「音の取り扱いとDIYによる自由」をテーマに、自作装置の制作や楽器による展示、演奏を国内外で行うアーティスト、すずえりさん。2022年頃から継続する可視光通信システムを用いたプロジェクトをさらに展開し、誰でも演奏可能な楽器の制作と、レーザープロジェクター等を組み合わせて音とデータでグラフィックを描くという新たなインスタレーションの制作という二つのプランの実現を目指します。初回面談でプロトタイプをデモンストレーションした楽器は無事完成し、最終面談で主に議論されたのはレーザーを用いたインスタレーションについてです。海外のプロテストで用いられたレーザーをすずえりさんが作品で扱う理由とは? コンセプトを再確認することで、二つの作品の共通点も見えてきました。

アドバイザー:庄野祐輔(編集者/キュレーター/デザイナー)、原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

最終面談:2026年1月22日(木)

レーザーに音をのせ、映像と同期

「楽器はもう完成した」とすずえりさん。中間発表でのアドバイスを受け、色々な人に演奏してもらうのは一旦保留し、成果発表イベントでは自身が演奏する映像を上映予定です。一つのブースの中で、壁を隔てて二つの作品を展示するプランを提示しました。

レーザーを用いたインスタレーションについては、TouchDesigner(ビジュアルプログラミングツール)を用いることでレーザーへの音声重畳音に成功。「絵を描くための波形が音の波形に食い込んで音にノイズが乗ってしまう問題が起きたが、動きのスピードを変えることでクリアできた」と試行錯誤のプロセスを共有しました。
インスタレーションでは、香港やチリでレーザーを用いて行われたプロテストのニュース映像(の一部)をプロジェクションします。そこへ映像に同期させたレーザーの光を照射する想定で、映像を投影する壁面に点在させた受信機にレーザー光が当たると、音が鳴る仕組みです。

※ 面談後、レーザープロテストについてのSNS投稿をネットワーク解析したものをプロジェクションし、レーザーの光を照射する構成に変更されました。

レーザーの実験を動画で紹介

物事の不可視性に目を向ける

進捗報告を受け、アドバイザーからはプロテストとレーザーの関係について改めて確認する質問や、素材として用いるニュース映像の権利処理についての指摘等がありました。アドバイザーの庄野祐輔さんは、「今後他の地域でもプロテストが起こったらこの作品がさらに展開する可能性があるのか」「ネットミームに興味があるのか」など、プロテストやネットミームを扱うことに対するモチベーションについて問いかけます。

すずえりさんは「ネットミームも深掘りすれば面白そうだが」と前置きしつつ、「それよりも、不可視になっているものや、物事を不可視にしてしまうテクニックに目を向けさせたい」と話します。2025年に資生堂ギャラリーで個展「Any girl can be glamorous」を開催したすずえりさん。「あの作品は女性の科学的貢献の不可視をテーマにしていて、今回のテーマはプロテストの不可視性。香港やチリをはじめ、海外ではプロテストを通して声を上げられる国も多いが、日本はそうではない。また香港のプロテストについてのツイートなどは削除されすでに見られなくなっている。抵抗の自由があるはずなのに、そこに見えないバリケードがあることや、あったはずの抵抗が見えなくなっていることを取り上げ、抵抗の自由があるということを言いたい」と、今後の展望を含めて語りました。

左から、庄野さん、原さん

見る人が考える余白を残す

「ただ、作品でそのメッセージをあからさまに言う必要はないと思っている。気づく人だけわかるという程度にする予定」とすずえりさん。直接的なメッセージや表現を作品にどこまで組み込むか? 初回面談でも議論された点ですが、今回も意見が交わされました。「断定的なメッセージを出してしまうと、見る人はそこから先を考えなくなってしまう。駆け引きが大事」とアドバイザーの原久子さん。庄野さんも「作品で全部言ってしまうと、周りで鑑賞者が語れなくなる」と、見る人の議論を喚起するには余白が必要と言います。すずえりさんも同意しつつ、「単純な、視聴覚的なかっこよさも大事だと思う」と、リサーチベースドアートではない造形作品としてのスタンスにも言及しました。

すでに完成している楽器作品について、すずえりさんは「楽器を近づけたり離したりすることで音をコントロールできる。空間的かつ物理的に音を扱えるようになるのが面白いところ」と、本来不可視な音に物理性を感じられることを特徴としてあげました。そのコメントを受けて、庄野さんは「可視化が二つの作品の共通点」と指摘します。二つの作品を同時に展示する成果発表イベント、プレゼンテーションのよい切り口が見えてきました。