実写やコンピューターグラフィックス、電子工作などの技術を組み合わせ、グラフィックや映像、彫刻、メディアアート作品の制作に取り組む小野龍一さん。現在は大学院の博士課程に在籍し、彫刻などの実物体の見え方にVFXのような効果を付与するオリジナル技術「Tangible VFX」を研究。『VoF』(=Vibration-Originated Field)ではその表現をより拡張させることを試みます。
作品には振動やそれを生み出す音、光、造形物など、さまざまな要素が絡み合い、またその見せ方にもさまざまな可能性が見出されます。面談では作品の方向を見定めていくため、各要素に必然性を持たせる方法や、作品の最終的なアウトプットの仕方など、多様な視点から意見が交わされました。
アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/織田笑里(404 Not Found ジェネラルマネージャー/チョコとマシュマロ合同会社代表)
初回面談:2025年9月19日(金)
現象の面白さをどう伝えるか
立体物にエフェクトをかける
小野さんにとって『VoF』は、「Tangible VFX」の研究を基盤とした継続的なプロジェクトです。これまでの研究では、立体物に振動アクチュエーターと光源を組み合わせ、実空間上に視覚効果を付与するための基礎的な検証を重ねてきました。初期の実験では、立体物を振動させることでボケのような視覚効果を生成し、それらを複数組み合わせることで被写界深度を擬似的に再現しています。さらに、光の三原色であるRGBの点滅制御によって、色収差やグリッチに近い視覚効果も実現しました。
加えて、環境音や触れる行為を入力として取り込むことで、その場の状況に応じて効果が変化するインタラクティブな表現との統合も進めています。
『VoF』ではこれまでの手法を基本として、作品のスケールアップを目指します。現在はスケールアップに伴って、複数同時制御を想定したオーディオや振動アクチュエーター、照明などの各機器やシステムの選定を改めて行いながら、視覚効果を与える対象となる立体造形の検討を行っているといいます。
今回はプロトタイプとして、密教で用いられる法具から着想を得たという作品『顫杵(せんしょ)』を持参。動く様子をアドバイザーに披露しました。アンビエントな音と共に、グリッチや色収差といった視覚効果が目前の立体物に現れます。
「振動のために出している音は50〜60ヘルツの低めのサイン波。そのあたりが一番、フリッカーのような現象が起きずに視覚効果を与えられる値。照射しているLEDのRGBの点滅の間隔やパルス幅を設定することで、立体物の見え方に色収差のような視覚効果を与えている」と小野さん。


現象の面白さとストーリー
小野さんからの解説を受け、アドバイザーの石橋素さんと織田笑里さんからは、「歌やメロディのある音楽を入力にしても視覚効果は起こせるのか」「立体物が増えるということだが、音や光源の数は変わらないのか」「立体物の振動幅はどれくらいか」、そして「立体物の形状の理由は」など、さまざまな質問が投げかけられました。複数の要素を含む本作。要素ごとに多様な選択肢があり、それらをどう決めていくかが重要であり、悩みどころのようです。
「この作品にストーリーや意味性を乗せるのかどうか。例えば複数の造形物が一つ一つ異なる意味を持つなら、光源も個別に用意するなど、造形物のそれぞれの存在が際立つ工夫をした方がいいのかもしれない」と織田さん。重ねて石橋さんは「あるいはテクノロジーの面白さを全面に出すのか。どの選択もあり得る」とコメントします。この作品が持つ可能性に触れながら、目指す方向を定めることの必要性が説かれました。
小野さんは「ゆくゆくは両方の方向性で作品をつくってみたい」とした上で、「モノリスのような、SF的な妙なオブジェクトが目の前に現れるだけで僕は嬉しい。今回は抽象的な立体物で、視覚的な現象の面白さを全面に押し出したい」と話しました。
小野さんの目指す方向性を受けて、石橋さんは「作品を見慣れた作家自身には判断が難しくなってしまいがちだが、鑑賞者がぱっと見て現象に気づけるかどうかが肝心。今の状態ではまだ弱いかもしれない」とアドバイスを加えました。

特撮のメイキングのように?
本作でつくられる視覚効果は、映像として見る分にはごく見慣れたものです。石橋さんは「それをあえてアナログでやっているというのがこの作品の面白いところ。この作品を使ってつくった映像作品を見せて、その後に種明かしをするというのも一つの手」と、プロジェクトの魅力が伝わる見せ方のアイデアを例示。「特撮のメイキングのよう」と小野さんも面白がります。続いて織田さんからは「来場者が発した音に反応してエフェクトが変わる」というインタラクティブな案も。小野さんも声を取り入れる案は抱いていた様子で、「無機質な造形に、生命的なイメージを与える効果も期待できる」と話しました。そのほか、音の波形や光の点滅周期に何かしらのデータソースを設ける案や、さらにそれらをビジュアライズする案など、見せ方についてのさまざまなアイデアが出されました。
たくさんのアイデアが出るのは、このプロジェクトに発展性があるからこそです。「だからこそ、どれを最初にやりたいか、あるいはどれが間に合うかなど、早い段階で見定めることでプロジェクトが進めやすくなり、完成度も高められそう」と織田さん。
「スマホのカメラなどでは現象を撮ろうとしてもうまく撮れない。それが面白いと思っている」とこのプロジェクトに自身が感じている面白みについて語った小野さん。「生身の身体で見ることの価値が感じられる作品。それを軸に考えるのもいいかもしれない」と、コンセプトを詰め作品の見せ方を定めていく意気込みを見せました。

→NEXT STEP
中間面談に向けて、コンセプトを練りながらプロトタイプの制作を進める