短編アニメーション作品『わからないブタ』、『グレートラビット』がそれぞれ文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞するなど、国内外で多くの受賞歴を持つ和田淳さん。今回採択された企画『いきものさん』(仮)は、ゲームエンジン(ゲーム開発環境)「Unity」を使うことによる新たなアニメーション制作方法へ挑戦すると同時に、ゲームアプリへの展開も探る試みです。
和田さんのアドバイザーを担当するのは、編集者/クリエイティブディレクターの伊藤ガビン氏と、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏です。
―初回面談は、神戸からSkypeを介しての面談となりました。
「触感」からのアプローチ
和田淳(以下、和田):選考時の面談以降は、プログラマーの選定や、どんなゲームにするかということなど、本企画のプロデューサーをお願いする株式会社ニューディアー代表の土居伸彰氏と打ち合わせしました。
そもそも子供向けのシリーズものを作りたいというところから始まったので、選考面談の時点ではゲームについての考えがまだ深まっていませんでした。今も具体的には決まっていませんが、何か「触感」を体感できるようなものを具現化したいと思っています。
伊藤ガビン(以下、伊藤):僕はミヒャエル・フライの『Plug & Play』(第19回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品のゲームアプリ)がひとつの指標になるように思います。ゲームの中でユーザーのプレイ自体はシンプルですが、与えられる情報が毎回違ったり、絵も色々な違いがあったりして、さらに触覚までアプローチしているところが、よくできているゲームだなと感じました。
和田さんのコンテを見たときに、触覚については色々なおもしろさがあるなと思いつつ、ゲームに落とし込んで動きが複雑になっていくと、ゲームを作る過程で負荷が高くなるだろうなという印象を受けました。逆に、触り心地を追求して出会ったものを落とし込んでいく方向もあるのではないでしょうか。
和田:具体的なゲームのあり方を考えると技術的なところで壁を感じてしまうのですが、それが負荷が高いということにつながるのではないかと思います。それを超えたところで何かできればと思っています。
ゲームからの可能性も探ってみる
しりあがり寿(以下、しりあがり):アートっぽいゲームって、得てしてシンプルですよね。変に凝らなくてもいいような気がします。例えばトランプゲームの神経衰弱みたいに、既存のゲームのルールを取り込んでみるのも一つのやり方かもしれません。
伊藤:昔ゲームを作っていたとき、まずはひたすらコントローラーを触っていました。例えば、レバーをぐーっと引っ張って、そのときどんな絵が表示されたら一番気持ちいいかを考える、といった具合です。スマートフォンの場合は平たい画面にどう触れるか、ということになりますが、体験者のインタラクションを大事にしたいのであれば、インターフェイスからの想像力が必要だと思います。
また、どんなゲームでも、「快楽」を提供することが大事だと思います。例えば今回のテーマでいうと、腹筋の動作を繰り返すことで、犬の腹がボヨンボヨンと変化していくとかですかね。繰り返しなのか、指の動きの違いなのかはまだ分かりませんが、ユーザーがその体験を深める中で「そうきたか」と思わせる楽しさがあるといいですね。
和田:何か一つのルールを決めて、その感覚を追求するようなゲームということでしょうか。
伊藤:そうですね、その部分を極めてしつこく作ってほしいと思います。アイデアがあって試作をした後の、そこからの細かい調整が重要になります。触覚に訴えるゲームの場合は特にそうですね。ちなみに任天堂のゲームは、そのチューニング(調整)の期間が他社よりも断然長いのが特徴です。
今回のミッションとしては、短編アニメーション作家が食べていくための術の一つの答えを、和田さんが先陣をきって切り開くようなものなので、ぜひ儲かる作品になると嬉しいです(笑)。「すごく気持ちいいゲームなんだよ、これ」という噂と共に広まってほしいですね。
「試行錯誤」の期間が重要に
伊藤:これからは、どのようなスケジュールを考えていますか?
和田:これまで作った絵や動画が「Unity」の中でどう動くかを検討し、その後11月以降にプロトタイプを作り始める予定です。
伊藤:なるほど、すぐに実作に取り掛かるわけではないなら、まずは色々なゲームを遊んでみるといいかもしれません。制作の種になることが、他のゲームの一部に含まれるかもしれないので。
ただし次回面談が10月中旬予定で、最終面談が来年の1月くらい、というスケジュールを考えると、短期間で仕上げる必要がありそうですね。プログラマーには、試作を先行して進めてもらって、時間が空いた時に実験的な内容に取り組んでもらうのがいいかもしれません。短期集中でも試行錯誤する時間がとれるようにしたいですね。クオリティを上げたいと思うほど出し戻しは多くなるので、お金と時間についてあらかじめ考える必要があると思います。ちなみにプログラマーとのやりとりはどういう状況ですか?
和田:プログラマーはまだ決まっていないので、まずは確定させなければいけない、というところです。今お願いしようと思っている人は普段「Unity」で3Dを扱っているので、2Dにも挑戦したいと言ってもらえていますが、技術的な検討をする期間がある程度必要になりそうです。
ゲームの中でアニメーションをどう生かすか
しりあがり:ゲームのあり方を考える上ではご褒美的な部分、例えばレベルが上がったり、いいキャラが手に入ったりすることなどが、和田さんの作品の魅力と直結するようなものが良いのではないでしょうか。格闘ゲームの必殺技のように、こういう操作をしたときにキャラクターの特別なアニメーションが見られる、といったような、和田さんのつくったアニメーションがご褒美になるようなものも考えられますね。
僕も過去にゲームをつくったことがありますが、ゲームとしておもしろくなるかどうかは、ある程度できてくるまでよく分からないんですよね。そこよりは和田さんの作品世界を見せていくことが作家として大切かな、と思います。
伊藤:僕はどちらかというと、行為自体が気持ちよくて延々とやっていられる、それだけシンプルでいいような気がしています。
「Unity」を使うと「触感のある気持ちよさ」が比較的つくりやすいと思います。それは、手描きがメインの2Dアニメーションとの違いですね。物理演算で、犬の腹をボヨーンとさせたり、積み重ねたりといった動きは、「Unity」でつくりやすいです。そこに、和田さんが今までつくってきたアニメーションを掛け合わせて、うまく相乗効果が出る部分が見つかったとしたら、それはとても幸せな状態です。そのためにも、プログラマーが実験的なことに取り組める期間をとるのが大切なのではないかと思います。
和田:今回の目的の一つに、「アニメーターとプログラマーとの共同制作の可能性を探る」ということがあるので、今おっしゃっていただいたことはとても参考になります。まずはプログラマーを確定させて、試行錯誤する期間を多くとりたいと思います。
伊藤:そうですね、そのまま進めていただければ。ちなみに今回のゲームのプラットフォームは決まっていますか?
和田:まだ決まっていません。スマートフォン向けにするか、いわゆるゲーム機で開発するか、まだ検討中です。『Plug & Play』は主にスマートフォン向けですね。
しりあがり:この機会に、和田さん自身も「Unity」を使ってアニメーション作りができるようになれば今後のためにもよさそうですが。
伊藤:使ったことはありますか?
和田:いえ、ありません。
伊藤:今年、大学の授業に「Unity」を取り入れてみたのですが、3Dやアニメーションについて全く何も知らない学生でも、結構おもしろい作品をつくることができましたよ。チュートリアルを参照するだけでもいいので「Unity」でどういうことができるか知っておくとよいと思います。その方がプログラマーにも指示しやすくなりますしね。
―次回の中間面談では、プログラマーの選定や、作品の試作について話し合う予定です。