2019年までクリエイティブグループ「ユーフラテス」に所属し、2020年に独立した映像作家/グラフィックデザイナー/視覚表現研究者の石川将也さん。採択された企画『Layers of Light』は、石川さんが発見した光の現象を新しい立体アニメーション装置として探求する試みです。

アドバイザー:土佐尚子(芸術家/京都大学大学院総合生存学館アートイノベーション産学共同講座教授)/和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

個展を終えて 鑑賞者からのフィードバック

―まず、石川さん(個展会場から参加)から、個展の全体像と個々の作品について報告がありました。

オンラインで個展会場を一通り案内

石川将也(以下、石川):2月21日まで14日間行った個展は、数件のキャンセルはあったものの、用意した日程(1組につき30分、1日16組)の全てが予約で埋まり、多くの方からフィードバックをいただくことができました。

和田敏克(以下、和田):みなさんの反応はどうでしたか。

石川:やはり、デモ映像から抱くイメージと実物の違いに、まずはみなさん驚いていました。そして、仕組みを理解すると、「これからどうなるのか」といった今後の発展を期待するコメントや、自ら「やってみたい」「これを使って何かつくってみたい」という反応をくださる方が多かったです。この作品はある意味、新しいディスプレイを開発したようなものなので、まだまだ発展性のある、さまざまな展開が可能な「メディア」なのだなと改めて感じました。例えばゲーム業界の方はこれを使ってどんなゲームがつくれるかを考えられていました。

和田:僕もアニメーション作家の古川タクさんと映像制作を行うIKIF+(アイケイアイエフプラス)のお二人などを連れて伺いましたが、アイデアをたくさん出されていましたね。この装置が持っているポテンシャルに刺激を受けるのでしょう。

石川:個展開催に向けて、プログラムの制作などで若い作家にも協力してもらったのですが、彼らも同じように「何かしてみたい」と言っていました。多くの人からそういった反応をいただいて、今後は継続的に研究会を開くなどして、多分野の方と、このメディアの可能性を探求しながら展開していくような活動ができたらと思いました。

土佐尚子(以下、土佐):ぜひ個展の場でみなさんが出してくれたアイデアを書き留めておいてください。この装置は、表現の分野にも産業の分野にも活かせますし、展開の可能性は多様にあると思います。一方で、石川さんは特許も出願されて、いわば第一人者なわけですから、より本質を追求していく活動も重要だと思いますし、実際のところ、まだまだ深められると思います。このメディアの本質はなんなのか、学術的にどんな意味があるのか、論文を執筆して投稿してみてはどうでしょう。国内なら芸術科学会、海外ならエンターテインメントコンピューティング国際会議(ICEC)、SIGGRAPHなどがあります。展開していくだけではなく、追求していく方向へも色々トライしてみることが、この装置を広めることにもつながります。

石川:個展の記録映像を使って、アルスエレクトロニカのコンピューターアニメーション部門など、メディアアートの国際コンペにもいくつか挑戦してみたいと思っています。 今、このメディアを使ってチャレンジしたいことが3つあります。1つは装置の規模をより大きくすること。2つ目は、素材をより吟味すること。3つ目は、1つ目ともつながりますが、装置を複数台組み合わせて、より立体的な作品をつくることです。

メディアとしての可能性を追求していくために

土佐:素材はまだまだ探求しがいがあると思いますよ。現状は硬質なアクリル板だけですが、例えばガラス、それもギザギザのガラスだったらどうでしょう。あるいは曲面とか。スライムのような流体でもできるかもしれません。今はまだ、鉱脈の表面に触れただけという印象があります。

石川:流体は面白そうです。素材の探求は色々と行なっていますが、非常に重要だと感じています。それと個展では、作品数として見応えはあるものの、内容としてはもっと増やしたい、と感じました。土佐先生がおっしゃる通り、僕が一番やりたいのは、この装置を表現のメディアとしてより深めていく方です。ただ探求と同時に、いろいろな方とこのメディアを展開させていくことも深めることにつながる気もしています。産業的な展開をしていくなかで、新しい材料に出会えるかもしれません。
個展に向けて試行錯誤するなかで、この装置からは、初期のメディアアートから感じた喜びに近いものを得られることに気づきました。昔、モノクロのインベーダーゲームに、カラーフィルムを付けて無理やりカラー化したバージョンがあったそうなのですが、個展の来場者から、そのときの喜びを思い出したというコメントをもらいました。初期のゲームやメディアアートは解像度やデータ容量など、非常に制約が多いなかでつくり手が創意工夫していて、それが受け手にもわかるのが面白かった。この装置も、ある意味で制約ばかりなのですが、だからこそアニメーションの技法や認知心理学などを取り入れることによって、この装置の表現を発展させることができる。そういった、人間が見て認知することではじめて成り立つ表現を追求していけたらと思っています。

和田:今の石川さんのお話は、アニメーションの根源にも近いと思います。モチーフの下に影があるだけで、世界が立体的に見えたりする、それだけのことがすごく楽しい。そういった原初的な喜びは、アニメーションの視点から見ても共感できたし、非常に面白かったです。なかでも僕は、アクリル同士の間隔を変化させることによって、ボールが飛び跳ねるように見える、あの表現が一番面白かったですね。
装置の物理的な探求ももちろんしてほしいですが、カラーサークルのグラデーションの見え方なども面白かったので、投影する映像の方もいろいろとトライしてみてほしいですね。水滴の作品がありましたが、あれなんかは実写でも面白かったかもしれません。今回の作品のなかでは一番、今後研究しがいがあるところだと思いました。

最下層に雲の影が映る
ボールが跳ねる表現の作品

石川:実は、あの作品は当初実写でトライしたのですがうまくいかず。でも、実写は今後もチャレンジしたいところです。

土佐:認知心理学のお話がありましたが、「逆さ眼鏡」で有名な、カリフォルニア工科大学の下條信輔先生など、その分野の専門家と組んでも、何か新しいことができそうですね。表現とは方向性が違いますが、可能性はとても広がると思います。
あと私の教え子に、パズルで博士号を取った東田大志という方がいるのですが、面白い組み合わせかもしれません。よかったらご紹介します。

石川:下條先生の「視覚の冒険」は大好きな本です。認知心理学でいうと彦坂興秀先生が研究されている「ラインモーションエフェクト」という現象を取り入れられないかと考えています。画面に1本、線が表示されるだけなのですが、線が表示されるよりもほんのちょっと前に、画面の端に被験者の注意を引くものが表示されるんです。すると、線自体は静止画として表示されるだけなのに、まるで動いているかのように見える。まぎれもないアニメーション表現だと思うのですが、分野が違うというだけで、アニメーション分野では認識されていない。僕は認知心理学もアニメーションも映像も、非常に興味があるので、分野を橋渡しするようなメディアにもできたら嬉しいです。パズル博士もぜひご紹介いただきたいです。

色や光の仕組みを教える教材として

石川:初回の面談でもお話したのですが、教材としての可能性も探っていきたいと思っています。この装置を使えば、蛍光の原理や、光の波長の仕組みをわかりやすく解説することができます。科学館などで、今回の個展で展示したような作品と、原理を解説する装置と、どちらも展示することができたら嬉しいです。

和田:原理解説にはグラデーションが向いている気がしますね。

土佐:教育的な展開ということなら、できることだけじゃなく、できないことを提示するのも有効ですよ。
考えてみると、光の3原色をうまく伝える教材って、これまでないですよね。それを手がけてみるのもいいかもしれません。誰もやってないことをやることが大事です。

石川:科学館で展示をするとしたら、やってみたいのは、装置の隣で来場者が描いた絵がそのまま投影される展示です。どの色をどの層が受け止めるのか、あるいは受け止められないのか、体験することで、仕組みがよりわかりやすくなると思うので。やりたいことが多すぎて悩みますが、できることからやっていきたいと思います。先生方、本当にありがとうございました。

―今後は3月の成果発表に向けての準備を進め、引き続き、このメディアの可能性を探っていきます。