「多元的な聴取」をテーマにゲームとサウンドインスタレーションを組み合わせた複合的な作品『野生のオーケストラが聴こえる』の制作を進める丸山翔哉さん。初回面談では理論的な側面をどう作品に昇華させるのかが話題の中心でしたが、中間面談も経たこの最終面談では、これまで指摘されてきた課題にどう丸山さんが対処したのかが報告され、アドバイザーからは再度作品のテーマ性について問いが投げかけられ、議論が深められました。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/西川 美穂子(東京都現代美術館学芸員)

最終面談:2025年1月17日(金)

「多元的な聴取」から「万物の声を聴く」へ

『野生のオーケストラが聴こえる』は仮想空間のなかでフィールドレコーディングを行い、そこで録音されたサウンドをインスタレーションとして展開する作品として構想されています。まず丸山さんから、この支援事業で受けたフィードバックを踏まえながら、どのようなブラッシュアップを行ってきたかかが話されました。

「多元的という言葉を使わないほうが分かりやすいのではないかという指摘を受け、改めて自分の考える『多元的聴取』について考えたのですが、そこには異なる音を同時に聞いてそれぞれの文脈や意義を解釈していくような能力や、対話的な聴取、あるいは人間が聴こえない超音波が含まれています。これをもっと伝わりやすい言葉にしようと思いついたのが『万物の声を聴く』というキーワードでした。『声』というフレーズを使うことによって、オブジェクトが私たちにメッセージを送っているというニュアンスを暗に鑑賞者に示唆でき、テーマも共有しやすくなるんじゃないかなと思ったんです」。

続けて丸山さんは制作の進捗状況について話してくれました。「サウンドインスタレーションの形式を取るので、ゲームはできるだけシンプルにしています。オープニングでは宇宙から地球を見ているような視点映像を入れ、プレイヤーはこれから地球にこれから乗り込み、そこにある音を聞きに行くというところからゲームを始めてもらいます。そこで一定時間録音するとシナリオが入ってレベルが移行するようなかたちで進行します。それでアイテムも増えていき、だんだんと録音方法も多様になるようなイメージです。都市空間はUnreal Engineで提供されているFabというアセットのマーケットプレイスの中からいろいろなものを組み合わせて作って、ビジュアルに対してはあまり関与しないスタンスでつくっています」。

丸山さんのプレゼンテーション

仮想空間でしかできないフィールドレコーディング

現在の制作状況について説明を行いながら、丸山さんは実際にゲーム画面を操作してフィールドレコーディングを行います。すでにさまざまなオブジェクトに音が設定されていて、ズーム機能によって遠くの音もレコーディング可能であることが紹介されます。こうしたテストプレイを受け、アドバイザーの西川美穂子さんも「『万物の声を聴く』という意図が具体化し始めましたね」と反応します。また、ひとつの物に対しても複数の音が仕込まれており、ハンディマイクだと周囲の音が、コンタクトマイクだとその物の振動が聴こえるようになったりすることが紹介されました。建物の反対側の音が反響して聴こえるなど、現実世界でも起こりうる音の現象を取り込もうとするなど、これらの設定からは丸山さんのこだわりが垣間見えます。

ゲーム内でのフィールドレコーディングの実演

アドバイザーの石橋素さんは、一連のプレゼンテーションを受け「現実空間に寄せることだけではなく、仮想空間ならではのサウンドレコーディングの楽しさを見出す方向性もあるのではないか。現実には鳴ってない音が聞こえるとか、すごい速度で移動したときの音とか、現実ではできないことがあると楽しさにつながるのではないか」と提案します。丸山さんもそれに同意しながら、「天候などによって音が歪むのはどうか」などアイデアを膨らませます。

石橋さん

インスタレーションをどう見せるか

丸山さんはゲーム制作に関して一定の手ごたえを感じる一方で、どうインスタレーションに展開していくかということについては、「グッドアイディアが出ていない」とアドバイスを求めます。ここで議論になったのは、プレイヤーの位置づけとその見せ方でした。

西川さんは丸山さんがプレイヤーのことを、オーケストラを指揮するコンダクターと位置づけるのに対し、むしろ冒険者のような存在ととらえ、さまざまな音と出合っていく面白さに可能性があるのではないかと指摘します。続けて見せ方に関しても、複数のスクリーンで視点の対比や情報の違いを出すのはどうかと提案します。石橋さんも音だけを聴く部屋をつくるのはどうかとアイディアを述べ、展示する際の助言を数多くもらった丸山さんは「考えがすごく整理された」とアドバイザーに感謝を伝え面談は終了しました。

西川さん