アニメーションの古き手法・ゾートロープなどの原理から着想を得て、見えない時間を実体化した作品『toki-』が第20回文化庁メディア芸術祭でアート部門審査委員会推薦作品に選出された後藤映則さん。今回採択された企画『Rediscovery of anima』(仮)では、これまでの『toki-』シリーズを起点に、古来より存在する木と太陽光のみで作品を制作し、歴史上発見されてこなかった映像表現や、そこから生まれる生命感を模索します。

アドバイザーを担当するのは、ソニー株式会社UX・事業開発部門 UX企画部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏です。そして初回面談にはマンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏も同席くださいました。

平面を立体的につなぎ、時間を可視化した『toki-』

後藤映則(以下、後藤):今回の作品は、これまでの『toki-』シリーズがベースになっています。『toki-』は「生物の動き」から作った立体を回転させ、そこにスリット状の光を当てることで生きものが動き出すという作品シリーズです。僕はもともと平面系のデザイン学科出身なのですが、ずっと動くものに興味がありました。そしてあるとき、「動くこと」と「時間」には強い関係性があると気付きました。時間がない世界は静止し、時間があるからこそ動くことができるので、時間に注目すれば、動きの本質的な側面が見えてくるのではないかと考えました。また、マイブリッジの連続写真やゾートロープを注意深く見ると、そこに並ぶコマ(静止画)とコマの間に見えない「時間」があることに気付きました。それを「モーフィング」の技術を使えば埋められるのではないか、と思いました。それがこの『toki-』シリーズを作り始めたきっかけです。平面を立体的につなぐと、時間の塊みたいなものができるというものです。モチーフには、自分自身が美しいと感じた動きを選んでいます。動きから時間の形をつくる性質上、美しい動きをモチーフとしてつくる時間の形は自ずと美しいものになるはずだと仮定しています。直近では「SXSW Art Program」(2017、アメリカ)で発表しました。

戸村朝子(以下、戸村):私もその展示を拝見しました。バレエダンサーの動きを使っていましたね。

後藤:はい、今はさらにアップデートしながら、「アルスエレクトロニカ」(2017、オーストリア)のコミッションワークとして新たな作品を制作中です。東京・六本木で開催される「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」(2017)でも、超空間や時空の話から発想した作品を作っています。こうして進めてきた『toki-』シリーズですが、これは現代の技術だから可能だというわけではなく、手法的にはシンプルなものなので、ゾートロープが発明された時代にもあり得た表現手法なのではないかと考えました。もしも、その当時に発明されていたら、現在の映像のあり方が変わっていたかもしれないと考えると興味深いと思い、そのあたりのストーリーを探っていきたいと考えています。
他方で、動くものへの興味を突き詰めていく中で、「生命感」のあるものに惹かれるのだと自覚するようになってきました。「動く」=「生命」。生きているものに興味があるから、動くものが好きなのではないかと。動かないものが動いたときに魂が宿る。「アニメーション」の元になった「アニマ」という言葉には、「魂」や「生命感」の意味があるので、それを今回の方法でも発見したいという思いがあります。
制作には、ゾートロープが発明された頃の1800年代前半にあった素材(木)や工具の使用を想定しています。光源もプロジェクタではなく自然光(太陽光)で作ろうと考えています。

戸村:この事業の選考会でも、「この作品を見てみたい」という話で盛り上がったことを覚えています。電気仕掛けのデバイスそのものの存在の中で表現されている、既視感もあるようなものが増えているなかで、後藤さんのunplugged感というか、そういった部分を感じさせないところが目立っていました。当時あり得たであろう表現手法の進化を今やる、というところがおもしろいですね。今回の支援プログラムをきっかけに、実験的でいいのでこれまでできなかったことに取り組んでもらいたいと思います。

和田敏克(以下、和田):今回の作品は『toki-』シリーズの一つとして考えていますか。

後藤:それはまだ検討中です。「時間」というテーマはベースにあるので、位置付けについて迷っているところです。

和田:まずは作品を見てみたいという気持ちが大きいです。今回の作品のモチーフは人間の動きに特化しようと考えていますか。

後藤:はい。いろいろな動物の動きでも実験してみたことがあるのですが、結果、人間の動きが一番美しいと思っています。同じ人間だからなのか、惹かれます。それは、より「意思」を感じるからなのかもしれません。モチーフは人間で、それもプリミティブな動きがいいのではないかと思っています。

和田:そうですよね。動きの違いは作品の中で見えてきた方がおもしろいと思います。長い動きがあったり、短いものがあったり。人の動きのポーズ数はいくつくらいになる予定ですか?

後藤:動きによってポーズ数が変わることから、これもまだ未定です。動きが長いとポーズ数も増えて、逆に短いと少なくなる、という性質があります。

過去の作品『toki-』を見ている様子

仕掛けのおもしろさだけで終わらないために

和田:僕もモチーフは人間がいいだろうとは思います。見る人の意識は、最終的にその人間のポーズや動きに対して残っていくと思います。気を付けたい点は、「こういう仕掛けができた」ということだけに終わってしまうともったいない、というところですね。

後藤:そうですね、それぞれ違う背景を持つ方々から「これはアニメーションなのか、アートなのか、イリュージョンなのか、エンターテインメントなのか」と問われることが多いです。

戸村:作品があまりにエレガントなので、コマーシャルワークになりやすいのだと思います。見る側の余白に対して、どう働きかけるかがポイントです。

後藤:今回の作品をきっかけに、一人では考えなかったようなことにもチャレンジしてみようと思います。

和田:作品の大きさについてはどのように考えていますか。

後藤:作品全体の大きさはまだ検討中です。サイズが大きいと解像度も上がり、例えば髪の毛の流れを表現できるくらいになります。

和田:ゾートロープからの発想だと、卓上型で考えがちですけれど、それだとやはり「面白い仕掛けが動いた」で終わってしまう。見る人に「動いているもの」や「時間そのもの」が迫るようなものを目指しているとしたら、大きさも一つの力になるような気がします。

後藤さんの過去作品『tokiー BALLET #01』(2016)の記録映像

和田:この作品のように、人間の動きが一つのアクションのループだと、その美しさがどこまで伝わるかが不明かもしれませんね。アニメーションの考えでいくと、もう少し複雑な動きが求められると思います。それから、動きそのものに何かを見出したいですね。または一つの作品の中にいろんな動きが同時にあるような、いわば「群衆」という切り口もあり得るのではないかと思います。

後藤:動きを縦に重ねていけば、「バベルの塔」のように段状に重ねて回転させるということも考えられますが、ブランコのように吊って往復運動で動かすアニメーションだったり、揺らしたり、投げたり、といった新しい構造も考えられます。

和田:揺れて、ノアの方舟のような、あるいはブランコのようなものもおもしろいですね。

後藤:動力として、自然の風を利用するという方向もあるかなと思っています。

ゴールは遠くに据えて

しりあがり寿:ゾートロープなのか、動きなのか、もう一度本当にやりたいことをシンプルに絞った方がよいかもしれません。この作品は、芸術にあまり関心のない人にも興味を持ってもらえる直感的なおもしろさがあると思います。加えるとしたら、何か「凄み」みたいなものが欲しいですね。お二方もおっしゃるように、単に仕掛けがおもしろいというだけのものになってしまったら、もったいないと思います。

後藤:僕の作品にとって、得体の知れない「凄み」のようなものはもっと必要だと思います。自分自身、きれいに仕上げたいという気持ちが出すぎているのだと思っています。

和田:「発見されなかったアニマ」をテーマにストーリーを考えてみてはどうですか。

後藤:はい、コアとなる部分をどこにおくかを考えます。光が動くことを「アニマ」、つまり生命感につなげられそうだとは感じています。仕掛けだけにとどまらず、その背後にある「時間との関係」までうまく表現できたら、と思っています。

戸村:解決されていそうで、まだ考える余地があるような。このプランに票を入れた理由はそこにもあります。アドバイザーとして、作品づくりのプロセスを共に歩みたいと思っています。

後藤:自分でもいろいろと迷っている部分があるので、今回のプログラムを活用して相談できればうれしいです。本日お話をして、とくにモチーフの選定が重要になりそうだと感じました。今後、彫刻の指導者とも具体的に話を進めながら、検討していきたいと思います。

―次回の中間面談では、木彫協力者との打ち合わせや、モチーフを検討の結果などが報告される予定です。