短編アニメーション作品《わからないブタ》、《グレートラビット》がそれぞれ文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞するなど、国内外で多くの受賞歴を持つ和田淳さん。今回採択された企画《いきものさん》(仮)は、ゲームエンジン(ゲーム開発用環境)「Unity」を使うことによる新たなアニメーション制作方法へ挑戦すると同時に、ゲームアプリへの展開も探る試みです。

和田さんのアドバイザーを担当するのは、編集者/クリエイティブディレクターの伊藤ガビン氏と、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏です。

―最終面談は、神戸からSkypeを介して面談を行いました。面談には、共同制作を行うプログラマーの薄羽涼彌さんにも同席していただきました。また、本企画のプロデューサーである土居伸彰さん(株式会社ニューディアー代表)も、タイからSkypeで参加いただきました。

繰り返しから展開させる、さまざまなシナリオ

和田淳(以下、和田): 男の子が腹筋する動きをベースに、映像とゲームの両方を制作しています。映像は、色塗りがまだですが、線画は完成しました。ゲームの方はまだ未完成ですが、現状のものを実際に動かしつつ薄羽さんから説明してもらいたいと思います。まずは映像をご覧ください。

―映像を見ながら面談が始まりました。

和田: 長さはちょうど2分です。いまは色塗りを外部スタッフにお願いしているところです。音も部分的に修正を依頼していて、その両方を反映できれば、映像が完成する予定です。
背景に流している音は木魚の音ですが、登場人物の男の子が坊主頭なので、一定のリズムだと意図とは違う印象を与えてしまいかねないところが心配でした。そこで、リズムをくずすなどして調整し、今に至っています。

薄羽涼彌(以下、薄羽): 次に、ゲームの進捗状況です。映像版では様々なエクササイズが出てきますが、ゲーム版では「腹筋」に絞った内容になっています。

―パソコンでデモンストレーションを行いながら説明が続きました。

薄羽: スペースキーを押すと、男の子が腹筋運動します。しばらく続けると、女の子が出てきて、拍手して応援してくれたり、別のキャラクターが出てきて水を飲ませてくれたりします。凝視するアシカ、真似をする羊など、様々なキャラクターが顔を覗かせます。
少し特殊なのは、子犬が突進してきたときそのぶつかるタイミングに合わせて腹筋をすると、花が出現するところです。ここで初めて腹筋の「タイミング」が関係します。そのほか、3つ揃うと大仏が現れる、腹筋の回数に応じてさらに応援部隊が増える、といったシーンも作りました。こういったシーンの流れは、和田さんの作ったシナリオから構成されています。

伊藤ガビン(以下、伊藤): 完成に向けてどのように進まれるのでしょうか。

和田: 作業的に間に合うかどうかもありますが、腹筋の回数を増やせばキャラクターが増える、出てきたキャラクターによるアクションで画面を賑やかにする、というようなことを実装できたら、と考えています。また、先ほどお見せした子犬の動きにタイミングを合わせて腹筋のスイッチを押すような感じで、回数だけではない何かを目指すシナリオもありえると思っています。何かがきっかけで、そのまま腹筋ではない別の動きの操作に移行していくようにもできないかと考えています。他方では、「ゲーム性」をどこまで出すかを話しているところですが、その中では視覚的に分かりやすくするために、腹筋の回数を表示する案などが出ています。

「ゲーム性」をいかに出すか?

伊藤: 操作がほかのものに置き換わっていくという案は斬新です。音楽のシーケンサーの打ち込みにも似ているかな、と。例えば、最初の何小節かを打ち込んだらあとはオートで進んでいくようなことが、ゲームでもできたらおもしろそうです。腹筋のリズムが途中からオートになって、毎回違うカオスが生まれたとしたら、それが「ゲーム性」につながるのではないでしょうか。ただ、あまりインタラクションばかりを追うより、今回の作品は和田さんのアニメーションにプレイヤーが「少しだけ介入する」ところが独創的だと思うので、そこを大事にした方がいいと思います。
ちなみにセーブ機能は考えていますか。ゲームを一旦停止できるのかどうかも気になりますが。

―ここから土居氏がSkypeで参加します。

土居伸彰(以下、土居): セーブ機能には今のところ手を出していません。

和田: 何も押さずに放っておくと「溶けて終わる」という案を出しています。ゲームの終わりも検討しなくてはいけないのですが、今のところは元に戻ってループするというのを考えています。

薄羽: 「溶ける」ということについては、和田さんのアニメーション作品内の、ある1シーンを用いて試作したシステムが参考になると思うので、お見せします。

―アニメーション映像(一定時間放置するとキャラクターたちが溶け始め、連打すると復活する、というもの)を見ながら話が進みました。

しりあがり寿(以下、しりあがり): 僕は、和田さんの世界が大好きですし、ぜひゲームの完成を見たいです。ただちょっとだけ心配なのは、「どのような人が喜ぶのか?」というところ。ゲームというよりは、自分で操作できる絵本やアニメーションを作るという捉え方もできると思いますよ。その場合は終わりまで考えることが大切です。そうではなく、ゲームを突き詰める場合は、何を期待させるかをはっきりさせるべきかなと思います。

土居: 画面に腹筋の回数が表示されると、スイッチを押すモチベーションにつながるのかなと思います。ミヒャエル・フライのゲームのように単純な行為に焦点を当てる方向もありえます。そのほかには、AIのキャラクター同士が掛け合うことの可能性を探る案もあって、それは和田さんの世界観にも合いそうだと感じています。

伊藤: 僕は、ゲームをする人が繰り返しやりたくなったり、始めからやり直したくなったりするものが美しいのではないか、と思っています。それを実現できるなら、例えばキャラクターが増えていく「過程」を見せるだけでもいいかもしれません。過程によって最終的に出てくる画面が変わると、そこには「ゲーム性」も生まれますよね。また和田さんの世界観で構成されるならば、最終的に出てくるものがその「過程」とずれていたとしても成り立つ気がしています。ゲームの定義について言うと、プレイヤーが何かの操作を繰り返してしまうことだけで、ゲームが成り立つと思うのです。そう考えると、現状のものでもだいぶ成り立っているように思いましたが。

薄羽: それからいま問題としているのがゲームを操作するスイッチについてです。現在はスペースキーを使っていますが、果たしてそれでよいのかということ。そしてスマートフォンアプリに移行した際はどうするかという課題もあります。

伊藤: スペースキーのままでもいいかもしれません。スペースキーは、押す長さも反映できるので。「ため」の挙動と「押すアクション」をどう関係づけるかも重要ですね。

土居: またゲームの発売については、ゲームの“芯”となる部分があいまいなままで売り出すのは難しいと感じているので、そのあたりをいまはブレストしている状態です。映像はほぼ形になったので、成果プレゼンテーションまでの1ヶ月でゲームの方はだいぶ進みそうな気がしています。材料が揃ってくると和田さん自身もアイディアが出やすくなると思うので。目標としては成果プレゼンテーションの場で、売れるくらいのものが見せられれば、と思っています。色々な人の意見を聞けるよい機会と捉えています。

最終調整に向け、あらためて大切にしたい世界観

しりあがり: 今回の作品では、和田さんの「世界」や「感触」をそのままゲームにすることを目指してほしいと思います。「ゲーム性」は最低限保たれていればよいのではないでしょうか。ゲームの終わりについては、例えば放置すると男の子が帰っちゃうとか。逆にやり込むと画面がどんどん引いていって、放置するとまた戻る、というのもありではないかなと思います。

伊藤: 無理にゲームに寄せすぎず、和田さんの世界観を崩さずにいればいいものになっていくのではないでしょうか。ぜひそのまま進めてください。

―2月23日に開催される成果プレゼンテーションでは、ゲームのデモンストレーションなど最新版が紹介される予定です。