題にすることが憚られることへの問題意識が制作のきっかけになっています。一方で、「精神疾患のことを話せない方がいるということも蔑ろにしたくないとプロデューサーと相談している」といいます。
アドバイザーの高嶺格さんは「正直なところ、展示を1ヶ月後に控えた状態とは思えない。つかみのようなものを早めに判断すべきでは。前に進んで欲しい」と、制作の進捗への懸念を吐露しました。

フィルムならではのアプローチ
アドバイザーのモンノカヅエさんは、まずは成果発表イベントに向けて、今ある素材をどうまとめるかを考えることを優先すべきと話します。プレビューで気になった点を挙げつつ、アイデアをディスカッションしました。「鑑賞者目線では、精神疾患の当事者の存在もやっぱりほしい」とモンノさん。池添さんは、プレビューした二つ目の映像の後半で登場人物が踊る理由を「ある当事者の方は統合失調症になって以来、踊っているときが一番良い状態でいられたと聞き、その様子を再現した」と話しました。「やっぱり。あのシーケンスは作品になっていると感じた」とモンノさん。加えて、「統合失調症は自分と他者や環境との境界がなくなることだと論文で読んだ。例えばフィルムスクラッチングなどの技法を取り入れて、当事者の視線を表現するのはどうか」と提案しました。
池添さんは「映像演出的にフィルムとデジタルをクロスオーバーする方法を考えている」といいます。デジタルのルックとフィルムのルックを混ぜ、画面の一部だけ鮮明に見せるようなイメージです。精神疾患の特徴の一つ、特定のものへの執着を表現するねらいです。アドバイザーの二人も賛同し、高嶺さんは「ぜひ成果発表に間に合わせてほしい。今狭いエリアで足踏みしているように見えるが、何かを加えることでガバッと広げることは可能だと思う」と激励しました。

テーマに長く付き合うために
モンノさんは、インタビューや取材を通して池添さん自身が「企画のテーマに向き合いすぎて、しんどくなっているのでは」と尋ねます。池添さんは「あまり根を詰めると、正直なところ、自身も心身ともにくらってしまう」と頷きました。
同様のテーマを扱っていても、ダンスのワークショップなどさまざまなアプローチがあります。「いろんなアプローチに触れてみるといい。アートに触れることは、池添さん自身のケアにもつながる」とモンノさん。今後もこのテーマに長く付き合っていくであろう池添さんを労い、励ましました。

TO BE CONTINUED…
技法的なアプローチも取り入れながら、成果発表イベント展示用の作品を仕上げる