サウンドと人間の関係、音楽がいかに私たちに影響を与えるかを問うサウンド・アーティスト、エレクトロニック・ミュージシャン集団を率いるスズキユウリさん。難読症の人でも視覚からダイレクトに音楽を生み出すことができる方法として、共感覚を用いて色や形を音楽に変換する『Colour Chaser』を2008年に発表しました。今回採択されたプロジェクトでは、その量産に挑戦します。
アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/山本加奈(編集/ライター/プロデューサー)
プロダクトの改良とパートナー探し
スズキユウリ(以下、スズキ):この1ヶ月間は、新たなパートナーを探すための提案書の作成をしていました。某クラウドファンディングのプラットフォーム経由で相談をしてきましたが、新型コロナウイルス感染症による経済への影響があり、初期生産費用3,000台分をクラウドファンディングでは賄えないという懸念が出てきました。
磯部洋子(以下、磯部):角を丸くするなど、プロダクトの見直しはどうでしょうか。サイズも小さいほうが輸送や在庫の保持に都合が良く、子どもも遊びやすい。汎用の部品を使うこともコストダウンになりますよ。
スズキ:いまは安全基準を満たすことを最優先して、角を丸くするためにも金型をつくり直します。サイズの縮小やメカニカルの改善も予算を考慮しつつ進めていきたいです。具体的には、製造の体制が決まってから検討します。
磯部:設計も含めて品質や安全規格をチェックしてくれる製造元についてもらうのでしょうか。実は送ってもらったプロトタイプを5歳の子どもに渡したら10分くらいで壊してしまいました。耐久性もみてもらいたいです。
山本加奈(以下、山本):現在検討しているメーカーは信頼できるところなのでしょうか。
スズキ:いまのところ、深センに工場を持つ、ふたつの会社で考えています。ひとつめの工場は最低限の安全性や耐久性は確保してくれるでしょう。もうひとつの工場はアートユニットの明和電機ともやりとりしている会社で、このような製造体制に関しても熟知しています。
山本:前回の面談でリチウム電池やUSB充電の話も出ましたが、電池はどうなりましたか。
スズキ:とくにリチウム電池内蔵式だと輸送の関係でかなり厳しいですね。クラウドファンディングでは、リチウム電池を外付けとして別で買ってもらう例が多いようです。今回のような場合に通常はどうするものでしょうか。
磯部:大手の電気メーカーですと専用の輸送ラインがありますが、やはりバッテリーを含む商品にすると手続きが増えて難易度が上がります。今回は小ロット生産ですし、無理にチャレンジしなくてもいいと思います。
山本:発売する国は決めましたか。
スズキ:アメリカ、ヨーロッパ、中国、そして日本を考えていますが、それぞれ安全テストにかかる費用にもよります。電子楽器を製造している某メーカーは安全性の担保やユーザーサポートもしてくれてパートナーとしては最適だと思います。問題は先方にとって意義のあるものかどうかですね。
磯部:その会社で販売する場合は、クラウドファンディングでの販売はなくなるのでしょうか。キャッシュフローを管理できれば、両者からの販売も可能だと思います。
スズキ:キャッシュフローの管理は僕の所属するデザインスタジオのPentagramが受け皿になるので問題はありません。クラウドファンディングを行うなら、パートナー会社と合わせての販売になると思います。
磯部:数が出れば原価も安くできるので、複数の販売経路はあった方がいいですね。1社に頼ると計画が頓挫する可能性もありますし。
スズキ:パートナーになりうる会社と話をしましたが、クラウドファンディングを一緒にやることにポジティブではないんです。ですので、アメリカを外してヨーロッパとアジアだけで売るか、クラウドファンディングでは販売台数を限定する方向で納得してもらうか、そこは交渉次第ですね。
販売戦略とスケジュール
磯部:玩具はブラックフライデーで売り上げが伸びるので、売り時の1ヶ月前、10月くらいにはファンディングをスタートする必要があります。
スズキ:そうですね。クリスマスは外せないので、11月には店頭に並べたいです。3月半ば〜5月にかけて開発、中国での生産に3ヶ月、輸送に3ヶ月と、余裕をもたせたスケジュールを組んでいます。販売国にはそれぞれ受注から配送までを一括して頼める会社を置きます。
今年中に3,000台を生産・販売と考えていますが、いつまでに売り切れるかはわからないですね。
磯部:『Colour Chaser』のような商品は、求めている人にどれだけリーチできるかが肝心です。メディア露出やSNSで情報発信したタイミングに予約・購入でき、そこまでが最短ルートになっている。今のうちにオンラインマーケティングやプリセールスなどでファンを積み上げていくといいかもしれないですね。
スズキ:オンラインマーケティングはInstagramなどで展開しようと思っています。デザイン系メディアに掲載してもらうのは容易ですが、広報する人を雇い、僕が参加する羽田空港での展示(文化庁による文化発信プロジェクト「CULTURE GATE to JAPAN」)と絡めて、デザイン系メディアだけではなく新聞等で発信できるかを提案いただいています。
磯部:今回のプロダクトに関しては、ボーネルンドのような知育玩具を取り扱う会社、b8ta(ベータ)やbrookstoneなどのガジェットを扱っているストアも販売先としていいですね。
スズキ:学研から「トイ・レコードメーカー」(大人の科学マガジン)を出したとき、海外での販売が難航しました。万単位の生産数の玩具を扱うストアではコストが問題になり難しいようです。
磯部:アメリカだとディーラーのマージンが40〜50パーセントほどかかるので、原価が30ドルだとすると生産台数を7,000台にしないと販売できません。生産数とコストと販売金額は量産品をつくる上では一番重要なところです。
スズキ:やはり一般的なストアではなくニッチなところ、楽器屋や本屋、ミュージアムショップを候補に入れないといけないですね。
広く長くファンを集めるPR
スズキ:当初はミュージアムでサンプルを体験してもらう予定でしたが、ロンドンはロックダウンが無期限で長引いてしまい難しい状態です。現在は興味を持ってくれそうな会社や人物にサンプルを送り、フィードバックをいただいています。知り合いのミュージシャンからは動画が届いたりInstagramに投稿してくれたりといい感触でしたので、彼らとのコラボレーションも考えています。
山本:ミュージシャンやアーティストに加えて、お子さんがいる方にも協力いただいた方がいいと思います。
スズキ:そうですね。そうした方にもサンプルを送っています。
磯部:細く長く販売することも大事だと思います。ずっと買える状態にあることで、プロダクトに出会えるお子さんも増えますし。
山本:幅広い層を狙うとなると直感的な映像で注目してもらうことが必要になってきます。磯部さん、3,000個販売するにはSNSフォロワーは何人くらい必要でしょうか。
磯部:数字として明確にはありませんが、20倍くらいの数字でいけると思います。動画メディアなどで宣伝できればソーシャルで拡散してファンを獲得できますね。Twitterですと140秒まで無料で再生できますが、多くのユーザーが見てくれるのは最初の15秒ほどです。その15秒をどう見せるか、クリエイティブなアイデアが必要です。
スズキ:今は販売できる状態ではないので情報解禁はしていませんが、3月にはティザー映像を公開したいです。アイデア勝負で地道に人を集めなければと思っています。
磯部:開発者が想いを伝える以上に心が動くことはありません。ClubhouseやPodcast、Medium、noteなどのオンラインツールで、開発のきっかけや開発秘話を発信するのはいかがでしょうか。販売の動線をしっかり準備し、買えるタイミングで情報を発信してキャンペーンしていきましょう。
スズキ:先の長いプロジェクトですし、マーケティングに直接結びつかなくても、フィードバックをもらえるだけでもいい。さまざまな人と話をしたいですね。
これからビジネスやマーケティングをどうクリエイティブに行っていくかの段階になります。一番面白いフェーズに入ったと感じています。
磯部:この支援事業はアートのプロジェクトがメインです。しかし、企業とアーティストのボーダーがなくなり、アーティストがマーケティングやビジネスを行う時代になってきている。ユウリさんが先陣切ってモデルケースとなれば、後進の参考にもなると思います。
―今後はサンプルのフィードバックをもとに、新たなパートナーと量産に向けて開発・生産に向かう予定です。