メディアアート領域で活躍し、映像とその外側にある装置や空間を横断的に体験するアニメーション作品を制作する重田佑介さんと、デジタル表現の中にアナログ絵画が持つ身体性や偶発性を取り込み、ピクセルアートの新たな可能性を模索するZennyanさん。今回採択された『劇場屋台』(仮)は、アニメーションの世界と現実の風景を重ねながら、ひとつの物語的世界が結実する屋外型劇場空間をつくる試みです。
アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大教授)/
和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
映像で、物語ではなく環境をつくる
―制作中の映像を流して進捗を確認します。
重田佑介(以下、重田):リアカーなど屋台の材料は発注したので、これから組む段階になります。映像はなんとなく全体像が見えてきました。前回の面談から映像の方向性に変更がありました。てるてる坊主をメインにした物語をやめて、環境をつくることに重点を置きました。音楽もメロディのないものにしたいと考えています。映像のループについては、最初と最後があってもいいかなということで、ある瞬間に流星群のようなモチーフがあらわれて、全部消滅するシーンをつくります。1ループで5分ほどの予定です。
和田敏克(以下、和田):頭に星のようなものがついた、人型のキャラクターが出てくるのですね。今は動いていないようですが、ゆくゆくは動作をつける予定ですか。
重田:頭に星のような形がついているのが、一部が欠けたような存在をイメージしています。紙飛行機を投げて飛ばしたり、誰かと交信したり、といった動作の予定です。全体的に上からものが落ちてくるような、縦のつながりはあるけれど、横のつながりが今はあまりないので、紙飛行機や、泳ぐ魚など横の動きを加えて、全体の流れや循環をつくっていきたいです。
しりあがり寿(以下、しりあがり):物語性を入れるのをやめたのはなぜですか。
重田:てるてる坊主のモチーフには飛躍があると考え、鑑賞者が映像を見るときに疑問が抱かれる可能性が高いかなと。てるてる坊主を抜いて、星と屋台だけで映像を成立させてしまうのはどうだろうと考えました。
Zennyan:自動車など物が上から降ってくるシーンに対して、てるてる坊主の可愛らしいキャラクターに違和感があって、同居させづらいと感じました。冒頭のシーンをつくる過程で、てるてる坊主の存在をもとに雨の代わりに物が降るシーンを思いついたので想起の役割としては重要でしたが、最終的には入れなくていいかなと思います。
和田:てるてる坊主を抜くことで作品が良いほうに向かうかもしれませんが、てるてる坊主のキャラクターは可愛らしいですし、ビジュアル面から単純にもったいないなあとも思います。また、いま登場している人型のキャラクターが少し理屈っぽい気もします。
しりあがり:中間面談で見せてもらったときよりも、全体のトーンが揃ってひとつの世界ができてきましたね。ここからは物足りなさとの戦いが起こってくるかなと。一言で言うと「舞台は整ったぞ。さあ、どうするか」という期待に答えられるかどうか。見る人があっちもこっちも見たいと思わせられるか、です。
Zennyan:エンターテインメント性はもともと低いのですが、今回の狙いとして快楽性に寄り、映像の没入感を重要視するのも違うかなと。アクアリウムを眺める感覚に近いのはどうかと重田さんと話していました。ストーリーがあるわけではないけれど、そこに魚がいて、水草があり、その環境を眺めるだけで楽しいこともあるのではないか、と。環境をつくる感覚は残しつつ、エンターテインメント性とのバランスを悩んでいます。
世界を伝える「プロフィール」を入れる
和田:この作品では、見る人は映像を映すための白いノートを持って、まわりますよね。見られるものを探しにいきます。そこで見る人は「この映像がどういう世界か」を、ひとつひとつのキャラクターの動きのなかに見出そうとするでしょう。この世界を知る手がかりが、動きのなかに少しでも見えてくるといいなと思います。
しりあがり:例えば魚が、全体を回遊していてもいいかもしれません。さっきこっちで見られた魚が、あっちで見られるなど。
和田:ひとつの空間だというのが伝わるといいですね。世界の成り立ちというか、プロフィールのようなものが見えるといいと思います。大きな循環が見えると、世界が見えるかもしれません。
しりあがり:あとはクスッとさせる一瞬があってもおもしろいかもしれません。この世界は、最後に彗星のようなものがやってきてみんな光の粒になるのでしたよね。そのあとループして冒頭に戻ると思いますが、おわりとはじまりの境目ははっきりとは明示しないですか。
重田:あまりわからないと思うのですが、最後のシーンはカタルシス的にモチーフが消えていくので見どころになっています。最初をもう少し工夫したいと考えているのですが。
しりあがり:消えるものと生まれるものがつながっているといいですね。
和田:映像のなかの星屑や星の光はとてもきれいですが、人工的な光、たとえばビルとや車のヘッドライトなども、上手に使えるといいと思います。今回は船は出てこないのでしょうか。船の動きは自由度が高いので、入れてもいいかもしれません。手漕ぎボートが動いていてもいいかも。
しりあがり:船はいいかもしれないですね。すー、すーっと生き物が動いているような。
Zennyan:前作とは差別化したいというのもあり、船のモチーフを入れていなかったんです。
―前作の映像を流します。
和田:いきいきとしたキャラクターの動きをつくるのがとても上手なので、そういうのがあると魅力的になると思います。
Zennyan:前作では映像にストーリーがありました。男の子がいろんなところを旅して、それを追っていくような流れです。星座の話で、さそり座や蟹座などのキャラクターも出てきます。彼が月面に着いたとき、自分とそっくりの男の子に出会います。実は男の子は双子座だったというオチです。ですが、そのストーリーはなかなか見る人に伝わりにくかったようです。ただ、映像をつくるとき、モチーフがあったほうが世界をつくりやすいです。今回は大きなモチーフをもとに映像を膨らませるやり方でつくっていきたいです。前作はほめていただけたので、これを超えるためにも違う方向で勝負してみたい。そのため、てるてる坊主も抑え気味にしました。
しりあがり:土台はできているので、楽しんで映像をつくってください。
和田:最終的な作品を成果発表イベントで見るのが本当に楽しみです。
―今後は、成果発表に向けて映像インスタレーションの制作を進めていきます。