文化と歴史的背景を踏まえたモチーフの変遷や社会的文脈に着目し、作品のあり方を探求する冬木遼太郎さん。今回冬木さんが着目したのは、1905年の日露戦争終結時、ロシア(当時ロシア帝国)と日本の国境を示すために設置された国境標石、そのレプリカです。冬木さんはレプリカをさらに複製し、オブジェクトが自律的に動くインスタレーション作品を構想。最終面談では、動きのシステム部分を担当する伊藤伸朗さんも同席し、持参した駆動部分を動かしデモンストレーションしました。具体的な動きのイメージを共有した上で、動きのさらなるブラッシュアップや成果発表イベントでのプレゼンテーション方法について、アイデアが交わされました。

アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)、高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)

最終面談:2026年1月23日(金)

動きのデモンストレーション

作品を動かす駆動部分は本作の肝です。最終面談には、その設計と実装を担当する伊藤さんが同席。駆動部分を持参し、デモンストレーションを行いました。既製品をハックして制作したという本体は、4つの大ぶりなタイヤがついており、その動きは非常に滑らかです。冬木さんからの「ダンス」「滑るような動き」というリクエストを受けて、メカナムホイールを用いた台車を選んだと言います。ゆっくりと動く本体に人が近づくと、接触する少し手前でさりげなく後ずさりし、避けるように動きます。その自然な動きにアドバイザーの二人は「おおー」と声を上げました。「ドップラーレーダーセンサーを用いて人体を検出している」と伊藤さん。プラスチックは検知されないため、国境標石をかたどった樹脂製のガワをかぶせても遮られることなくその外側にいる人物を検出できると言います。

駆動部分の動きをデモンストレーション
伊藤さん(右)

被せる国境標石のレプリカは、全長80cm程度、重さは5kgほどありますが、駆動部は18kg程度まで耐えうるため問題はなく、「むしろ重い方が動きが安定する」と伊藤さん。

壁にぶつかってほしい

「本当はごく稀に壁にぶつかってほしい」と冬木さん。現状、人だけでなく壁に近づいた際も自ら避けて接触を避ける設定になっていますが、センサーで綺麗に避け続けるより、ぶつかってちょっと動作に支障が出ているくらいの状態がしっくりくるようです。また、「存在としても人からもう少し離れさせたい。見る人に、素通りしたり、飽きたりしてほしい」とも。伊藤さんも「人より長い時間軸のなかで動いているイメージ。動いているかいないかもすぐにはわからないような」と補足します。動作の幅やスピードはこれから改良予定とのことですが、具体的な動きが見えてきた分、作品のイメージもはっきりしてきたようです。

映像で本来のイメージを伝える

アドバイザーとは、主に成果発表イベントでの作品の見せ方について議論が交わされました。論点の一つは、実物展示の方法です。フラットな面をつくるため、また一定のエリアから外へ出ないようにするため、ステージの周囲にセンサーで検知可能な低い囲いを設け、そのなかで作品を動かす想定ですが、作品の意図としては、ステージや囲いは無い方がいいようです。アドバイザーの高嶺格さんも「囲いがあるとおもちゃ売り場のサンプルみたいになりそう」と懸念を示します。アドバイザーのさやわかさんは「お掃除ロボットのようなセンサーにしては」「周囲に広くスペースを設けて、その中央の限られた範囲で動かすのはどうか」といったアイデアを例示。伊藤さんを交えて、技術的な実現可能性を含めてディスカッションがなされました。

さやわかさん(左手前)、高嶺さん(左奥)

本来であれば広い空間に作品をさまよわせたいところですが、たくさんのクリエイターの作品が並ぶ成果発表イベントの会場ではそうはいきません。その分注力したいのが、もう一つの論点となったイメージ映像のロケーションです。会場で作品が動けるエリアが限られる分、映像では障害物がない広々とした空間を動く様子が見せられるといいのではと、さやわかさんからは「空港や港」「山上など頂上感のある場所」、また本作のルーツに寄せて「北海道の広い倉庫」や、「あえて沖縄」といったアイデアが提示されました。

現実的なところでは、現在助成を受けているおおさか創造千島財団が管理する、元造船所の倉庫を利用したシェアスタジオ「Super Studio Kitakagaya」が候補に上がっていると冬木さん。アドバイザーの高嶺格さんは「国境を扱う作品なので、海が見えるのはいい。実物展示とのバランスがどうなるか、楽しみにしている」と後押ししました。

駆動部分が広い空間で動く様子