アニメーションの古き手法・ゾートロープなどの原理から着想を得て、見えない時間を実体化した作品『toki-』が第20回文化庁メディア芸術祭でアート部門審査委員会推薦作品に選出された後藤映則さん。今回採択された企画『Rediscovery of anima』(仮)では、これまでの『toki-』シリーズを起点に、古来より存在する木と太陽光のみで作品を制作し、歴史上発見されてこなかった映像表現や、そこから生まれる生命感を模索します。
アドバイザーを担当するのは、ソニー株式会社UX・事業開発部門 UX企画部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏と、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏です。
直近の制作から。土偶との「出会い」
後藤映則(以下、後藤):初回面談後、様々な展示に参加する中で、今回の制作にもつながるような発見がいくつかありました。まずは「アルスエレクトロニカ」(2017、オーストリア)の報告から始めます。
―まず、展示された作品が動画で紹介されました。
後藤:これは、「複数の自分をどう生きるか」というテーマを選んで制作した作品『PROGRESS』(進歩)です。系統樹を参考に、モチーフである「歩く人」(=進歩の象徴)が、3次元に広がっていくような作品です。
もう1つの作品は『Intention』(意思)という題です。ここでは初めて数字やカタカナという「生きていないもの」に時間を与えてみました。本来動かないものが動く気持ち悪さと、そこにあらわれる生命感には、おもしろみを感じています。また、一度数字を認識すると数字以外の形を認識しなくなることと、モチーフを事前に知っているかそうでないかで作品の捉え方に差があることに気付きました。カタカナで試したとき、日本人にはカタカナにしか見えませんが、外国人には何の形か分かないことが興味深かったです。
次に、「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」(2017、森美術館)への出展では、映画からのインスピレーションをもとに「超空間」をテーマに制作しました。モチーフに対して光を斜めに当てると、手前のフレームと奥のフレームがオーバーラップするので、その方法で時空の歪みを表現しました。ここでは初めてキャラクターといった単純なモチーフを使ったのですが、単純な形なのに動きがより分かりやすくなるところが興味深かったです。
そのほか、オランダでの光をテーマとした展示への参加と、「八ヶ岳JOMONライフフェスティバル」(2017、長野県茅野市)に出品しました。
八ヶ岳では、国宝の土偶『縄文のビーナス』と共作する機会に恵まれました。土偶を3Dスキャンして制作し、5千年前の土偶と、「現代の土偶」とを対比させました。土偶の多くは「妊婦」だということや、「無事に子供が生まれてきますように」という願いが込められているという縄文時代の生命観から、今後の制作の上でも大きな刺激を受けました。
戸村朝子(以下、戸村):縄文時代は、個体よりも種全体の存続に対する興味が強かったのでしょうね。自然とともにある厳しい暮らしだからこそ、生命への憧憬もあったのだろうと思います。
後藤:土偶は、今とは全く異なる考え方からつくられていますが、出産に対する願いには現代人にも通じるところがあると感じています。
そうした中で、今回の制作テーマ「anima(アニマ)」について、あらためてラテン語での意味を紐解くなどしてみました。「魂」を意味する「anima(アニマ)」は、神を信仰する社会でも使われたり、原意においては「息」を意味し、生きた身体に宿る生気とういことも分かりました。先ほどの土偶にもつながるのですが、古代の人の生命に対する思いが作品のキーになるかもしれません。また今回、自然光を使う予定なのでその源となる「太陽」も改めて考えてみましたが太陽は生命の源でありエネルギーであり、太陽そものが神として古代から崇められています。日本の天照大神のように、各国でも太陽神が存在します。そこで「太陽」もベースにして考えたいと思います。
木と、石と。二つの可能性
後藤:木での制作については、木彫協力者に相談をしました。が、どうやら強度面に問題があり、実現が難しいとのことでした。どうしようかと思ったのですが、そこで再び考えると、木だけに絞らなくても、「太陽」と相性のいい古来の素材がほかにもあることに思い至りました。紙や錫(すず)、竹、針金、粘土、石……。それらの中でも、一番難易度が高そうで挑戦しがいがあるので、石にも挑戦したいと思っています。西洋問わず神秘的なものと考えられてきたところや、4万年前の洞窟壁画が残るなど最古級のメディアにもなっているので。ストーンヘンジが太陽の動きをもとに設計されていることや、最古の時計といわれる日時計に石が使われていることなども調べました。
ということで、石と自然のエネルギーを使った“生命感”が感じられるような作品を考えはじめているところです。が、当初予定の木を用いた1800年代の技術での制作も、不可能ではないと思っているので、こちらも引き続き検討をしていきます。
戸村:どちらのアプローチでもおもしろい作品になりそうですね。最新技術や変遷途上の技術であるゆえに長く残せないものも多い現代で、あえて振り戻って石で挑戦するというのは魅力的です。未来の人が今回の作品を発見したときに、太陽さえあれば再現可能だというストーリーもロマンティックですよね。石で制作する場合の工程はだいたい見えてきていますか?
後藤:まだですが、軽石を加工しようと考えています。
戸村:なるほど。可能であれば、一部試作した上で、後藤さんのシリーズならではの“繊細さ”が保てるかを確かめてみてほしいです。
後藤:そこはたしかに気になっています。3Dプリンタを使ってきたこれまでのものとは、全く別のものになりそうなのです。
人を介さない方法で、どう光をコントロールするか
和田敏克(以下、和田):太陽が持つ「時間」も要素に入るといいかなと思います。
戸村:茶室は、自然光の反射も含めて設計されているといいますよね。そういった光の巡りも凝縮できると良いでしょう。
和田:そのタイミングでしか見られないものもおもしろいですよね。影も使えるかもしれません。
後藤:光と影を逆転させれば、影が動く作品もつくれると思うので、いろいろ試してみたいです。ほかには、オブジェを糸で吊って動かしたときに、どう見えるかを試してみました。ここで少し再現します。
―暗くした部屋で、プロジェクターから投射されたスリット先にオブジェを当て、揺らすと人が歩いているように見えます。
和田:これまでの『toki-』シリーズと比べると、動きが有機的ですね。
戸村:振り子のようで、リズムも生まれています。少し気になるのは、自然光はとてもゆっくりですし、吊るすだけではオブジェ本体の自然な動きも生まれにくいので、作品のおもしろさが伝わりにくそうなところ。やはり回転させるなど、人工的に動かす必要も出てくるのではないでしょうか。
後藤:人の手を介さなくてもいいように、動力は熱や風といった自然現象を使えないか考えています。自然光だと、曇りの日などは見えないかもしれませんが、それでもいいのではないかと思っています。鑑賞者が、たまたま“動き”を見いだしたとき、瞬間的にハッとするような、そんな光を作れないか、と。もちろん人工的に回転させれば圧倒的な驚きがあると思いますが、初回面談での「仕掛けのおもしろさだけで終わらない」にという課題が気になっています。全部アナログでアニマが生まれるおもしろさを、どう実現できるか考えたいです。
今後は、モチーフの検討も引き続き行います。数字はおもしろいと感じましたが、どう思いますか?
戸村:数字を使う場合は、これまでの「anima(アニマ)」の考え方とは違うベクトルへ進んでしまいそうです。どういう時間軸を捉えるか、ですよね。生命感を素材や動き、どちらに求めるのかを掘り下げるべきかなと思います。
後藤:「何が動いて見えるか」が重要で、それが素材ともマッチするとよさそうです。素材に頼りすぎて「光」の要素が離れていかないよう気を配ってほしいですね。
―次回の最終面談までには、試作しながら、素材やモチーフなどの検討が行われる予定です。