デンマークやフランスでアニメーション制作を学び、短編作品を国内外で発表している深谷莉沙さん。『Flowers』はハナとライラ、2人の少女の変化していく感情と関係性を、ファンタジーを織り交ぜながら描く短編アニメーション企画です。デジタルでの作画をベースに、ハンドライティングの水彩画をミックスし仕上げることで、不気味さの中に暖かさが入り交じるような表現を探ります。最終面談では、成果発表イベントに向けて制作中の、弦楽器の音の入ったトレーラーのラフを共有。音のディレクションやポストプロダクションなど、今後進めていく上で深谷さんが不安に感じていることについて、さまざまなアドバイスがなされました。

アドバイザー:森田菜絵(企画・プロデューサー)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

最終面談:1月16日(木)

終盤のビデオコンテを慎重に制作

面談冒頭、深谷さんはできあがった告知ポスターのデザインを紹介しました。シルバーやゴールドなど見る角度で変化するインクを使用し、本作のテーマである変化を表現しているといいます。

中間面談以降、ビデオコンテを進めながら、成果発表イベントで展示するトレーラーの制作を行ってきました。モニターで再生されたトレーラーのラフでは、アニメーションとともに、ライラとハナの心情や関係を表すヴァイオリンとヴィオラの音が印象的に響きます。

ビデオコンテを詰める中で、ライラの母親の登場シーンなどを再検討したといいます。また終盤のライラのメタモルフォーゼや2人の変化を表現する場面は「変えたり戻したりを繰り返している」と深谷さん。大事なシーンのため、納得のいく表現ができるよう時間を割いているといいます。

支援期間終了後も、映画祭出品を目標に着実に歩みを進めます。4、5月でラフアニメーションを完成させメインのプロダクションに入り、6、7月にはポストプロダクション(編集)へと進行、同時にライティングや音楽、サウンドエフェクトの制作もビデオコンテ合わせでスタートさせる予定です。

音のディレクション

音楽の編集は、2018年制作の『MIMI』にも参加した音楽家への依頼を予定しています。「トレーラーのヴァイオリンの音もその方に入れていただいた。とてもいい印象だが、全体が見えてからバランスを整えていきたいが、音楽のプロに任せるべきか迷いがある」と、ディレクションの線引きに悩んでいる様子の深谷さん。アドバイザーの若見ありささんは「私は人に任せて失敗した経験から、インディペンデントで作るときにはかなり具体的に指定している。指示も出すし、出てきたものに変更をお願いすることもある。それは当然のこと」と自身の経験を踏まえてアドバイスしました。

アドバイザーの森田菜絵さんも「この作品は、言葉ではなく楽器に語らせようとしているので楽器の音はとても大事。深谷さんの試行錯誤に付き合ってくれる人だといい」と、音の重要性への理解を示しました。

森田さん

個人制作の進行管理

今深谷さんが懸念しているのは、ポストプロダクション以降のマネージメントです。「ポスプロは私の経験も浅く、制作進行ができる人やプロダクションを探したほうがいいのではないか」といいます。この支援事業で過去に採択されたアニメーション作家からも、制作進行の必要性は少なからず聞かれてきました。しかしながら実際には、予算や適した人材がいないといった問題から、インディペンデントなアニメーション制作の現場に制作進行が入る事例は少ないようです。

「おしりを叩いてくれる友人がいるといい」と若見さん。深谷さんも頷き、「以前、作家同士でお互いに叩き合おうと話したことがある」といいます。また以前参加したアーティスト・イン・レジデンスを振り返り、「参加作家が月に一度集まり、互いの進捗をプレゼンテーションする場がありとてもよかった」と、クリエイターが相互にプロセスを共有し高め合う場やネットワークの必要性を説きました。

若見さん

舞台の経験と独自のグラフィズム

「深谷さんはグラフィックへの意識が高く、世界観をつくれる作家。一緒に仕事がしたいという方はおのずと現れると思う」と森田さん。これまでの面談でも、深谷さんからはグラフィックに対する独自の視点や美意識が示されてきました。「もともと舞台をやっていて、舞台のフレームワークや書き割りのような考え方がとても好き」と深谷さん。アニメーションのグラフィズムを考える上でもその感覚があるといい、「ゆくゆくは舞台とアニメーションを組み合わせた作品などにも挑戦したい」と意欲を見せました。若見さんは「美術館やギャラリーにも展開できるのでは」と、今後の活躍の場の広がりに期待を寄せました。