株式会社ねこにがしは、代表の川尻将由さんが監督した短編アニメ『ある日本の絵描き少年』が第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞するなど、多数の受賞歴があります。採択された本企画 『CHERRY AND VIRGIN』(仮)は、商業エロマンガ家の男とBL同人作家の女がマッチングアプリで出会うことから始まるアニメーション作品。主人公ふたりのキャラクターデザインを異なるマンガ家が担当することで、登場人物の個性を印象的に表現します。

アドバイザー:和田敏克氏(アニメーション作家/東京造形大学准教授)、磯部洋子氏(クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

―中間面談には、株式会社ねこにがし代表の川尻将由さんが出席。Zoomを使った面談を行いました。

アニメの制作方法とストーリーを確認

川尻将由(以下、川尻):ラインプロデューサーが不在のまま製作を進めています。今も良い方を探していますが、見つかっていません。作画スタッフもインターネットで募集し、こちらは40名以上が集まりました。

―原画の試作を動画で確認しながら、面談を進めました。

川尻:アニメの制作は、作画監督(自分)が実写映像から原画をつくり、作画スタッフへ指示するという流れで進めます。キャラクターデザインも固まってきたので、2月以降に作画の作業に入れそうです。1月中旬まではロトスコープのための実写撮影をします。

和田敏克(以下、和田):事前にシナリオとロトスコープ用の絵コンテをすべて拝見しました。シナリオがとても興味深く、一気に読みました。品のいい純情もの、という印象です。主人公たちの気持ちの交錯が、チェーホフの作品や『博多っ子純情』(長谷川法世、1976〜1984年、双葉社『漫画アクション』連載)などを想起させました。絵の仕掛けなどのアイデアがたくさん練り込まれていることにも驚きました。

川尻:表面上は童貞と処女が登場する恋愛の話ですが、その奥にあるテーマとしては、それぞれが自信のなさからどう抜け出すかといったことや、他者を理解することを諦めた上で一緒にいることの意味、などを考えています。いろんな絵柄が登場することも、多様な価値観があるこの時代においては受け入れられやすいものに仕上がるのではないかと思います。

磯部洋子(以下、磯部):私もシナリオを読ませてもらいました。今、見せていただいた絵もそうですが、とても丁寧に制作されていますね。ハッとさせられるシーンが多いと感じました。

フルリモートでの制作体制を整える

川尻:今、問題となっていることは大まかに言うとふたつあります。ひとつ目は前回も同じことを挙げましたが、ラインプロデューサーがいない点です。もうひとつは、レイアウト作業が遅れていて、作画スタッフに仕事を振るまでもう少し時間がかかりそうな点です。ちなみに今回、普通のつくり方では難しいことからアマチュアの人たちにも参加してもらっています。 Discordというコミュニケーションアプリで連絡をとりながら、完全にリモートで進める予定です。さらにオンラインストレージとしてGoogle Driveなどを活用して、ほかのカットの進捗も確認しながら進めていけるように環境を整えたいと思っています。

磯部:そのような体制でのアニメ制作は、まさに今だからこそできることですね。自律分散型の組織で、プロジェクトベースで集まるなかで、クオリティの高いアニメをつくっていくこと自体が新しいチャレンジだと思います。

川尻:縦割りの体制に慣れているプロの人たちにとっては馴染みがないかもしれません。今回は、単純にアニメをつくってみたいという気持ちを持った人たちが集まっているので、こうした体制にも抵抗なく参加してもらえそうです。主婦の方も多くいらっしゃるので、ひとりあたりの作業量は少なめにして、仕事や育児の合間に取り組んでもらえるようにしたいです。

磯部:ラインプロデューサーを未経験者から募集することは考えていないのですか。

川尻:作画スタッフたちが横でつながって教え合っているような状態なので、プロデューサーというよりは、Discordなどのインフラを整えてくれる人がいてくれるといいかなと思っています。そういう意味では、プロデューサーは不要かもしれません。ひとまずこのまま進めて、浮いた予算を仕上げの作画に持っていきたいと考えています。1月末から、コンセプトアート、イラストレーターの方にお願いして、シーンの色や背景の感じを決めていく予定なので、それが決まったら一気に仕事を振ることができると思います。

磯部:もともとDiscordはゲームプレイ向けのチャットでしたが、常時接続できるところがメリットでしょうか。コミュニケーションを密にとれそうですね。

川尻:SkypeやZoomといった別のプラットフォームも検討したのですが、常に画面共有できることに魅力を感じてDiscordにしました。なるべく雑談もできるようにしています。

作品の宣伝についても検討

和田:実写はすべてのシーンで撮るのですか? 実写の撮影こそ制作進行が必要そうだと思いますが。そのほか3月の成果発表やその先に関して、不安な部分はありますか。

川尻:すべてのシーンではありませんが、細かい部分以外はなるべく撮る予定です。少ない人数で撮影するなど、やり方を工夫するようにします。成果発表では、本編映像の数カットを出したいと思っています。主人公ふたりが動いている状態を見せられるように、制作を進めていきます。
不安点を挙げるとすると、Discordで仕事を振る際に、不公平なことやトラブルなどが起こらないかということです。やってみないと分かりませんが。ほかには、アニメの撮影(コンポジット)に一番こだわると思うので、どれくらい時間をとられるか、測りかねています。

磯部:クラウドファンディングはいつ頃行う予定でしょうか。

川尻:映画自体の宣伝との兼ね合いから、3月以降になりそうです。成果発表の時期にも重なるので、効果的かなと思います。宣伝に関連して、制作途中の様子をSNSでも発信していけるといいのですが、そうした面が手薄になっています。

磯部:SNSマーケティングの専門家を紹介することもできるので、もし必要だったら相談してください。

和田:クラウドファンディングを行うタイミングで、前作『ある日本の絵描き少年』がまたみられるようになって、作風が広く認知されるといいですね。そうした意味でも、宣伝をプロデュースしてくれる人がプロジェクトに加わってほしいところです。

川尻:そうですね、前作を広く発信することも必要だと感じているので、専門家の手も借りながら、進めていきたいと思います。

―今後は、3月に控える成果発表やクラウドファンディングを見据えて、制作を進めていきます。