展覧会のキュレーションや書籍の出版、アートプロジェクトなど、多様なアプローチから思索の実践を試みる吉田山さん。5cm立方の箱におさまる作品の出品を複数のアーティストに呼びかけ、海外のどこかの窓辺に恒久設置するプロジェクト『風の目たち』は、すでに2カ国で実施されています。今回あらたにギリシャで実施し、ARコンテンツを併せ持つカタログを作成予定です。12月にギリシャとジョージア、そしてアルメニアへの渡航を実施した吉田山さん。最終面談では主に、アドバイザーからの質問に答えながらその報告がなされるとともに、帰国後本格的に着手したカタログ制作について議論が交わされました。
アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)/モンノカヅエ(映像作家/XRクリエイター/TOCHKA)
最終面談:2025年1月21日(火)
旅のライブ感をカタログに
16の小作品とともにギリシアへ
12月、16作家による小作品を手荷物で運び、まずはギリシャのアテネにあるギャラリーで全作品をまとめて展示しました。ギリシャで日本人の作家の作品が見られる機会は非常に稀だといいます。アドバイザーの高嶺格さんから、ギャラリーがあるエリアの特徴について尋ねられると、吉田山さんは「観光地ではない。昼間に歩くとおしゃれなカフェがあったりもするが、アテネの人は皆夜に行動するので、ギャラリーに人が来るのは閉める1時間前ということも。EUの中では安い方とはいえ、物価は高い」と現地で得た感覚を伝えます。
アテネでの展示後は、車を借り、ジオアニア、テッサロニキなどギリシャ各地をアシスタントと二人で巡り「アテネで聞いた情報を頼りにしながら、行き当たりばったりで作品の設置場所を探した」と吉田山さん。その後、ジョージアのトビリシに空路で移動。トビリシは2年前に同プロジェクトを実施した土地です。「友人の作家に会いながら、トビリシでも作品を置ける場所がないかと探した」といいます。またトビリシでの滞在を終えたのち、「滞在は10時間程度」ながら、ジョージアの南、国境を接するアルメニアにも立ち寄りました。

作品を設置しながらの旅
20日間、3カ国に渡る旅の中で、16人の作家による作品はすべてカフェやレストラン、パーキングの待合所、パン屋、ケバブ屋、宿泊施設など、さまざまな場所に設置してきました。交渉の際、英語が通ない場合はAI翻訳を駆使したといいます。「場所探しから作品を置くところまで、毎日緊張しながら」と吉田山さん。とはいえ報告の端々からは、いい意味で「行き当たりばったり」なリラックスした雰囲気が感じられます。
トビリシではタクシーの運転手に誘われ、ロシアとの国境近くにある修道院へ。そこから見えたのは、ロシアからジョージアへの物流など主要なインフラを担う軍用道路でした。「2年前のジョージアで、戦役を逃れるためロシアから流入してきた人たちを見た。彼らが歩いてきた道はここだったのだと気がついた」と吉田山さん。旅の中で得た体験や知見を話しだすと、枚挙にいとまがありません。「ジョージアはちょうど大統領選挙期間中で、誘われてアーティストデモにも参加した。そういった想定外の出来事など、ライブ感をカタログに含められるといい」と、旅を終え、3月の校了に向け本格的に取り組んでいるカタログづくりに話が進みました。

紙面とAR、二つのレイヤーを活かす
吉田山さんが今悩んでいるのは、旅の中で見えた国同士の関係やポリティカルな問題を、カタログの中でどこまで、どのように扱うかということです。「ジョージアやその周辺国は互いの関係が非常にセンシティブ。ただある意味では、北朝鮮と韓国と中国と日本を巡っても似た感覚を得るのかもしれない」といいます。アドバイザーのモンノカヅエさんは「それこそ、ARで組み込むといいのかもしれない。表向きはアートの本だけど、その背景にある問題をARで表現するのはどうか」と、レイヤーを分けられるのがXRの強みと話します。
ARについては現在、アプリを使わずブラウザで再生可能なシステムを検討中と吉田山さん。「360度カメラで毎日ずっとVlogのように録画していた。それをマップと連動させ起動させることはできそう」といいます。モンノさんは「人々の日常を映した映像からも、今のピリついた空気感はきっと感じられる」と加え、また2年前の滞在時の資料も見返してみてはと提案しました。高嶺さんは「現地の民族衣装を吉田山さんが着て、ちょっと小話をするというのもよい」と、吉田山さん自身が持つキャラクターの魅力を生かすアイデアを例示しました。

想像の余地を残す青
モニターで共有された紙面のレイアウトは、フルカラーではなく青一色の色調でデザインされています。その点を高嶺さんが尋ねると、吉田山さんは「作品が今も設置されているかどうかは、オーナーの匙加減次第。作品はシュレディンガーの猫のように、あるかないか曖昧な境界に存在している。幽霊のようなもの」と、そのイメージを青色に込めたと話します。また想像の余地を残すねらいもあるといい、カタログを見て終わりではなく「見た人に、現地に行ってみてほしい。いい旅になると思う」と、自身の旅の充実度を滲ませました。
成果発表イベントでは、表紙付きの束見本や写真のスライドショーによる資料展示を予定しています。カタログの予約フォームも用意したいとの声に、モンノさんは「とても楽しみ」と期待を寄せました。

TO BE CONTINUED…
3月のカタログ校了に向け紙面とARコンテンツを制作する