2012年に『Immersive Room』が第16回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出された澤村ちひろさん。今回採択された企画では、3DCGを使用した短編アニメーション作品の制作をおこないます。少女と街と鳥の物語を、国産アニメの技術と様式を用いて、アニメーションとしての美的・造形的価値を追求する作品です。
澤村さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏と、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏です。
「演出」を意識した最終調整を
澤村ちひろ(以下、澤村):ひとまず全カットがアップしました。編集作業で少し手を加えようと思っていますが、長さは約4分で計39カットになります。まずは映像を見ていただければ、と思います。最初の方には、試作中の音楽も入れています。
―ここで現状の最新版のアニメーションをテレビモニタで上映していただきました。
澤村:中間面談後は、コンテを直しつつ、モデルデータの修正からアニメーション、撮影までを行き来しながら制作しました。まだ音が不完全なので、今後は音関係の作業を進めていく予定です。
和田敏克(以下、和田):よくここまで仕上げましたね。前回と比べて、内容がさらにまとまりました。ただ、まとまり過ぎたことで、逆にストーリーの謎めいた魅力が欠けてしまったようにも感じられます。女の子の街から出たい気持ちや、作中に登場するおじさんへのあこがれの描写がまだ足りないのではないでしょうか。「あ、おじさんが来た!」と街を駆けていくシーンの動きがおとなしいのも一因ですよね。極端にいうと『未来少年コナン』(1978)で描かれている主人公の躍動感ある走り方のように、はやる気持ちを抑えきれない様子を出せるといいと思います。
澤村:確かに、消極的にまとまってしまった感じはあります。
和田:花の描写ですが、花びらの動きを調整するともっと良くなるのではないでしょうか。そこに女の子の表情や動きを呼応させたり、さらに街の人は花びらに反応しないことで女の子と対比させるなど。これから編集する上では演出を意識して意図が伝わるようにしていくべきかな、と思います。色彩とタッチ、そして3DCGとのコンビネーションは、これ以上言うことがないくらい素晴らしいものになっています。
しりあがり寿(以下、しりあがり):全体像が見えてきたので、今後はこの作品でやりたかったことを足していくとよいのではないでしょうか。例えば、3DCGを効果的に入れたかったら、迷路のような路地をぐるぐる回るシーンをつくったり、物語にメリハリをつけたかったら、オープニングで街の閉塞感を出したり、飛び降りて花かごに入るまでの間にインパクトを加えたり、というようなことが考えられると思います。
澤村:ここから編集でどこまでもっていけるかというところですが、アドバイスを踏まえて成果プレゼンテーションまでに完成度を高めていきたいです。
アニメーション作品の発表先や展開の方法
―作品で使われている原画を見ながら話が進みます。
澤村:今回は、アナログだからこそ表現できる描写の美しさを取り入れつつ、デジタルの技術に挑戦しました。
和田:その狙いは達成されていますね。ぜひ世界の映画祭にも出してほしいと思います。
澤村:例えばこの作品の場合、どのような映画祭に応募するのがよいでしょうか。
和田:「アヌシー国際アニメーション映画祭」(フランス)、「ザグレブ世界アニメーション映画祭」(クロアチア)、「オタワ国際アニメーション映画祭」(カナダ)、「広島国際アニメーションフェスティバル」(日本)は世界四大アニメーション映画祭として有名ですが、これに限らず国内外に映画祭は何千とあります。いろいろなところに出していると他の映画祭から声がかかるなど、広がりが生まれることもありますよ。
しりあがり:この作品のシリーズ化も検討してみてはいかがでしょうか。花を積んだ花車の造形が良いので、例えば、花車が移動しその先々で新しい物語が生まれていく、というような。
澤村:絵本やマンガへの展開も興味があります。こうした制作物は、どのように発表していくべきでしょうか。作品を制作した後、それをどのように社会につなげていけば良いのでしょうか。
和田:Eテレで放送されているショートアニメ番組などに企画を持っていくなどもいいと思います。僕も初めはいろんなところに企画を持ち込んでいました。もちろん映画祭に出すのも一つの方法で、個人作家は海外での評価がものをいう面もあります。また将来的に長編アニメーションの世界でがんばりたい場合は、大手のスタジオに入って、組織での経験を積んでいくのが現実的ですね。
しりあがり:コマーシャル用のアニメ制作も視野に入るのではないでしょうか。そうなると所属する組織も変わってきそうです。
和田:CFを中心としたアニメーション映像制作会社などがそうですね。
澤村:いろいろな方に、企画や作品を見て頂こうと思います。
自動計算に頼らず、手作業で描いた3DCG
―再び映像を鑑賞しながら話は進みます。
和田:音関係の作業はどのような進捗でしょうか。
澤村:映像ができた段階で、音楽担当の方に絵コンテと映像を渡して制作を進めてもらっていますが、少し行き詰まっています。先ほど見ていただいたオープニング部分なども、音楽が入ったことで映像全体の雰囲気は良くなったと思うのですが、もしかしたらメロディがない方が今回の映像には合っているのかもしれないです。
和田:効果音から物語をスタートさせることを検討してもいいかもしれませんね。音楽だけ、効果音だけ、ということでもなく効果的に用いるのが良いと思います。気分が盛り上がる場面で音楽を効かせるなどメリハリをつけることが大切です。そのためには「狙い」をしっかりと定めることが重要でしょう。
しりあがり:いま見ていてふと気付いたのですが、オープニングの場面、女の子は怪我しているのですね。
澤村:女の子は花かごに飛び込むことに毎日挑戦している設定です。
しりあがり:そうだったのですね、そしてこの日やっと成功した、という話だったのですか。それならおじさんを見たときにあまり驚かないのもうなずけます。その設定は大切ですが、このままでは伝わりづらいかもしれません。
和田:僕も気付きませんでした。怪我したのは飛び降りに失敗して、ということですか。
澤村:そうです。カット数を増やせばもう少し詳しい状況説明ができそうです。
しりあがり:そういう設定なら、オープニングで何度も飛んでは怪我をしているくらいのカットが入っている方がよいのではないでしょうか。何でそんなことをしているんだろう、と観客に思わせて、それが後半で明らかになる、と。
和田:練習シーンを入れたり、橋を初めて発見するシーンを入れたりする手も考えられますね。
澤村:検討してみます。成果プレゼンテーションでは、成果物の発表と、アニメ制作についての話を簡単にしたいと思っています。アニメの作り方と、今こういう技術がある中で、今回はこういうものを作ってみました、という流れを考えています。
和田:もちろん第一に、今回の作品とねらいについての話があったほうが良いとは思いますが、重要な成果として、その制作技法やメイキングの報告が大変興味深いと思います。
澤村:ではこの作品では3DCGをどのように使っているかについてお話させて頂ければと思います。自動計算で正しいパースをとる本来得意な方法ではなく、人間の目でみた印象を意識して絵を描いたつもりなので、その辺りに触れられたらと思います。
和田:そうですね。立体で作ったものを2Dタッチで見せる工夫など、キャラクターの表情の作り方も興味深いです。
澤村:その点は、キャラクターデザインをシンプルにしたことが成功につながったと思います。メイキングではそうした話もさせて頂けたらと思います。成果プレゼンテーションに向けて、音の制作とできる限りの修正を行い、完成度を上げていきたいと思います。
―2月23日に開催される成果プレゼンテーションでは、完成したアニメの発表とともにメイキングについて話される予定です。