『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project(仮)』は、VR作品や「トークコンステレーション」などによって構成される複合的なプロジェクトです。企画者の伊藤さんは「科学技術の構想の亡霊性」をキーコンセプトに、過去の技術者や科学者たちが実現しえなかった夢や妄想をナラティブにし、総合的な知覚体験として作品化しようと試みます。この意欲的なプロジェクトに、アドバイザーたちはどのような助言を与えたのでしょうか。
アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)/庄野祐輔(編集者/キュレーター/デザイナー)
初回面談:2025年9月25日(木)
テクノロジーとフィクションが重なり合うことで生まれる「夢」を表現したい
技術者の妄想を怪談にする
リサーチやプロジェクト進行を担当する高山哀悟さんと坂下剣盟さんともに面談に臨んだ伊藤さん。まず企画の概要について説明します。
「ハードやデバイスの技術者、開発者が持っていた新しいものづくりをするときの『妄想』をインタビューで引き出して、それをVRを用いた怪談にしようというプロジェクトです。インタビュイーは日本人開発者、もしくはその周囲の関係者を想定しています。リサーチの過程でソニーが90年代にエスパー研究所という部署を設けていたことを知りました。ソニーの取締役である土井利忠さんの技術論・技術史観は少し宗教的な観点もあるんですが、エスパー研究所もそういったスピリチュアルな観点も持って開発をしていたようです。怪談や噂話の文法をリサーチしながら、時代の中で忘れられていく技術史観や日本特有の霊性にまつわるエピソードを引き出して、鑑賞者に日本的技術観の体感をもたらすようなVR作品にしたいと思っています」

「妄想」をめぐって
アドバイザーの庄野祐輔さんは、取材者を日本人に限定する理由について問いかけます。それに対し伊藤さんは「コンピュータやVRの歴史が欧米を中心に展開しているなかで、日本固有の技術観やインタラクション観を引き出せればと思っています」と応じます。
その次に議論の対象となったのは、取材者に対する倫理性でした。伊藤さんは企画書や面談において、取材する技術者たちから「妄想」を聞き出したいと述べています。これについて庄野さんは、現実とフィクションが交差する企画趣旨に理解を示し、企業の技術者の場合はコンプライアンスも障壁になりうる可能性について触れながら、前提として次のように指摘します。
「伊藤さんは良い意味で妄想という言葉を使われていると思うんですけど、悪い意味でも取れる言葉なので話の仕方には注意して、コンセプトとして文脈を語れるようにするとよいと思います」。伊藤さんはリサーチの担当者が映像人類学の研究者であり、チームでリサーチプロセスを話し合いながら取材が孕む暴力性について慎重に検討しプロジェクトを進行すると述べました。
アドバイザーの高嶺格さんは、取材者の候補リストに男性しかいないことに触れ、イタコなど霊的世界と親和性の高い女性や女性の技術者も入れることで、作品にふくらみが出るのではないかと指摘。また、最終的な完成時において、取材をしたという事実がどのように反映されるのかについても聞きます。伊藤さんは「ドキュメンタリーというよりはフィクション的側面も強い作品がつくりたい。あくまでインタビューの中で出たフレーズやエピソード、技術や研究によって開かれるビジョンや妄想を作品の中で使うイメージです」と応じました。

作品の中心となるものは
このプロジェクトでは従来の形式にとらわれない形でトークイベントを行うことも計画されています。伊藤さんは次のように語ります。「物語をつくるプロセスや技法をテーマとした『トークコンステレーション』を行う予定です。例えば、映像作家をお呼びして、作品を上映したあと、取材や作品をつくる技術についてプロジェクトの過程で話し合い、実践知を獲得していく場をつくるプランです。集客やレビューのため作品完成後に後付けでトークをするのではなく、プロジェクトや制作の気づきを得ながら、プロジェクトの進行方法をブラッシュしていくことを同時進行で進めたいと思っています」
自然科学と人文科学が混然一体となった意欲的な企画に対し、庄野さんは怪談や噂話というコンセプトだけが先行し過ぎてしまうことへの警鐘も鳴らしつつ、「いろんな概念が登場するが、中心となる言葉があった方が、解像度が上がるのでは」と指摘。それに応じる形で高嶺さんも「今まではアイデアを広げてきたかもしれないけど、テーマを絞っていく、逆の方向性を考えるタイミングに来ているのかもしれない」とコメントしました。
伊藤さんはこれらのアドバイスを受け止めながら「テクノロジーをつくり出すときに生まれる、『夢』がなくなっていく状況を切実にに表現したい」と制作のモチベーションを改めて述べ、初回面談は終了しました。

→NEXT STEP
取材とリサーチを進行する中で、中心的な概念を探り、作品の完成度を高める