有坂さんは、クリエイター集団「最後の手段」として『やけのはら「RELAXIN’」』で第17回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門の新人賞を受賞しました。今回採択された企画は『おにわ』というタイトルの実写のコマ撮りやコラージュ、線画のアニメーションをミックスしたアニメーション作品です。古民家を短期間借り受ける予定で、そこを舞台とした大規模な実写コマ撮り撮影に挑むそうです。
有坂さんのアドバイザーを担当するのは、マンガ家のタナカカツキ氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
―今回の面談では初回ということもあってか、緊張気味の有坂さんですが、改めて企画のコンセプトを語ることから面談は始まりました。
「生と死」の境界を行き来するような世界観で
有坂亜由夢(以下有坂):おじいさんが作る庭というものに興味があって、あれを死からの視点でこの世にあっちの世界のものを持ってきているように感じられることがあって、それが今作のきっかけです。いろいろな空間を巡る感覚、深くまで潜っていってドロッとしたものを「はい」って渡すような、原始を感じられるような映像を作りたいと思っています。
―登場人物であるおじいさんの登場シーンなど、おぼろげながらも形になりつつある作品のイメージを語る有坂さん。東京藝術大学の大学院在籍時に終了制作として制作した『深山にて』の映像を見せながら、主人公の登場場面のイメージを語ってくれました。
有坂:古民家を借りる場所を探しているのでそれが決まるまで絵コンテを進めて、民家が決まったら模型を作成し、それを用いたアニメーションを制作する予定です。
タナカカツキ氏(以下カツキ):とりあえず、次回までに借りる民家が決まっているといいですね。今回のプロジェクトというのは、予算書を作って、アドバイザーがいて、成果発表がある。こういったかたちの制作機会というのは極めて特殊だと思う。なので、せっかくのこのような機会をどのように利用できるかを考えてみるとおもしろいんじゃないだろうか。
田中秀幸氏(以下秀幸):いろいろな表現が混ざっているけど、その中には、ずっとこのまま見ていたいと思わせるようなものがある。どのようなアプローチで制作に挑み、従来の作品とはどのような点で異なるのかを明確にできるといいですね。
修行ではなく修行の成果を
―有坂さんのなかで、制作に対するスタンスや表現したものの根底にあるものは、まとまっているようですが、今回の作品にそれをどのように落とし込んでいくのかが課題になっているようです。
有坂:絵コンテが現状でまだ完成していないのが、課題だと思ってはいるが、これまでも絵コンテは制作途中で何度も変更しながら作品を作ってきた。また、コマ撮りをしているときなどは、単純な作業なので、修行をしているような気分にもなるが、長時間続けているとそれが心地良く感じられて、思ってもみなかったいい表現に仕上がることがある。
秀幸:制作をしながら絵コンテが変わっていくことは悪いことではないと思うし、制作に没頭する時の気持ちもよくわかる。これまでの有坂さんの作品を見てみると、ひとつの作品にいろいろな表現技法が織り交ぜられている。今回も同じような作風にしたいのか、それともある意味で集大成ともいえるような、これまでの表現を精練した作品にしたいのか、方向性は決めておいた方がいいと思う。
有坂:そういった意味では、集大成になるようなものを制作したい。
秀幸:修行ではなくて、修行の成果のようなものが作れるといいですね。
作品が完成したあとのこと
カツキ:有坂さんは今回のこの企画で作品が完成したあと、その作品をどのようにしていきたいですか。例えばコンペに出すことなどが考えられると思うけど、それ以外にもどんな形で発表したいとか、そういったことは考えていますか。
―そのような質問を投げかけるタナカさんは映像作品を完成させることがゴールなのではなく、そのあとのことを強く意識されていました。優秀な映像作品が完成しても、そのまま埋もれてしまうような状況を非常にもったいなく思われているそうです。
有坂:それについては映像だけでコンペにも出したいですが、ウェブで公開するのではなくて、その場に行かないと見ることができないような展示をしてみたい。できれば音楽もその場で誰かに演奏してもらったり、空間も自分でプロデュースできるのが理想です。
秀幸:本当にそれを実現させるかどうかによって、今後の計画を立てていった方がいいですね。
カツキ:今回の作品で次のステージに行ければいいなと思っています。
―次回の面談は9月を予定していますが、それまでに撮影の舞台となる古民家を確定すること、具体的なイメージを提示できる段階まで制作を進めることが課題となりました。