9組のクリエイターと5名のアドバイザーによる「成果プレゼンテーション&トーク」が、2018年2月23日(金)、オープンコラボレーションスペース「LODGE」にて開催されました。はじめに海外クリエイター招へいプログラムで招へいされた3名による滞在制作の成果発表があり、次に国内クリエイター創作支援に採択された6組のクリエイターによる本事業で制作された作品のプレゼンテーションが行われました。

その様子を3回にわたって(第一回:アポロ・カチュ、ソフィー・マルカタトス、ゾヤンダー・ストリート、第二回:和田淳、澤村ちひろ、津田道子、第三回:ノガミカツキ+渡井大己、やんツー、後藤映則)レポートをお伝えしていきます。

今回は国内クリエイター創作支援で制作を行った和田 淳さん、澤村 ちひろさん、津田 道子さんの3組の成果発表の様子をお伝えします。

和田 淳

短編アニメーション作家の和田淳さん。今回の企画『いきものさん』は、ゲームエンジン(ゲーム開発用環境)「Unity」を使った短編アニメシリーズの制作と、ゲームアプリへの展開です。

和田淳(以下、和田):プロデューサーの土居さんと共に、アニメーションの新たな「見せ方」を考えました。

土居伸彰(以下、土居):私からは「Unity」を使ってはどうかと和田さんに提案しました。というのも、いま、短編作家が自らの世界観を生かしながらゲームを作るというトレンドが生まれつつあるからです。また、「Unity」を通すことで、ゲームのみならずアニメーションや映画、インスタレーションなどに展開が可能なことも理由の一つです。

和田:僕自身がこれまで大切にしてきた「気持ちのいい動き」や「間」を踏まえた上で、企画を進めました。

―短編アニメシリーズのパイロット版「マイエクササイズ」を上映。

土居:この『いきものさん』は、様々な「いきもの」が出てきて愉快な動きをするというもので、子供向けのテレビシリーズを想定しています。

次に紹介するゲームも『いきものさん』のバリエーションの一つとして作りました。プログラマーは薄羽涼彌さんです。

―実際にゲームを動かしながら説明します。

薄羽涼彌:ゲームは、アニメで取り上げたエクササイズのうち「腹筋」に絞って制作しました。スペースキーを押すと画面の中の男の子が腹筋を行います。

土居:スペースキーを押す長さで腹筋の深さも変わります。試行錯誤を経て、ゲームとしてはシンプルになりましたが、気持ちのいい動きを追求して、触感が感じられるようにしました。

腹筋を続けると女の子が現れて応援してくれたり、水をくれる猫が出てきたりするなど画面が様々に変化します。そうしたシナリオは和田さんに考えてもらいました。試作を見ながら発想してもらうなど、和田さんの世界観をゲームによって広げていくこともできたように感じます。

和田さんの作品の魅力は、人によっては気付かない程のごく小さな変化や、キャラクターがどんな法則に従っているのか分からないところ。その世界観に忠実につくりました。今後は発売を目指してさらに磨き上げたいと思っています。

伊藤ガビン:そもそもゲームとは何だろう、と考えさせられる作品です。最終的にスペースキーを押すだけのゲームになったところに哲学を感じます。企画の目的として、短編作家による新たなマネタイズの方法を探るということもあったので、実際に大ヒットするのを心待ちにしています。

しりあがり寿(以下、しりあがり):いかにそのシーンを気持ちよくするかと試行錯誤したところに価値があり、将来につながるものになったのではないでしょうか。今後は、どういうやり方でどういう人に届けるかを検討する段階になってきていると思います。

澤村 ちひろ

CGアニメーターの澤村ちひろさんは、3DCGを使った短編アニメーション作品を制作しました。少女と街と鳥の物語を、国産アニメの技術と様式を用いて、アニメーションとしての美的・造形的価値を追求する作品です。

―制作した短編CGアニメーション『空のゆめ』が上映されました。

澤村ちひろ(以下、澤村):約4分の作品で、計39カットです。今回の企画は、まず日本のマンガ映画が好きだという思いがあり、そこへ新技術(3DCG)を掛け合わせてできることを探ってみようというものです。CGの制作はあまり経験がないのですが、かえって自由な発想からの試みができました。

このアニメは、CGで1コマずつ絵を描き、その連続でつくり上げています。1コマごとにモデリングすると大変な作業量になってしまうので、技術的な工夫を加えました。例えば、だいたいの平均値で基本モデルをつくったり、モデルを触らずに細かいシルエット調整ができるようにしたりしています。
重視した点は、アニメーション作業時に自由な動きをつけられるようにすることです。今回は個人でつくったので破綻なく進めることができました。
また手描きの質感を大切にしたかったので、その演出のためにCGを用いながらあえて歪みや漫画らしい動きを入れました。

ほかにはデジタル水彩の表現にも挑戦したのですが、アナログの質感を潰さないように画面を整えることに苦心しました。線の出方をアニメーター側で制御したり、鉛筆で描いたような線がレンダリングの時点で出るようにしたりと、細かく仕込んでいます。

今回、背景はアナログで、それ以外は全てCGでつくりました。課題は多々あるものの、3DCGでなければできなかった作品だったと思います。今後は商業作品としての完成を視野に入れ、精度をさらに上げたいです。また機会があれば、マンガや絵本などへの展開や、登場人物の「花かごおじさん」が出てくるような別の物語への展開も考えたいと思います。

和田敏克:3DCGを用いつつも、髪の毛のゆらゆらした質感や、色彩のちらちらとした感じなど、澤村さん自身がもともと持っていた水彩画的な世界が自然に出ているところが良いと思いました。応募時点からクオリティはとても高かったのですが、それを保ちながらここまでつくり上げたことがすごいと思います。

しりあがり:制作を通じて、これからのアニメ界に対して言えることがあればお聞きしたいのですが。

澤村:CGの力を借りたおかげで、個人でもこのボリュームのアニメをつくれることを示せたように思います。

津田 道子

枠(フレーム)と鏡、ビデオカメラ等を用いたインスタレーション『Double Half Step』を企画した津田道子さん。前作の『あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。』にも用いられた時間差に加え、その中に物語の要素を取り入れ、映像特有の物事の語り方をして、より鑑賞者に没入させる作品に向けた基礎研究や実験を行いました。

―3分のパフォーマンスが、パフォーマーの設定を変えて3回行われました。1回目は、装置の映像に出演している女性が、オーディオガイドに従って装置の中を実際に歩きます。

津田道子(以下、津田):いま見ていただいたのが一つのシーケンスです。時間軸はあるのですが前提としての物語はなく、枠の間をパフォーマーが歩くというものです。時間差でパフォーマーの姿が枠の中の映像に流れることを用い、映像が鏡のように見えたり、映像とパフォーマーの動きが離れたり同期したり、映像同士が同期したりします。そして最後は映像の中でパフォーマーがフェードアウトする、という流れをつくりました。

―次はパフォーマーなしで行います。

津田:パフォーマーがいないと、映像の中の人がどこを通って次の映像に行くかが、鑑賞する位置によって異なって見えると思います。

―3回目は、映像の出演者とは別の人が実際に歩きます。

津田:作品の形態として、インスタレーションの中でパフォーマンスを起こすものを考えています。今回つくった中で、事前に想定していなかったのは声を当てることです。ナレーションでもセリフでもなく「オーディオガイド」と呼んでいます。オーディオガイドの指示に従って歩くパフォーマーは、何が起こっているか分かりません。作品の一部となり、鑑賞していながら鑑賞されるものになります。

今後どのような形になっていくか、実験を重ねる中で考えている最中です。物語を語るのが目的ではなく、この装置からどんなことが生み出せるかを考えています。

久保田晃弘:言ってみれば彼女この期間ずっと実験していた、ということです。通常、物語は前提(構造)として作りますが、今回は構造として作ったのはこの枠のセッティング。そこに人が入ることで物語を生むのが可能か、という挑戦ですね。その点では一歩進んできました。これからは津田さんの「訛り」が問われるようになるかなと思います。
気づいた点として、枠を横切るところが途中1カ所のみありますが、そこが鍵になりそうです。またフェードアウトしていく映像については、映像感が出過ぎてしまったところに疑問が残りました。

戸村朝子:これから新しい作風にチャレンジするための、これ以上分解できない素数のようなものを見せてもらったと感じました。装置が先にあって、これからどういうお話が出てくるか。その中で「津田メソッド」が出てくるのではないかと思います。

津田:様々な要素を抑えて最小限にやっていますが、これでもまだ分解できることがあると思っています。今後さらに抽象度を上げて進めていきたいです。